第28話 – 伊刈
アナウンスの直後、宿舎には赤い警告灯が点滅し、混乱した叫び声が壁に響いていた。その直後、再びスピーカーから士官の歪んだ声が聞こえた。
「砦の全訓練生は直ちに武器庫へ集合せよ。シグマ手順を発令する。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない」祭はすぐに状況を理解した。
「シグマ手順……ついに来たよ、弓月。行こう!」
「どういう意味?」弓月は訓練で疲れた体をふらつかせながら立ち上がり、自分の短刀を手に取った。
「外で実戦をするってことだよ」
二人は基地の中央へと走り出し、他の若い兵士たちの流れに合流して廊下を駆けた。廊下の突き当たりでは陸が腕を組んで待ち構えていた。その目つきは鋭く冷たかった。
「急げ。死体を引きずり出す趣味はないぞ」弓月はジャケットのベルトを締め直し、陸をまっすぐに見つめて問い詰めた。
「でも、なぜ私たちなの?まだ準備ができていない」その問いには祭が低い声で答えた。
「シグマ手順では、大規模侵攻の際には戦える人間全員が出撃する。訓練生も関係ない。階級ではなく数が必要になるから」弓月は息を飲んだ。
「訓練生を死なせる気なの?」陸が何かを言い返そうとする前に、新たな人物が現れたことで周囲の注意がそちらに向けられた。
背が高く、薄い色の髪を低くまとめた少年が、悠然とした足取りで近づいてくる。同じ訓練生の制服を身にまとっていたが、その態度には明らかな自信があった。視線は冷たく鋭く、遠くを見通しているようだった。
彼は弓月と祭の前で足を止め、二人をじっと見定めた。
「お前のことは知っている……だが、そっちは誰だ?まあいい、初日で死ぬなよ。もったいないからな」弓月は眉をひそめて尋ねた。
「あなたは誰?訓練で見かけたことがないけど」少年は冷笑を浮かべた。
「俺の名前は伊刈。見たことがないのは当然だ。俺には習う必要がないからな」祭は歯を食いしばって小声で呟いた。
「なんて傲慢なやつ……」そこへ陸が近づき、伊刈の肩を軽く叩いた。
「伊刈は特別推薦だ。退役軍人の息子で、砦の外で訓練を受けた。以前の任務では単独でマルタを一体仕留めている」弓月はまだ彼をじっと見つめていたが、伊刈は何も言わず背を向け、そのまま歩き去ってしまった。
一度も振り返らなかった。
第四部隊は迅速に編成された。弓月と祭を含め、さらに七人の訓練生が割り当てられた。その中には先日、有刺鉄線で亡くなった少年の弟もいた。彼は黙ったまま視線を落としており、制服は整っていたが擦り切れていた。それを見た陸は冷ややかな目で彼を眺めながら弓月に囁いた。
「あの少年が兄より役に立つことを願うよ」弓月は激しく振り返った。
「兄が死んだのは彼のせいじゃないでしょう」
「そうだな。だが、弟が兄と同じように死ぬなら、それは本人の責任だ」基地裏手には軍用トラックが待機していた。
号令や武器の金属音が響く中で全員が荷台に乗り込むと、トラックは砦の境界を越えて進み始めた。道は次第に狭まり、風景は荒々しくなっていった。一キロ進むごとに未知の領域に近づいていくのが分かった。
約一時間後、部隊は首都から二十キロ離れた地点で停車した。森林地帯の緩やかな斜面が待機場所として選ばれていた。
「降りろ!各自配置につけ!マルタが接近中だ!」と上官たちが叫ぶ。
弓月はトラックから飛び降り、銃を構えた。冷たい風が頬を切りつける。他の少年少女たちが走り回り、即席の塹壕を掘り、機関銃を配置している。指揮官たちの怒号が響き渡った。
「急げ、のろまども!」
「もたもたしていたら吹き飛ばされるぞ!」
「マルタは待ってくれないぞ!」弓月は胸が締め付けられるような緊張感で周囲を見回した。
祭は武器のベルトに苦戦し、あの寡黙な少年は額の鉢巻きを整えていた。全員が緊張の中、準備を整えていた。しかし、何も起こらなかった。
数分が過ぎ、三十分、一時間が経過した。何も現れない。指揮官たちは相談し合い、やがて野営して待機するようにとの命令を出した。マルタの目撃情報は確実なはずだった。必ず来ると。
弓月は湿った地面に腰を下ろし、銃を脚の間に置いた。空を見上げると、巨大な罠の中にいるような気分になった。
日が暮れてテントが設営される頃、伊刈は一人離れて岩に寄りかかり、地平線を見つめていた。湿った土の匂いが風に運ばれてきた。
弓月は彼が急に緊張したのに気づいた。伊刈はゆっくりと立ち上がり、小さく呟いた。
「何かが来る」その声は刃物が振り下ろされる直前のように冷たく、静かだった。
他の者には伊刈の言葉は聞こえなかったが、弓月の耳には確かに届いた。
「巨大だ」弓月が振り返ると、遥か遠くに黒くぼんやりとした影が見え、それがかなりの速さでこちらへ向かってきているのが分かった。
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