第10話 社会を知るためにROEや資本コストを理解する。

 資本主義を理解するために各種指標をおさらいしましょう。


 PERとは1株当たりの株価と1株当たりの純利益を比較したものです。株価収益率といいます。例えば株価が2000円で、その企業の発行株式数が1億株、純利益が100億円なら、一株当たりの利益は100円ですから、PERは20倍ということになります。


 PBRは1株当たりの株価と1株当たりの純資産を比較したものです。株価純資産率といい同企業の純資産が1000億円なら、1000億円÷1億株=1株当たりの純資産1000円で、株価が2000円ですからPBRは2倍と言うことになります。


 PERもPBRも結果的にどれだけ純資産が増えるのかと言う指標です。つまり純資産の利回りの期待値が株価になるということです。違いは配当や包括利益に含む項目がありますが、それほどの違いはありません。


 PER÷PBRを考えると、1株当たりという項目がすべてに含んでいるので、省略することができます。つまり株価とはイコール時価総額のことです。

(時価総額÷純利益)÷(時価総額÷純資産)=純利益÷純資産のことで、ROEになります。ROEが株式投資を考える上でいかに重要な指標かわかると思います。


 これらの事から、株価は純資産と純利益と密接に関係があることがわかります。ただ、その利益が期待より小さいあるいはマイナスになることもあります。倒産=純資産が吹き飛ぶこともあり得ます。それがリスクです。リスクを承知で持ちますので、株主は企業の業績がリスク以上に+になることを期待します。


 その期待値がβです。βは共分散を使うやり方が紹介されていますが、株価の上下変動が極端でない企業の場合は計算結果は1次関数で十分です。ある期間の日経平均株価の利回りが年平均4%、計算したい企業の株価の利回りが5%なら5÷4で1.25です。


 このβを使って資本コストを計算します。資本コストは例えば国債の利回りなどほぼ危険=リスクがないレート、リスクフリーレートとの差で計算します。

 国債の利回りはまあ完全なノーリスクとは言いませんが、ほぼノーリスクです。だからリスクフリーです。国債の利回りが1%のとき、保有している株価の利回りが1%なら頭にきますよね。


 リスクフリーレート+β×(日経平均やトピックスなどの利回り-リスクフリーレート)です。

 これを見ればわかる通り、βとは要するに市場全体の銘柄の株価の変動率に対し、どれだけ株価が変動しやすいのかを計算していることがわかります。そしてハイリターンの銘柄は=ハイリスクという前提になっています。


 資本コストとはつまりROEのハードルレートになります。上で見た通り株価形成にはPERやPBRが密接に関係します。本来は純資産と時価総額は一致していればいいのですが、それを許さないのがβであり資本コストです。これが将来に向けた企業の成長の目標になります。


 資本コストとは企業が株主から資本主義の前提として目に見えない形で課せられた義務です。株式と言う形で資本主義が成り立っている以上は、必ず(失敗することもありますけど)ROEは資本コストというハードルレートを超えなければなりません。


 また、日本の株価形成で公表利益から計算する予想PERというのがあります。話によると海外ではあまり重要視されていませんけど、要するに公表利益で先食いで株価が形成されます。なので公表利益が日本の株式会社では非常に重い数字になっています。


 なお、資本コストが要求されるROEなのに対して、有利子負債の平均金利も企業は最低限稼がなければなりません。資本コストと有利子負債の平均をWACCと言いこれが企業の目標となるROA(当期純利益総資本割合です。日本式の場合経常利益を用いたりもします)のハードルレートとなります。

 一時レバレッジ経営が持てはやされてその後企業会計不正(エンロン)で下火になりましたが、レバレッジ経営の健全性を判断するのは簡単で有利子負債と純資産の比率の逆数で補正すればいいだけの話です。


 さて、ここで資産の中身を見る必要があります。資産の中身に償却資産が含まれている場合。この場合は減価償却費は、投資金額を償却年数で割ったものですから、償却年数が適正でかつ減価償却費を含んで黒字ならキャッシュベースでは投資回収できていることになります。ただ、赤字になった場合は資本コストやWACCどころか、投資回収ができていないことになります。


 ここが分かると減価償却費とか減損会計における割引後将来CFの理屈がわかります。また、リースや家賃を資産計上、負債計上する理由も分かります。


 これらが理解できると、GDPにおける民間投資が利益の先食いだということがわかります。償却資産以上に付加価値生産性がないといけません。ついでに言うと、GDPは民間の住宅ローン、オートローンなどを先食いしているので家計債務比率もGDPの質として注目する必要があるでしょう。MMTが絵に描いた餅なのは、結局経済は民間の消費余力=企業の利益成長=付加価値生産性によってきまるので、結局は民間企業が元気にならないといけないし、消費が増えなければなりません。


 だから、法人税と消費税が高い事が問題だし、失業率が景気の重要指標だし、何より少子化=消費の先細りが最大の経済リスクになります。


 以上のように、企業が成長しなければならない理由があり、企業が成長するためには消費者に金を使わせなければいけません。GDPは消費支出+政府投資+民間投資です。民間投資も結局は消費支出を産み出すためのものです。つまり、消費支出と民間投資はすなわち企業業績と密接に関係します。経済成長=GDPの成長を止められないのが資本主義の宿命です。


 このことを理解していないと資本主義は語れないでしょう。そして資本主義の本質を知らないと、フェミニズムも環境も語れないと思います。また、プロテスタンティズムの予定説における現代的な天職とはすなわちROEの大きさです。経済成長、利潤追求は我々に課せられた資本主義の呪いです。その中で暮らしていることを忘れてはいけません。








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