ゲーム風異世界に来たエルフっ娘私、バトルも異世界ライフも頑張るぞー!(読切用)
鉛筆のミヨシノ
第1話 まずは観察
晴れた空から落ちてきた木漏れ日が柔らかく地面に降り注ぐ、平和な森。
リスやネズミなんかの小動物たちが、エサとなる木の実を探してちょろちょろと辺りを見回していた。
そんな長閑極まる森の中を、私たちは……
全力疾走していた。
激しい足音に驚いた小動物たちは、あわてて逃げ出していく。かわいそうだけれど、そのおかげで私たちのいざこざには巻き込まれなそうで少し安心した。
「クソッ、聞いてねぇぞあンのハゲ親父!」
毒づきながら木々の間を俊敏に走っているのは、二足歩行する大きな猫のような人間……
と言っても今は、私を背中に乗せたままさながら猫……いや虎みたいに、手と足とで交互に地面を蹴って四足で走っている。これがネコビトの全力疾走のフォームらしく、実際私が地上を走るよりも速い。
しかしそれでも、背後から迫る熱風より速くは走れず、吹き飛ばされる。少し体が浮いてもすぐさま姿勢を整えて、私を落とさないようにしながら着地できるのは、師匠の運動神経がすごく良いからだと思う。
「さては、"転生者"だから死んでもいいやとか思って足元見やがったな!
サミダレ、牽制は!?」
「もうやってます! でも全然効きません!」
名前を呼ばれた私はそう返しながら、後ろから追ってくる敵に向かって、手のひらの上に浮かべた水玉を何度も飛ばす。握り拳くらいの大きさの水玉たちは勢いよく飛んでいって……渦巻く炎の前にジュッと小さな音を立ててあっさりと蒸発した。
私たちは今、体長5mほどもある大きな猪から必死に逃げていた。そんな大きさの猪がただの猪であるはずはなく、その正体は『ブレイズボア』と言う魔物だ。普段は緋色の美しい毛並みをしているけれど、怒ると炎を撒き散らしながら追いかけてくる危険生物。
こんな森の中で炎だなんて引火して大火事待ったなしで、実際すでにブレイズボアたちが通った跡はめちゃくちゃ燃え上がっていて大変なことになっている。一体だけだったらこんな被害も出さずに、逃げる必要もなく討伐できたと思うけれど、それが三体もいるとなると、私たち二人だけじゃ勝つのは難しかった。
だから一旦退いて仲間を連れてこようと思ったのだけれど……うっかり私が足元の枝を踏み折って、その音を聞きつけた猪たちが怒って突撃してきている、というわけだ。
「ブフォオオオッッ!!」
ブレイズボアたちのうち、先頭を走る一番体格の大きな個体が大きく鼻を鳴らして私たちを睨みつける。その体内で魔力が巡り、牙の辺りに集まっていくのが"視え"た直後、火の球が猪の顔の周囲に浮かび上がった。
「火球、来ます!」
「チィッ! 曲がるぞ!」
水玉で迎撃しようと魔力を練っていた私は、あわてて体を低くして遠心力で振り落とされないようにする。視界の隅で、猪が首を振って火の球の狙いを私たちに定め、弾丸のように飛ばしたのが見えた。
流石の師匠も魔法より速くは走れない。なので魔法が放たれた瞬間、師匠はパッと横に飛び退いて手近にあった若い木を盾にした。そのタイミングがあまりにも的確だったせいで、軌道修正が間に合わず、火の球は木の幹に吸い込まれるように着弾。燃える音と折れる音を立てて木片を飛び散らしながら、盾にされた木は私たちと猪たちの間に倒れ、盛大に土煙を巻き起こした。
「っしゃあ! 今のうちに【迅雷】使って撒くぞ!」
そう言って師匠がすぐさま魔力を全身に巡らせたものだから、私はさらに体を低くして師匠の背中にしがみつき、落とされないように服を握る手に力を込めた。
【迅雷】は、全身の筋肉に電撃の魔法を放って身体能力を飛躍的に向上させる技だ。そしてこの技を使うということは、生身では考えられないほどの速さで師匠が高速移動するという予告でもある。
案の定、強烈な加速が体にかかり、周囲の景色が高速で流れていく。紫色の花火を撒き散らしながら、私たちは森の木々の間を稲妻のように駆けて行った。
【転生者】
異なる世界からその魂だけが運ばれ、このミドルアースの世界で肉体を伴って再構成された者の総称。
基礎的な身体能力や魔法能力はこの世界の元々の住民(区別のために彼らは自身を「原住民」と呼称する)と比べて大きな差異は無いが、数点の特徴と転生者自身の才能と感覚などによって、原住民よりも強力な存在となることが多い。
転生者の特徴として、最も挙げられるのはその不死性である。転生者は原住民と異なり、幾多の負傷や病毒によって命を落としても、【女神の神殿】と呼ばれる施設の祭壇で自動的に蘇生する。転生者の本質は魂であり、肉体がそれに付き従う存在であるため、と考えられている。
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