Karte.11 MULTI PERSONALITY

「咄嗟に飲んでしまったけど、凄かったな。何だあの感覚は……」


 数名残された教室の窓側の席で、景は遠くのほうを見つめながら、人には聞こえない声で囁いた。


 気付いたら……ということがよくある。

 そして事が過ぎてから、起こした現実にただならぬ違和感を覚えるのだった。

 そして一時的ではあったが、景は超人と化した気分になっていた。


 そして、自分が自分では無くなってしまいそうな恐怖感、白から黒に塗り替えられていくような危機感を抱いていた。


 それなのに、背徳感を味わいながらも倫理感が成り立っているのでは?というような自己矛盾に狂わされていた。



「人格は喪失していないのに、別人格がいるような気がしていて、それでも操られているという気がしなかった」


 潜在意識のような自分とは別の意識、または精神に宿っている変身願望のような感情を引き出して、それを意識と結合しているというのがこの薬の仕組みなのかもしれない。


「景! 一緒に帰ろうぜ」


「うん!」


 明快は少し変わってしまったのだろうか?

そう思いながら、廊下を歩いていき明快と横一列で着いていくように下駄箱の位置を探りつつ、どう話していいか迷っていると明快のほうから話し始めた。


「あいつ弱い者いじめしてたんだよ。それがどうしても許せなくてさ、同じことしたらまたぶん殴ってやる」


「明快はそういうの許せない人だもんね」


「でも、お前に殴られてすっきりしたわ。もう前後の見境もなく、気絶するまで殴るみたいなのはやめることにした」


 景は思った。

 きっと僕が殴ってすっきりしたからではない。

 明快の中に存在していた悪魔が祓われたからだろうと。

 根本の性格が失われたわけではなく、人が変わったようにスイッチが入ってしまう部分が明快の悪魔の部分だったのだろう。

 まだ実態というものが掴めないまま、景は悪魔蒐めをしていくこととなるのだった。


「そう言えば、小学生の時もお前と大喧嘩したことあったよな」


「そんなことあったっけ?」


 明快は記憶を掘り返したが、景は覚えていなかったようだ。


「いじめられてたのを助けてくれた記憶しかないな

あ」


「あったあった! お前小学生の時、怒り出すと泣きながら暴れるタイプで手が付けられなかったんだよ」


「うっ……それはなんとなく覚えてる。それも明快が止めてくれてたんだっけ」


「そうだよ。大変だったんだぜ!」


「何か…恥ずかしくなってきた」


 景は急に思い出したように恥ずかしくなった。


 人の記憶と言うものは曖昧で、お互いが食い違ったまま記憶に残っていたりするものだ。


 言葉も感情も認識や受け取り方が違えば、全く別の記憶としてそれぞれに残ったりするものだ。



 この先、何を見て何を思っていくのだろうと景は考えるのであった。


 二人が校門に差し掛かった頃、屋上の鉄柵に足を投げだした状態で座り、ブランコのようにふらふらさせながら、純白のドレスを纏った怪しい女性が見つめていた。


「やっと見つけたわ……エデンの分身ちゃん……」





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