第14話 お洒落はがまん

 数週間が経ち、ハロウィーンの季節がやって来た。今日もまたお姉ちゃん家にやってきている。毎週来てしまって悪いと思っているけど、うちに呼ぶわけにはいかない。家から出てきた彼女は一段ときれいな格好をしていてつい見惚みほれてしまう。そうしていると恥ずかしそうに体を寄せてきた。

「可愛いかなあ?」

「すごい可愛いよ!」

「やったぁ。いじくりたかったけど今日は我慢ね。お洒落しゃれは我慢」

「僕のお洒落だよね?」

 まだ、紅葉も見えない夏のような暑さだが、今日はハロウィンの準備だ。というのも今度ハロウィンパーティーをすることになったのだ。お姉ちゃんやいとう……茉生まきちゃんたちの8人パーティー。そもそもパーティーなんて柄じゃないし、こういう季節イベントなんて各々がグループを組むから参加したことがない。茉生ちゃんに誘われたとき、隣にしずくもいて、不安そうな顔をしていた僕をこうやって買い物に連れ出してくれているわけだ。頼りになる人だ。第一の目的は衣装選びらしい。ハロウィーンパーティーといえば仮装、そんなことはとうに忘れていた。仮装……何か。仮装。茉生ちゃんに誘ってもらったのは火曜日。あれからたくさん調べたけど、ドラキュラとかの鬼や悪魔とかお化けが無難ぶなんらしい。そのつもりでいたんだけど、お姉ちゃんが良いアイデアがあるって言うから、手を繋がれて彼女の背中についてきている。こうしていると本当のお姉ちゃんのようでお外なのに甘えたくなっちゃう。お店の前で座らされる。見るからに女性向けファッション店だし、さすがに入るとまずいからだろう。数分して彼女の姿が見えた。両手にお洋服を持ってこっちに来てと合図する。気がひけたが店に踏み入れる。そのまま試着室に連れてこられた。僕に見てほしいってことかな?

「ん!」

 服を差し出された。持っといてあげるのは別にいいし、受け取る。

「ん!」

 腕をつかまれ試着室の中に連れ込まれた。試着室で二人きり。僕は思わず赤面して顔を手で覆う。顔をおおっていたらズボンを脱がされた。

「だ、ダメー!」

「びっくりしたー! 大丈夫だよ」

 何が大丈夫なのか。顔を覆っていた手に涙が滲む。気づけば彼女は座って僕の顔を見ていた。僕は手を外しいじくられていた下半身を見る。足元まで垂れるヒラヒラ。この前のより柔らかいけど何か理解する。ロングスカートだ。このお店、女性向けだったもん。

「お、お、お姉ちゃん、は、ぼ、僕に、ハロウィンも、女装、してほしい、の?」

「嫌?」

 嫌に決まってるだろうが。

「み、みんなの、前で?」

「うん」

「む、無理だよー」

「お姉ちゃんも一緒だよ!」

「ほんと!? じゃ、じゃあいいよ」

 パシャリ

「ひゃっ」

 盗撮は犯罪だよ。

「言うこと聞いてくれてありがとう」

 頭をでられている。嬉しい。最近の僕はだいぶおかしい。


「えーー!!」

 出費五千円! お姉ちゃん、ううん雫が会計してくれて悪いと思って金額教えてもらって払ったんだけど、あれあんなに高かったの? 女子って怖い。パーティー一回にそんなにお金かけるんだ。僕はこういう機会がないから、たまにはいいかな、でどうにかなるけど……。恐るべし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る