第8話 初対面の旦那様 3


契約結婚だと言っても夫婦になったのだから、夜の営みのことを考えなかったわけではない。

いずれこうなるだろうとは思っていた。ウォルト様に……セルシスフィート伯爵家に私の後継ぎはいらなくても、縁談のない私には、犬猿の仲と呼ばれるセルシスフィート伯爵家との跡継ぎでも必要だったのだ。


でも、ある日突然夫婦として求められるなど予想もしてなかったことで……。


腰を引き寄せられたままでベッドに組み敷かれる。まるで怒っているかのような冷たい表情に身体が震えた。

首筋のキスにびくりとする。そんなことはおかまいなしにウォルト様が私の肌に唇を這わしていた。

何度も首筋から鎖骨に痕を残していく。突然のことに、ぎゅっと瞑っていた目を開けば、ウォルト様の冷酷な灰色の瞳が私を見下ろしていた。


「ナイトドレスを脱がないのか」


突然始まった閨に、自分で脱ぐことに抵抗がある。そう思うと首を左右に振って拒否した。


「そのままでいいのか?」

「そういうわけでは……ひゃっ……」


赤い痕を残した首筋をなめられる。そして、ウォルト様が着ていたシャツを緩めている。

むき出しになった上半身は筋肉質で所々が傷だらけだった。


騎士のウォルト様は、名前だけの騎士ではないとわかる。そっとその胸板の傷に触れれば、ウォルト様が一瞬だけびくんと感じた。


端整な顔に切れ長の目は迫力があり、目を反らすとウォルト様が覆いかぶさってくる。

柔らかいむき出しの胸を弄られて、感じないものがないわけではない。


「……っん」


でも、初めてで声を出せないままで唇を引き締めた。

胸の先が張っていく。ナイトドレスをずらされて、見られるだけ羞恥を煽られた。


「ウォルト様……本当に私でいいのですか?」

「アリスと結婚するつもりはない」

「でも、少し待ってくださっても……」

「子作りをしていれば、誰も君を追い出そうとはしないだろう……離縁など進められることはない。君を守るためでもあるんだが?」

「確かにそうかもしれませんけど……」

「なら、了承だな」

「ひゃっ……」


乱れたナイトドレスから、ウォルト様の手が侵入してくる。男らしい指で弄られ、下着はウォルト様の手で脱がされた。


「はぁ……っ……ぁ……っ……」


ウォルト様に片腕で抱かれたままで、身体の置き場がなくその胸にしがみついていた。ウォルト様の腕が緩むと、不安定な身体がベッドの上で捩れる。逃げるようにベッドにうつ伏せになり、呼吸も速くなっていた。


すると、ウォルト様がシャツを脱いで下着も緩めた。

大した言葉も交わさないままで、腰を後ろから掴まれて、ギュッと歯を食いしばった。

後ろから繰り返される抽送に初めての感覚が身体中を走る。顎に手を添えられて背後に頭を向けられれば、潤んだ眼の自分と無表情のまま熱を帯びさせたウォルト様と視線が交わった。


「……っずいぶん狭いな」

「し、知りませんっ……っぁ……」


狭いという感想でさえ恥ずかしい。

私は、今夜が初めてなのだ。





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