第3話 犬猿の仲の政略結婚 3
結婚をしたために、私はセルシスフィート伯爵家へと引っ越すことになった。
セルシスフィート伯爵家の邸に到着すると、あまりの豪邸に圧倒される。
お城のほどあるような大きな白亜の豪邸。見渡す限りの青い芝生の先には庭園も見える。
天気が良ければ、庭の噴水の水も煌めくだろうと思える。でも、今日は絶賛大雨だった。
ちょっと残念……。
門を通り抜け、玄関前で馬車が止まり緊張しながらも降りた。
玄関外には張りが突き出てて、その下でセルシスフィート伯爵夫人が使用人たちと一緒に私を待っていた。
「初めまして。ティアナ・ウォールヘイトです」
「……私は、ロザムンド・セルシスフィートです。ようこそいらっしゃいました」
挨拶を交わすが、小柄な私を背の高いセルシスフィート伯爵夫人がジッと見ている。身長差のせいで見下ろされている気分になってしまう。
広がっている扇子から眉間にシワを寄せている赤髪のセルシスフィート伯爵夫人は、ウォールヘイト伯爵家の私が気に入らないのだろう。
威圧感はたっぷりとある。
「あの……セルシスフィート伯爵様は?」
「どこぞの者と、旅行に行きました。出迎えは、私ではご不満かしら?」
「いえ、そんなことは……失礼いたしました。迎えて下さって嬉しいです」
どこぞの者って……。
どうやら、お義父様になったセルシスフィート伯爵様は、愛人と旅行に行ってしまったらしく、セルシスフィート伯爵夫人のロザムンド様は不機嫌そのものだ。
「ティアナと呼んでも?」
「もちろんです。セルシスフィート伯爵夫人」
「息子のウォルトは、まだ隣国から帰還しておりません。ですが、あなたの邸はあちらに準備しております」
「私は、本邸ではないのですか?」
「ええ、庭に別邸があります。あなたはそこで、ウォルトと暮らしなさい」
ウォルト様と暮らしなさいと言われても、その旦那様がいないのですよ。
扇子をパンと閉じたかと思えば、その扇子を庭へと指した。その先には、木々に囲まれた邸が見える。
木々に囲まれているのに邸が見えるなんて、別邸すら大きい。
こんなに潤っているなら、確かにウォールヘイト伯爵家がセルシスフィート伯爵家に嫁ぐのが自然だろう。
もしも立場が逆なら、セルシスフィート伯爵家がウォールヘイト伯爵家に婿養子に来ていたかもしれない。
「……わかりました。お気遣いありがとうございます」
「では、またいずれ」
「はい。御機嫌よう。セルシスフィート伯爵夫人」
威圧感の塊のようなセルシスフィート伯爵夫人に挨拶をして別れて、私は本邸に足を踏み入れることなく庭の別邸へと移動した。
そして、セルシスフィート伯爵様は約束通りに、私に仕事をくれていた。
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