第5話 犬猿の仲の政略結婚 5
「ティアナさん」
「はい」
別邸の庭で花に水をやっていたある日。声をかけられて振り向けば、そこには、薄い茶色の髪に同じ茶色の瞳のアリス様がメイド二人を引き連れてやって来ていた。
「どうしました?」
「そろそろセルシスフィート伯爵家から、出て行ってくれないかしら?」
「私が……ですか?」
「そうよ!」
出ていけと言われても、結婚をしているのだから、勝手には出て行けない。時々はこっそりとウォールヘイト伯爵家に帰っていたけど……。
アリス様をみると、ツンとしており、不機嫌さを醸し出している。
「ここにいてもウォルトは、いないのよ。それに、あなたは形だけの結婚だから、いる必要はないでしょう? そもそも、ウォールヘイト伯爵家は、セルシスフィート伯爵家で嫌われ者よ。別邸に来る使用人の数を何とも思わないの?」
「あまり気にしませんので……」
嫌われているから、誰も来たがらないと言いたいらしい。
……これは、焦っているのだろうか。お義父様が他界されて、結婚が先行き不安になったと、いうことだろう。
「……アリス様。色々思うところもありましょうけど、今はまだ勝手には別居出来ません」
「結婚した時から、ウォルトと同居なんてしてないじゃない」
それは、大正解ですね。同感です。
「でも、結婚をしているので、私はセルシスフィート伯爵家にいないといけないのです。そう、お義父様であったセルシスフィート伯爵と契約を交わしています」
「でも、もうお父様はいないわ。勝手に契約を変える気じゃないの? セルシスフィート伯爵家は、ルギィウス国でも有数の資産家だもの。あなたの没落寸前のウォールヘイト伯爵家とは違うのよ。乗っ取られたらたまらないわ」
「……それは、あなたには関係ありません」
いくら没落寸前でも、犬猿の仲の政略結婚でも、セルシスフィート伯爵家を乗っ取るつもりなどない。
「アリス様。私から言えることは、ウォールヘイト伯爵家のことには口出し無用です、ということです」
「だったら、早くウォルトと別れてちょうだい!」
そう言い残して、憤慨してアリス様は本邸に帰ってしまった。
使用人のメイド二人をお供に引きつれたままで。
……まぁ、没落寸前なのは、間違いない。だからといって、あんな風に蔑まれる謂れはないはず。
「でも、三年の契約はどうしましょうか……お義父様だったセルシスフィート伯爵はもういないのですよ……」
三年後に、結婚を務めたお金は誰が払ってくれるのでしょうか。
それなりに支度金も貰ったから、すぐに没落することはなくなったけど。
「ウォルト様は、いつ帰ってくるのかしら……」
思わず、遠く空を見上げて呟いていた。
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