Karte.35 A new story
兎にも角にもこのルーシーという女性が一体何者なのか?
気になっているのはそこだろう。
「皆そんな葬式みたいな顔しないで!! Smileだよ! スマイル」
人さし指を頬にあてて、首を傾げるように彼女は笑ってみせた。
「あのなぁ……お前って奴は……」
我生はルーシーの対応にお手上げの状態で呆れた顔をして目を閉じた。
相変わらず全員の涙もひいて、ぽかんとした表情をしている中、彼女はバズーカのように抱えていたアタッシュケースを
「ま、いいじゃない! ほら約束通り……これ持ってきたんだから」
「だが、場の空気というものをだな……」
「え〜いめんどくさい〜! 茉莉ちゃ~んもういいよぉ」
「ふあぁ…待ちくたびれたよルーちゃん、死んだフリも楽じゃないわ」
茉莉は上体を起こし伸びをして、腕や肩をほぐすようにストレッチをしながら担架からそっと降りた。
「え? お母さん!? 死んだフリって?」
止まらぬと思ったほどの涙を流し、唖然としたあとの衝撃に全員の感情が追いつかない。
「ごめんね。
茉莉はそう言って舌を出しながら手を合わせて謝った。
「ちょっと! どういうことよ! 説明しなさい我生!」
実花も納得いかない様子で詰め寄る。
「すまない…敵を欺くにはまず味方からと言うだろう。今回この作戦を遂行したのには、ちゃんと意味があったことなんだ」
「お母さん!」
思わず景は母親を抱きしめた。何が何より一番に気を動転させていた原因はそこなのだから、話の筋よりまず無事で良かったと伝えることのほうが先だった。
「ごめんね。景、我生さんに相談して色々頼ったのよ。それを今からちゃんと説明するから」
「う、うん」
「よかった!」
「うん! よかったね!」
零花と瑠璃羽は目を合わせて笑い合ったが、先の一見を気にしていたのか、一瞬だけ零花の表情が曇ったように見えた。
そして景と茉莉に割って入るようにルーシーは歩み寄る。
「それより〜しぶりおひさだよぉ♡(おひさしぶり) 景くん元気だったぁ??」
ルーシーは鼻と鼻がくっつく程の距離で景に近付いた。
「わぁぁ、えっえっ!?」
「かわいっ♡」
「あ、あの、どこかで会ったことあります、ありましたっけ??」
景は動揺して答えた。
「えぇ~! あたいとのあんな日々やこんな日々を忘れてしまったのぉ〜? 景くんったら酷い〜!!」
「ルーちゃん多分覚えてないわ……景は一部の記憶を消されている」
「なんだぁ……やっぱりそうなのねぇ」
残念そうな顔をしてルーシーは景の頬を撫でおろして艶めかしい表情をしてみせた。
「ちょっと!!! あんた何なのよ?! 急に現れて景とはどういうご関係で!?」
そこに割って出たのは零花であったが、いつになくヒートアップしている様子である。
「貴女こそ誰かしら? 景くんは貴女みたいな子より、あたいのようなナイスバディの子のほうが好みだと思うわ」
「あら、それはあたしがナイスバディじゃないとでも言いたいの!?」
「どこからどう見てもあたいのほうが良い体しているわ! その貧相なおムネ……」
「誰が貧相よ!! それに大きいからって良い体とは限らなくってよ!!」
確かにルーシーはモデル体型であるのと同時に、メリハリのある体をしていて、零花も痩せ型ではあるものの対照的だ。
「まあまぁ零花も今日はやけに負けん気ね」
実花が宥めるように二人の肩をぽんっと叩き、割って入った。
「だって! あのあと気になって見に行ったらずっと瑠璃羽ちゃんの家にいたみたいだし、ルーシーとかいう謎の女が現れるし!! 何なのよ!?」
「零花ちゃん?」
「あ……いやその……」
瑠璃羽と景に鉢合わせたのが偶然ではないことを、舞い上がって喋ってしまった。
「お取り込み中に申し訳ないが、あとにしてくれないか?」
脱線した話を取り戻すように我生は話したが、一度宥めてからというような器用な心は、彼は持ち合わせていない。
「そうだったわね。あとで話聞くから……ね?」
実花の一声で「う、うん」と零花は頷いたが、零花とルーシーは顔を見合わせて「ぷいっ」とする仕草を見せた。
「とりあえずルーシーありがとう。よくあそこに潜り込めたな」
「えへっ♡ 我生ちゃん、もっと褒めて〜! スパイ映画大好きだからね! てれってれー♪てれれー♫つって」
ルーシーはアタッシュケースの持ち手を両手で持ちかえ、顔の近くで銃を構えるようなポーズをして答えた。
「どうやったんだ?」
「うぅん、同級生の子に頼んで偽名使って? だからあたいの存在は気付かれていないので〜す♡」
「流石と言うべきか……いよいよルーシーという名前すら本当か怪しくなってきたな」
「失礼な! ルーシーは本名よ!
「そんな名前だったのか」
「あれ、言ってなかった? みんな覚えてね♡しくよろ〜」
振る舞いはまるでアイドルのようである。
「茉莉さん、我生、ルーシーちゃんは私たちの知らない所で動いていたのね。言ってくれれば良かったのに」
「言えない理由があったんだ。それも含め説明がいる。会議室を用意したからそこで説明しよう」
そう言って我生が先導し案内しようとした。
「待って! 一人足りないわ! 明快くんも呼ばないとねっ」
ルーシーは言った。彼女は全てを知っていると言わんばかり、まるでそんな素振りだ。
ここから全てが繋がるような話の流れをルーシーが繋いでくれる。
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