第二章 ハロウィン編

第11話 体育祭表彰式

 体育祭が終わり、二日後の金曜日に表彰式が採り行われた。壇上には紅組の応援団のうちでも騎士団と呼ばれる団長、副団長、旗手、太鼓手の四名、白組の団長、そしてこうくん。香くんにこのことを伝えるのは昨日になってしまった。

 おととい、速水はやみ団長が帰ったあと、彼が目覚めるのを待っていると、彼のお母さんがやってきた。

「すみません。篠田しのだ香の母です」

 先生が連絡したらしい。でも、また先生がいないタイミングの来客だった。

「は、はい」

 緊張してカーテン越しに返事をすると、ガラガラとカーテンが開けられた。明るくて少し眩しい。

「あら、こんにちわ」

「こんにちわ」

「先生はいらっしゃらないの?」

 私には目もくれず、周りを見渡していた。

「さっき、出てしまって……でも、すぐ戻ってくると思います」

「そう。付きっててくれたの?」

 やっとこちらを見てくれたお母さんから視線を反らすようにコクりと首を縦に振る。

大分だいぶ可愛かわいくしてもらってるわね。あなたがしてくれたの?」

 香くんのお母さんは我が子の髪を見て言った。そういえば寝るのに邪魔だと思ってハチマキとゴムだけほどいてピンはそのままにしてあげてたんだ。私はまた首を縦に振る。

「ありがとうね。仲良くしてくれて。お名前は?」

橋本はしもとしずく

「雫ちゃん、香ね、この前小学校のときの運動会を見ていたの。当時、父が撮影品物ね。急にどうしたのかと思ったのだけど……。ごめんなさい。誰だって回顧することぐらいあるわよね。私、少し心配になっちゃって。これからも香と仲よくしてあげてね」

 ガラガラ。先生が入ってきた。先生は香くんのお母さんと話をし、香くんを起こし、見送る準備を整えた。先生がドアを開けたとき、お母さんがこちらを向いた。

「雫ちゃん、あなたも送るわよ」

「い、いえ」

「我が子を見守ってもらっちゃって可愛い女の子を一人で返せません」

「部活とか塾とか、別にこのぐらいの明るさなら…」

 こういう人を断り切れる中学生なんてごく一部だろう。本来なら先生が止めるべきだが、間に入ってきてくれる様子はない。私は彼をここに連れてくるとき、先生に放った言葉を思いだした。

『私、彼の…親友ですから』

 あのときの先生の反応は少し不自然だった。変に気を遣われているのかもしれない。諦めて香くんと車に乗ることにした。やっと目を覚ました彼と同じ空間にいる。数時間待った話を出来るチャンスが来た。隣に座らされてもらったけど、家を案内していて一言も言葉をわせなかった。彼が眠そうだったのもあるけど、空気が冷たく重かったのも要因だと思う。

 翌日の朝、彼と挨拶を交わして一番に速水はやみ先輩のことを話した。彼は数日前から、毎朝挨拶をしてくれるようになった。だからわかった。そのときの声はいつもより暗くて車での空気に近かった。3人でする会話などないし、とはいえ2人で話すこともできなかったあの空気。本当は、頑張ったね、と頭を撫でてあげたかったのに、ぎこちない業務連絡みたいになってしまった。一日中、本とともに暗いオーラを放っていた。今まで気にしていなかったとかではないはずなんだけど前より更に暗く見えた。隣の席に座っているはずなのに遠くにいて、まさかあの日の可愛かった妹だとは思えない。帰ってきてからもずーっとそんな彼のことを考えてしまった。部活中にもゆんちゃんにぼーっとしてるよと何度心配されたことか。

「はぁ。香くん……」

 式台に立つ彼を見ながら声を漏らした。れた声に慌てて口を塞いで周囲を見渡しているとするどい視線を感じたがきっと気のせいだろう。

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