急:暗赤色の不安。やがて......
「......ん?なんだ?」
日も暮れ始めた頃、船の停泊している場所へと帰ろうとした矢先の出来事だった。
突然、辺りから霧が立ち込める。
辺りの視界は真っ白。方向、地形。周囲の情報の認識が困難になった。。
「例の暴風雪か!?」
「いや、それにはまだ早すぎる。それに突然このあたりで"出現"したんだぞ?これは一時的なものだ」
それにしても不自然だ。
極地でのホワイトアウトは、地表が雪で覆われていることと全天に薄く低い雲が広がる気 象条件で発生する。
先程まで太陽の光が分かるほどには晴れていた。
そう、だから発生すること事態がありえない。
体温が著しく低下し、速やかに船内に入らなければいけない状況で、この霧を引き裂くような汽笛の音が遠くから聞こえる。
「ばかな!なぜこの状況で......あっちはホワイトアウトはないのか?」
汽笛が鳴る。それはつまり、ボイラーを稼働させたということ。
「とりあえず、君たちはこの霧が晴れるまでそこの近くにある洞窟の中に待機していろ。私は船の様子を見に行く」
海兵と牧師に言い残すと、私は音の聞こえた方向へ小走りで向かう。
***
数分走り続けていると、おぼろげに船体の形状が浮かんでくる。
「やはりこっちでもホワイトアウトか」
船の場所は少し前進していた。
甲板へ続くラッタルを登り、船内へ入る。
真っ先に向かったのはボイラー室。
しかし、そこには誰もいなかった。
そもそもこの船に人の気配がしない。
私は船艦尾から艦首に向けて一部屋ずつ見回っていた。
「あとは......ここの倉庫____」
数歩歩いたところで、右足の足首に焼けるような鈍痛が走る。
「くッ!............」
激痛を抑えながら痛みの部位に手で触れる。
どうやらアキレス腱を切断されたようだ。
床には鮮血が垂れ、少しの血溜まりをつくる。
そして視界の端に、
"人影"が映った。
《海兵視点》
あれから数時間が経っただろう。
自分の足元の雪面と空間の境が識別できなくるほどに真っ白だった霧は次第に収まり、夜空が見渡せるようになっていた。
「なぁ、船長が帰ってこない。ここから船までそう遠くはない。不自然じゃないか?」
「えぇ、私もちょうど感じていたところです。ホワイトアウトも明けましたし船へ戻りましょう」
牧師は持参していたランタンに明かりを灯す。
数分後。
「なぁ、あそこ。人が倒れていないか?」
「......え?」
船まで後数メートルのところ、甲板上に倒れる人の影が見えた気がする。
牧師は半信半疑の様子で目を細める。
「あ、あ、あ、あ、あれ、船長です............」
ひどく慌てた様子の牧師に、どんな状態であるかを冷静を装って問う。
曰く。
「............は?腹部に剣が突き刺さっているだと?」
今度は俺のほうが牧師の言葉を疑い、自分でもどうにかして視認しようとする。
「............君たち、ようやく戻ってきたか」
上方向から聞き慣れた声が聞こえた。
声の主は......。
「や、ヤング航海士!?」
よく見えないが、船のメインマストの見張り台に登っているようだ。
「ここで何があったんです!?」
ゆっくりと近づきながら声の音量を上げて話しかける。
「近づくな!!」
航海士からの大声と共に、船長が身につけていたサーベルの鞘を投げられる。
この行動......どうやら犯人は航海士らしい。
「どうしてこんなことを!? ヤングさんがこれをやったんですか!?」
「あぁ、その通りだ。」
航海士の眼光は暗闇の中で不気味に輝いていた。
俺達がこの大陸に来たとき、初めに会ったあの化け物のソレだ。
「貴様! 何者だ!?」
「......フン......。我は"闇の傀儡"。主たる精霊マリセド様の
精霊マリセド。
その言葉を聞くのは、船長が俺達だけに話してくれたあの時以来だ。
「............傀儡?」
牧師が信じられないと言った様子で航海士を見つめる。
「そう、厳密に言えば第一位階、精霊操術を会得する者。名を............」
『精霊術師』。
その後、その探検家たちが生き残ったのか、死んでしまったのか。
それは後々わかることとなる。
《終》
やがて精霊術師へ。 C.C.〈シーツー〉 @nqi01696
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