第23話 - 亀裂
翌日は同じ鉛色の空だった。まるで蓋のようにカヴァを押しつぶそうとしている。しかし何かが違っていた。収容者たちの間に新たな緊張が走り、空気は厚く呼吸すら苦しく感じられた。
レンジはまだ半分寝ぼけたまま装備を集めながらため息をついた。下月は彼に鋭い視線を向ける。「気を抜くな。今日は一歩前進できるかもしれない」
「リエンのことか?」レンジは疑いの目を向けた。
下月は頷く。「昨夜、無線機で彼女を見かけた。何かが起きていると彼女は知っている。でも自発的には話さない。どうにかして彼女を動かさなければならない」
その日のシフトは中央のトンネルで始まった。最も稼働が活発で人が多い場所だ。アモンは無言で二人に加わり、いつもの以上に陰鬱な表情で腕を組んで壁のように立っていた。
「ミサキは何か言ったか?」下月が冷たく問いかける。
「いいえ。トシローが死んで以来、彼女は心を閉ざしている」とアモンが答えた。「ここで口に出すだけでも危険だ」
三人は数時間働き続けた。ツルハシの音と時折壁の結晶からあふれる青い魔力の閃光が交互に鳴り響く。強すぎる振動に誰かが一瞬立ち止まり、周囲を警戒するたび、崩落か即席の処刑が起きるのではないかという恐怖が胸を締めつけた。
休憩時間、三人は隅の安全な場所で水を飲みながらこっそり話す。
「どうやって彼女に近づくつもりだ?」レンジが囁く。
「彼女を孤立させる必要がある。そのために陽動がいる」下月はトンネルの修復区画の境界を示す松明を眺める。
そこは不安定で現在は封鎖されている。
「あそこをわずかに崩落させれば、彼女が対応に駆り出されるはずだ」
アモンは腕を組みなおして言った。
「またリスクだ。この作戦が裏目に出たらどうする?」
「もう時間がない。カヴァが閉鎖されたら殺されるか、もっと過酷な場所へ送られる」下月が答えた。
レンジは逡巡しながらも頷く。
「わかった。でも俺もそばにいる。奴一人にはさせない」
午後のシフトは過酷だった。疲労が限界に近づいたころ、下月は作業道具を拾うふりをして遅れを取り、一瞬だけレンジとアモンを離れる。人けの少ない脇道を抜け、ついにリエンの姿を確認する。彼女は帳簿を見ながら壁にもたれていた。
「リエン」
下月が声をかけると、彼女は驚いて振り向き、細めた目が鋭く下月を捉えた。
「ここにいる許可はない」
下月は両手をゆっくり上げる。
「命令違反ではない。話がしたいだけだ」
「囚人に話す用件はない」彼女は冷たく言い放つ。
「でもあなたは何か隠している。あの通話を知っている。カヴァが閉鎖されると知っているはずだ」緊張がトンネルを満たす。
リエンはしばらく答えず、無表情のまま微かに息を整えた。
「何も知らない」かすかに呟くように言い、また背を向ける。
「明日だ。そこに立っていろ。動けば撃つ」
彼女はそのまま立ち去り、下月を暗闇に残した。
下月は息をのみ、胸の鼓動が耳をつんざく。今、確かに扉を開けた。しかしその先に何があるかはまだわからない。
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