第9話 経験値の差
******香側の視点に戻ります******
はあ、はあ、はあ、はあ。息が荒い。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。心臓も早い。
わかってる。僕は緊張している。今にも貧血で倒れそうだ。今回は原則各クラス二人ずつの八人で一レースが構成される。なのに、溢れた人数で走る予定の最終レースの三人に選ばれた。並びを決める際、いつも通り話し合いに参加せず、決められたときにこうなったのか。森くん……のことは責められないな。ここまでは、既に知っていたが、今になって更なる問題が発覚した。三人のうち一人がクラスに欠席者が出たことを良いことに欠席者のレースに入ってしまい、結果的に最終的に僕と野田くんの一騎討ちの形になったこと。野田くんの噂は校内でも割と流れている。きっとエキシビションマッチでも見守る気分で見られるのだろう。でも、僕は勝たなくちゃならない。お姉ちゃんと約束したから。お姉ちゃんって。僕、本当に単純だよな。でも、それだけじゃない。お姉ちゃんの言っていたように、これ以上舐められてしまうのは面倒な気もする。自分のレースまで、あと3レース。よく見えなかったけど、お姉ちゃんは一位を取っていた。さすがだ。問題なのはどうやって勝つか。野田くんはおそらく、いや間違いなく早い。噂が回るには二年生にしてエース級の活躍が求められる。それを為す人なら、まともにやっても詰められるところなんてないだろう。
「あ!」
思わず叫んでしまった。スターターの音に書き消されたが周りの人には聞こえてしまったか。一瞬こちらに視線が集まる。自ら確認しながら圧倒的な差を知ってしまった。
「緊張してる?」
野田くんは優しい口調の裏できっとからかってきている。のらされちゃいけない。自分の世界の中で落ち着かなくては。そういえば、点数ボードは……86-94。負けてる! 今でた前のレースの結果は……。
『―――ワンツーフィニッシュ!!
―――これにて紅7点、白3点が加わり93-97!! 次は一騎討ちのため、勝者4点、敗者0点の配点です』
実況が盛り上がってる! 思い詰め過ぎて実況なんて聞いてもなかった。自分もされるんだよな。それに接戦!? 勝って同点か。正直勝敗を気にした体育祭なんてしたこともない。いつもは憂鬱に浸りながら競技を一つ一つこなしていた。例に違わず、今日も勝敗を決して気にしてはいない。でも、自分のこのレースの勝敗を気にするということは、実際全体の勝敗を気にするということで……
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、……
さっきよりずっと早い。痛い。野田くんへの声援ばかり聞こえる。完全にアウェー試合だ。
―――香くん、頑張って!
!!!
すーっ。深く息を吸う。ふーっ。呼吸を落ち着かせろ。一対一。僕のこれまでのすべての経験で勝つ!
―――位置について!
野田くんはクラウチングか。僕は影響されない。スタンディングスタート一択。不恰好でも勝てばいい。
―――よーい
このスターターの間合いは18回確認した。ここで倒れこ……
―――パン!
よし。決まった。あとは前へ前へ。足を前へ。上に引かず前へ。
痛っ! 筋肉痛のことへ全然意識が回ってなかった。午前中には来なかったのに。何で今。つっ、攣るぞ。でも、緩めたくない! どうせ、あと数秒だ……
バタン!
『―――おっと! ゴールまであと一歩のところで倒れてしまったー! 横から白の野田選手ゴールです!』
白で歓声が上がった。
「陽貴、カッコいいよー!」
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