第11話 冷たい旦那様が離してくれない 3


ゴトゴトの進んでいる馬車……なぜだろう。連行されている気分なのは……。


「ウォルト様……」

「なんだ?」

「向かいの席も空いてますけど」

「それがどうした?」


じっとこちらを見下ろさないで欲しい。私、ウォルト様に恨まれるようなことをしましたかね?

隣の視線が痛いのです。恐ろしい形相で睨んでこないで欲しい。


「……そう言えば、ロザムンド様とのお話はどうでしたか? いつから別荘に行かれるのでしょうか?」


叶うなら、ウォルト様を引き取って欲しいのです。そのまま、一緒に連れていってくださってもオッケーです。

しっかりと、ロザムンド様にお願いしなければ……。


お願いを聞いてもらえる賄賂としてパイ生地のクッキーを持って行けば、聞いてもらえるかもしれない。


帰ったら早速焼かねば……!


「母上は、すでに別荘に脱出していた」

「……いつ!?」


思わず、声音が強くなる。


「だから、俺が朝食のあとに本邸に行っただろう? その時には、すでにいなかった」


確かに、行きました。私はその隙に別邸を逃げました。ウォルト様が追いかけてきてしまったから、今はここにいますけど。


ウォルト様の発言に青ざめて倒れそうになる。行動が速すぎる。

あの高笑いが聞こえたのは、気のせいではなかった。笑いながら、ロザムンド様は出て行ったのだ。

そして、くらりとした私の身体をウォルト様がしっかりと手を回して支えた。


「大丈夫か? 倒れそうだぞ」

「大丈夫です。大丈夫ですから、抱きついて来ないでください」

「支えているだけだが?」


支えられているだけ、動悸がしてしまう。


「でも、ウォルト様はお帰りになっていると、どうしてわかったのでしょうか? すでに荷造りをしていたということですよね?」

「昨夜は飛竜で帰って来たから、俺が別邸にいるとわかっていたのだろう」


だから、別邸に来る前には荷造りをして、そのまま本邸を捨てて行ったと!?

確信犯ですか!! 

一人だけ逃げてズルいですよ!

ウォルト様を引き取ってもらえないじゃないですか!


パイ生地のクッキーを賄賂に持って行こうとたった今、考えていたところです!!


思わず、クッと拳に力が入る。


「どうした?」

「いえ……ロザムンド様に、パイ生地のクッキーを持って行こうと思っていた予定が狂いましてね……」


ウォルト様を引き取ってもらおうと画策しようとした瞬間に、予定が狂ってしまい考えるのも嫌になってくる。隣のウォルト様は、離れてくれないままで私の肩の手を回して抱き寄せている。


「クッキーを焼くのか?」

「ええ……パイ生地のクッキーは、ロザムンド様も食べて下さりまして……」


気に入ってくれているかどうかは、いまいち自信はないけど、持って行けば食べてくれていたのですよ。


「……俺にも、焼いてくれるか?」

「クッキーをお食べになるのですか?」

「母上には、焼いていたのだろう?」

「そうですけど……」


少し驚いてしまい、ウォルト様を見上げると感情のない灰色の瞳と目が合う。

何が何だかわからないままで、気まずい空気の中の馬車はセルシスフィート伯爵邸に向かっていた。






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