第27話 二度目の危機

 深夜二時過ぎ――。

 泊まっていけとの先輩の命令なので、私はまだ、アビス先輩の家にいるわけだけど……。


「アタシは本当わぁ、魔族の後輩がほしかったのぉ」

「はいはい、私が悪かったですね……」

「あなたみたいなぁ、生意気な後輩が入ってきてー、むかついているわけぇ。分かるぅ? アタシのこのきもちぃ」

「はいはい、分かります……」

「魔女のくせにぃ、物分かりがいいじゃなぁぃ。むにゃむにゃ……」


 寝言を言っている、酔っ払い上司……。

 どうしたらいいんだろう……。


 そのまま適当に放置して、空いているベッドを私が使えばいい感じかな。

 私は客人だし、ベッドで寝ても文句は言われないと思う。

(後輩として正解かどうかは、別問題だと思うけど……)


 ちなみに私だけど、全くと言っていいほど酔っていなかった。

 そんなに飲んでいないのもあるけど、アルコールは毒素に近いので、結構早めに中和されている感じ。

 多分、意識して魔力を使えば、ガンガン飲んでも全く酔わないと思う。


 しかし、お手あら――、

 アイドルのお花摘みは我慢ができなかった。


「トイレ、どこだろう……」


 私はお花を摘むべく、べたつく先輩を脇にどけて、人の家の探索を開始する。


「んっ!?」


 しかしその途中、元から酔いは回っていなかったけど、思考が一気にクリアになった。


「あー、めんどくさいことになりそう……」


 広域の索敵に敵の反応あり。

 私は玄関から外へと出て、その敵への接触を図るのだった。


       * * *


 実を言うと、私は内心、かなり焦っていた。

 敵の反応には身に覚えがあり、かつ、私の前に堂々と姿を現す人物とは思えなかったから。


 アビス先輩の自宅から1キロほど先のビルの屋上で、私は今のところ敵だと認識している人物と相対する。


「なんであなたが、ここにいる」


 右腕のない魔族の老人。

 クリスマスの日に暁月アリス先輩を奪いに来た張本人。


「久しぶりだね。〈エクリプス〉の魔女のお嬢さん」


 前回と同じく茶色のコート。

 同じ色の深い帽子を左手で取り、紳士的なお辞儀をしてくる。


 これは二度目の危機、その前触れだった。

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