第14話 願書提出期限をめぐる議論がなぜ薄っぺらいか?

 ネット上の意見は、一昔前はほんの0.1%以下の火付け役が燃やしていただけだ、という話がありました。だから、過剰に反応する企業や世論が滑稽でした。


 今も構造はそう大きく変わっていないかもしれませんが、しかし、昔よりは普通の意見も増えているのではないでしょうか。


 と考えたとき、「公立高校への出願の締め切り時間を間違えて受け付けてもらえなかった中学生3人」という記事が出回りました。どれくらいの知識水準、考察の水準なのか確認するのにちょうど良さそうなので少し丁寧に読んでみました。

 この言説を見る限り、結論として「高校が気を利かせろ」か「ルールがある以上高校の対応が当たり前」に二分していたようです。


 中をよく見ると「気を利かせろ」派の言葉が乱暴で結論ありきの意見が多い感じで社会経験がないか、燃やすために燃料をくべている感じがしました。「当たり前」派の人は「それがルールだから」とありました。まあ、その通りなんでしょうけど、そこから先の言説がないですね。一旦許すと歯止めが効かなくなるということを強調される人は多かった気がします。


 公務員は気を利かせてはいけません。公務員の性質上「不平等な扱い」がなじまないから、という点があげられると思います。


 「竜馬がゆく」を読んだことがある人はピンと来た人もいるかもしれません。門番が竜馬を脱国した人間を藩邸に入れるわけにはいかないとルール通り追い払いますが、あとから竜馬を探していたエライさんが来て「なんて気が利かないんだ」と一旦は怒ります。が、後から「いや、門番という役人が気を利かせてはいけない」と反省します。


 そう。彼らの役割はルール通りに仕事をすることです。それが下級役人の存在意義です。なぜか?行政サービスを運用する立場だからです。法と規則に乗っ取って仕事をすることを要求される立場です。法の下の平等にもかかわってきますし。


 実利的な事を言えば、「気を利かせる」が蓄積すると、不規則業務が増えて残業・紙資源・電気代等の税金の無駄使いになります。その点でもルール通りの原則が必要となります。


 それと「公務員の無謬性」を考える人もいるかもしれません。公務員は間違いません。間違いがあっても全力でそれを否定します。今回も「気を利かせれば」と後付けで言われても、一旦判断した以上は絶対に訂正しません。ネットで騒げば騒ぐほど修正しないはずです。それが「無謬性」です。


 公務員の怠慢として「無謬性」が議論されています。大日本帝国憲法以来の傲慢な「お上」意識だ、と。まあ、そういうこともあるかもしれません。が、違うのです。無謬性とは絶対にルール通りに運用するのだ、という役人の有るべき論なのです。それが官僚・役人の有るべき姿なのです。先ほども言いましたが、だから、願書の受付は出来ません。それは無謬性に疑問を持たれてしまう行為だからです。


 例えば、間違いを安易に認めることで損害賠償の案件が増えたらどうなるでしょう?被害者様が可哀想だからいいですよ。全部税金で支払います、などと言い出したら言ったもん勝ちで全部税金が消えてしまいます。訴訟で行政官僚が最後まで戦うのは、この無謬性の原則から言って間違った判断をしていないのだ、という役人の性質なのです。


 さて「下級役人は」と何度も言いました。願書の例でも分かるとおり、抜け穴ですよね。それが議員です。本来あってはならないと言いたいですが、それが「地元

」であり「後援者」です。

 下級官僚に駄々をこねても無駄です。それが下級官僚の正しいやり方です。トップクラスでしかも立法サイドの議員をどう使うのか、です。それが地域というコミュニティであると言う事ですから、正論で騒いでも解決はないです。


 今回も私立中学ということでいろいろコネはあるでしょう。該当の公立高校に近い議員に上手く渡りが付けば、ということだったと思います。あるいはこれだけ騒げば県知事辺りが助け船を出すかもしれませんが、官僚サイドは反対するでしょうね。ここまで話が広まった後でやるわけには無謬性の観点から行かないでしょう。


 フェミとはあまり関係ありませんが、ネットの世論のバトルが薄っぺらい例として書きました。

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