第27話 冷たい旦那様の告白 5
__何度もキスをされた。啄ばむようなキスから舌を絡めとられるキスに変わる。
「好きだよ。ティアナ」
そう言って、何度も私の耳をくすぐった。
最低な初夜だった。それからも、ウォルト様の気がすむまで毎日閨を求められた。
それが、今は違う。大事なものに触れるように優しい。
力強く抱き上げれば、図らずもウォルト様に跨いで据わる形になった。
ドレスをぬいで下着姿のままで寝ていたから、ウォルト様の着たままのタキシードに身体が密着することが至極恥ずかしい。
「……タキシードのままです」
「着替える暇はなかったからな……」
着替える時間も惜しくて探してくれたのだと思うと、複雑だ。勝手にいなくなって、申し訳ないのと、探してくれたことが嬉しいと思えた。
「……ウォルト様」
寄りかかる様に抱き着くと、ウォルト様が慈しむように受け入れてくれる。
首筋にウォルト様の唇がゆっくりと這っていく。ちくんとする痛みを感じながら、ウォルト様の表情が扇情的なものになっていく。
ウォルト様の肩に手を乗せれば、彼が私の手をとり優しい口付けをしてくると、ふと止まった。
「ティアナ。指輪は……」
「……すみません。売りました。ウォールヘイト伯爵邸まで帰る馬車代がなくて……」
申し訳なくて頭を下げた。その顔をウォルト様が両頬に手を当てて上げた。
「いいんだ。追い詰めてしまった俺のせいだ。それに、無事でよかった」
そう言って、頭を支えられるとウォルト様にまた絡み取られるキスをされる。
「ん……」
ほんの少し甘い吐息が漏れると、ウォルト様がタキシードを脱いでいく。いつ見ても筋肉質な身体は男らしくて逞しい。その身体が触れるままに私の身体を預けた。
♢
__もっと早くこんな風に抱きたかった。
そんなウォルト様の言葉が頭にこびりついたまま目が覚めれば、ウォルト様の腕の中だった。目の前の逞しい胸板にどきりとしてしまう。
大事に包まれて目が覚めることが恥ずかしくて、寝起きながらも赤ら顔になる。
情交の残る自分の身体を起こして、シーツで身体を隠した。寝ているウォルト様を見れば、いつ見ても綺麗な顔だ。
その顔に触れようとてを伸ばすと、外から大きな声で叫ばれて手が止まった。
「お嬢様――! お嬢様。お帰りですかーー?」
「お嬢様――――!!」
こんな風に呼ぶのは、村人たちだ。急いでシーツに身体を包んで慌てておぼつかない足で窓を開けようとするが、さすがに領民にこんな姿は晒せずに、窓の下にしゃがみ込んだままで手を伸ばして、そっと窓を開けて顔だけ窓から見えるように出した。
「ど、どうしたの? みんな?」
何とか平静を装うとしても、こんな状態で突然に窓の外から呼びかけられて、上ずった声しかでなかった。
「昼前に来るようにと言われましたので!」
窓の外から、村人たちが大きな声で言う。
昼前に来ることを伝えてたっけ?
私が帰ってきていることは、おそらく王都から乗って来た馬車の御者がウォールヘイト伯爵領のどこかで休憩がてら言ったのかもしれないけど……どうして、このタイミングで来るのですか!
「……ああ、もう昼か。すぐに出るから、待っていなさい」
窓から頭しか見せられなくて、身体を包んだシーツをギュッと抑えながら落ち着かない心臓を必死で抑えていると、ウォルト様が起きて窓から村人たちに指示を出した。
村人たちの様子は、窓の下でうずくまっている私には、まったく見えないけど、驚いていることこの上ないだろうと予想がつく。
「ウォルト様……は、裸ですよ!」
「今、起きたんだよ」
そう言って、柔らかな雰囲気で窓の下でしゃがみ込んでいるシーツに包まれた私を軽々と抱き上げた。
「……おはようございます」
「ああ、おはよう。だが、もう昼だな」
恥ずかしながら小さな声で言うと、真っ直ぐな眼でウォルト様が言う。
縦抱きに上げられているせいで、いつもと反対でウォルト様が私を見上げている。
それが、羞恥を煽られているみたいで目を反らしてしまう。
「ティアナを探してウォールヘイト伯爵邸に来た時に、村人が訪ねて来ていたんだ。だから、昼前に来るようにと伝えたのだが……すぐに、話を聞こうと思う。ティアナも一緒に聞いてくれるか? セルシスフィート伯爵では、素直に受け入れてもらえないそうだ」
「も、もちろんです!」
「では、すぐに着替えようか。待たせてしまっているようだからな」
「はい」
この恥ずかしい態勢から下ろしてもらえると思い、ウォルト様の剝き出しの肩に手をかけると、名残惜しそうに抱きしめられる。
「好きだよ。ティアナ」
抱きしめられて、耳元で愛おしそうに囁かれる。動悸がしたままで顔は見せられずに、ほんの少しだけウォルト様に抱き着いていた。
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