25話

 タイトから攻略の参加の許諾を得た。

 同時に、この前哨基地における不純同性交友の許可を得た。

 つまり、やたらたくさんいる女の子食べ放題。

 まったく最高である。『トラッパーズ』が女の子だらけでたまらない。


 そんな『トラッパーズ』前哨基地の商業地区。

 そこであなたは武器の使い心地をロールに報告した。

 『弾薬庫』のトンチキ武器を見せてもらいに来たというのもある。


「ほうほう……なるほど……シャフトの強度不足か……しかし、これ以上の重量増加はな」


 たしかに。

 現時点でサワーハンマーは70キロを超える超重武器だ。

 並みの人間が扱える限界点ギリギリと言っていい。


 これは膂力と言うよりも体重の問題だ。

 重い武器を振り回す場合、重量が前に出る。

 その場合、肉体を含めた重心点が前に出る。


 この重心点が前に出るほど体感重量が増えるわけだが。

 この重心点が体から完全に出てしまうと。

 もう重い重くないではなく、立ってられなくなる。

 足の爪先より先に重心が出たら、もう転ぶしかない。


 どれほどの膂力があっても体重がないと転ぶ。

 だからこそ、あなたは『ポケット』に10トン近い荷物を入れている。

 こうして重心点を無理やり体側に持ってくることで超重武器を使えるのだ。


 サワーハンマーは『ポケット』無しで使えるギリギリのラインだ。

 これ以上重くしてしまうと、持てるが立てなくなってしまう。


「威力重点でヘッド部の大型化をしたが、打突時の衝撃に耐えられなくなるのでは欠陥と言えような。やはり、軽量化が必要か」


 まぁ、高速で接近してくる超重モンスターに打突したのも大きい。

 数百トンにも及ぶだろう重量を持つモンスターを迎え撃ったのだ。

 多少負荷を軽減したりしても、耐えれたかは怪しいところだ。


「運用データをさらに集めるほかないか。君、君にも運用データ集めに協力してもらいたい」


 壊れた状況などを記録すればいいならお安い御用だ。

 より良い武器になるならありがたい限りである。


「大変結構。謝礼は弾もう。試作品のナックルバスターなどどうかね」


 ナックルダスターではなく?

 そう思っていると、ロールがテーブルの上にナックルダスターを置いた。

 しかし、それは打突部が奇妙に前方へと突出している。


「内部に22口径ショート弾を装填可能だ。打突時の衝撃で発砲! 相手の体はズタズタとなる!」


 最高。超面白い。これを2個買いたい。


「試作品なので1つしかない。特注で作ることも可能だが?」


 もちろん買おう。


「注意点があるとすると、非常に硬く柔軟性のあるものを殴った場合、腔発に似た状況を起こして銃身が破裂する」


 もしやナックルバスター……拳を破壊する者と言うのは……。


「いかにも……割とよく起こるので気を付けたまえ」


 ますます面白いので、やっぱ追加で3個ほど欲しい。

 あなたはこういう馬鹿な武器が大好きである。


「大変結構……さて、他にも試作品、お蔵入り品は多々ある……見ていくかね?」


 もちろん見ていく。

 あなたは大喜びで提案に頷いた。

 




 面白いものをたくさん見れた。

 パイルバンカーと言うのが特に気に入った。

 火薬の炸裂力で金属の杭を射出、対象に浸徹し破壊する。

 最高に無意味で最高に無駄で、最高に面白かった。


 射出するならするでいいが、途中で止めてどうするのか。

 途中で止める以上は止めるための衝撃が射出機構にかかる。

 射出機構の重量増大を招くばっかりで意味がない。

 普通に、作動体である金属杭をそのまま発射すればいいのでは。


 途中で止まる以上は射出機構と接続されたまま。

 跳弾するような構造に当たった場合、別方向に負荷がかかってひん曲がる。

 しかも手に持って使う場合、腕の方もひん曲がる。最悪は折れるって言うかもげる。


 本当になにもかもが無意味で、見た目がカッコいい以外は何ひとつ利点がない。

 普通に大口径の銃をぶっ放した方が強いし。

 あなたなら石をぶん投げた方がはるかに強い。

 でも、面白すぎるので買った。いい買い物だった。


 ほくほく顔で歩いていると、酒場のあたりに通りかかった。

 『トラッパーズ』の者がよくよく飲んでいる場所だ。

 店主は『トラッパーズ』のだれかではなく、近隣に住むゴブリンがやっている。

 ジューンの移動商店で酒を買い込み、それを提供する。


 右から左に酒を流しているだけと言えばそうだが。

 ジューンの移動商店は行商人の癖に大量購入の割引を効かせてくれる。

 そう言う意味では小売店としての活動していると言える。


 その酒場から、聞き覚えのあるメロディを感じた。

 ふと気になってそちらを見やれば、そこには見覚えのある顔。

 あなたはふらりと酒場に入った。



 店内は木造の素朴な構造だ。

 広いホールにいくつも簡素な机とテーブルが並んでいる。

 そして、あなたは店主がグラスを磨いているカウンターに腰掛ける。


「なんにしましょう」


 ゴブリン特有のだみ声で注文を伺われる。

 人間用の高さのカウンター席の内側は非常に高い。

 ゴブリンの矮躯を補うための構造だ。


 そんなゴブリンの店主に、あなたはウイスキーと答えた。

 小ぶりなグラスがあなたの前に置かれ、酒が注がれる。

 詰め替えているのか、瓶には醸造所やらのラベルはついていない。

 あなたはウイスキーを一息に飲み干した。味には期待していない。


 喉を焼く酒精を感じる。思ったよりは悪くない味だった。

 上等な酒とまでは言わないものの、濁りのないクリアな味。

 気を遣わず飲むには悪くない。そのくらいの気安い酒と言える。


「次はなんにしましょう」


 同じのを。そう答えつつ、あなたはゴブリンの店主に尋ねる。

 いま、ステージで演奏している男はよくここで演っているのかと。


「ええ。ジャンゴ殿ですな。よくここで演っております。特段、報酬などせびられてはおりませんが。まぁ、1杯2杯、奢るなどはしておりますな。お客さんのような人が来てくれますので」


 ジャンゴ。『トラッパーズ』のメンバーである男。

 やたらと女だらけの『トラッパーズ』の中ではやや異彩を放っている。

 その男が酒場のステージで、6本の弦を持った撥弦楽器、ギターを手に演奏している。


 以前、ティーのところで見知った顔だが、そう言えば会っていなかった。

 彼もやはりだが、この前哨基地に属していたらしい。


「やはり、音楽はよい。私はそう思いますな」


 そのように言うゴブリンは、比較的変わり者の部類に入るだろう。

 この大陸のゴブリンはさして人間に敵対的ではないが、友好的と言うほどでもない。

 ひどく迷信深く、採取狩猟生活を送る者たちであることは一貫している。

 やや遅れてこそいるが十分に文明的な生活を送れる者たちでもある。


 まぁ、多少なりの距離こそあるが、気の抜けない隣人と言ったところか。

 それゆえ、人間相手の商売をするゴブリンは少なく、珍しい。

 人間相手に接客業をし、世間話などするゴブリンは、より一層。


 まぁ、ゴブリン語ではなく、共通語を話せる時点でなかなか変わりものだ。

 人間の読み書き、口語会話を会得している時点で結構珍しいのだから。


「一応、リクエストもできますぞ。ジャンゴ殿に1杯奢れば」


 店主がそのように教えてくれたものの、特にリクエストはない。

 あなたはジャンゴが気の向くままに演奏する音楽に耳を傾けた。

 音楽を楽しみながら、静かに酒を楽しむのもよい。

 あなたはウイスキーを追加で注文しながら音楽に聞き惚れた……。




 しばらく音楽を堪能しながら飲んでいると、ジャンゴがカウンターの方へとやって来た。


「マスター、バド!」


「はいはい」


 ジャンゴの要求通り、マスターがカウンターに瓶を置く。

 それをジャンゴが手に取り、歯でパコンと瓶のふたを外し、ガボガボと飲み干す。


「ぷふぅ~……ヤーマン、嬢ちゃん。どうだい、演奏は愉しんでもらえたか?」


 ジャンゴもあなたのことを覚えていたらしい。

 いい演奏だったよと答えつつ、あなたは店主にもう1本つけてやってくれと頼んだ。

 その注文に応じ、カウンターの上に新しく瓶が置かれる。


「おっ、悪いな。あんたも飲めよ。こいつはうまくないが、まずくないぞ」


 なんだその微妙な勧め文句は。

 そう思いながら、あなたは追加で注文をした。

 自分の分の、バドなる酒を。


「どうぞ」


 茶色く透き通っていないビンの酒だ。

 あなたはそれを受け取り、蓋をひょいと抜く。

 思ったより軽やかに抜け、固定が軽いことに気付く。


 そして、ビンに直接口をつけ、中身を呷る。

 すると、爽やかでクリアな味わいの酒が口内で踊る。


 なるほど、なんとなく言わんとするところが分かった。

 たしかに、コクや旨味がないし、香りも弱いのでうまくない。

 しかし、クリアで爽やか、苦味の薄い味に、さっぱりとした後味はまずくない。

 なんと言うか、そう、飲み物のポジションとしては真水に近いというか。


 状況次第で非常にうまく感じることもあるが。

 基本的になんら意識せずにゴクゴク飲んでしまうもの。

 そんな感じの味わいの酒だった。

 たしかに、うまくないがまずくない。


 これはゴクゴクと飲めてしまうタイプの酒だ。

 演奏と歌をたっぷりこなした後に飲むのにピッタリだ。


「どうだ、うまくないけど、まずくないだろ?」


 たしかにうまくないが、まずくない。

 あなたはそんな風に笑って、残る酒を飲み干した。


「あんたがこっちに来たことは聞いてたが、調子はどうだい?」


 まぁ、可もなく不可もなくと言ったところか。

 少なくとも、迷宮を探すという作業に関しては学べた。

 それが単なる地味な作業の連続と言うことはさておき。


「そうかそうか。まぁ、うまくやれてるなら何よりだ」


 言いながらバドを水のように勢いよく干すジャンゴ。

 ジャンゴは前線メンバー、つまりは戦闘班と聞いているが。

 こちらではどのような仕事に就いているのだろう?


「そのままさ。迷宮の攻略となったら前線に出る。それだけのことだ。それ以外じゃここでこうして音楽の道を探求する日々さ」


 吟遊詩人のように、方々を巡る生活ではないらしい。

 呪歌まがうたと言う神秘の技を探求する者はそう珍しくないが。

 ジャンゴもまた、そう言った神秘のパワーを内包した歌を探求する学究の徒であるらしい。


「音楽はいい。そこには不思議なパワーがある。サイキックパワーの深淵を知っても、音楽の深淵はわからない。あんたもそう思うだろ?」


 サイキックパワー云々は分からないが。

 音楽に不思議なパワーがあることは分かる。

 いったいどれほどの深淵がそこにあるか分からないほどに。


「そうとも。俺たちはみんなそのサイキックパワーの深淵を知っている。いや、人間の可能性を知っている、と言うべきか。だからこそ音楽の深淵を信じる気持ちになれるのさ」


 サイキックパワーの深淵とは?


「うーん、そうだな……あんた、不思議に思わないか」


 なにを?


「俺らはどいつもこいつも清い身で、しかも男はごく少数しかいない。妙な均衡で成立した集団だ。そう思うだろ?」


 それはちょっと思った。

 処女か童貞しかいない集団。

 それはまぁ、あり得ると言えばあり得るだろう。


 だが、カリーナのように、そう言う行為に興味津々なものがいて。

 それでありながら処女か童貞しかいない集団とは?

 これだけの人数がいるなら探せば相手には困らないだろうに。


 それでいながらもカリーナは処女のままだった。

 そして、ジャンゴの口ぶりからすると、おそらくはジャンゴも。

 集団の中に不和があるとかならまだ納得いくが。

 逆にこの集団は非常に仲がいいのだ。『トラッパーズ』の空気は非常に心地よい。

 部外者のあなたですらも心地よいと感じさせるほどなのだ。


 『トラッパーズ』はまるで家族のように仲がいい。

 性欲と言うものが絡むことのない、さっぱりとした仲のよさ。

 そう言うもので満たされているような空気がある。


「その秘密の根源のすべてはタイトにある。人間の可能性の深淵、サイキックパワーの深淵。その辺りも全部な」


 それほど重大な秘密がタイトに?

 仲がいいとは言え、変人奇人だらけの『トラッパーズ』だ。

 それを取り纏めていられる時点で普通ではないと思ってはいたが……。


 しかし、それほどの重大な秘密となると。

 部外者であるあなたには教えてもらえないのでは……?


「隠してるわけでもないからな。聞けば教えてもらえるぞ。2度手間だから、タイトに直接聞いた方がいい」


 隠してるわけでもないサイキックパワーの深淵。

 深淵にしてはあっさりと開示され過ぎでは。

 それともサイキックパワーの深淵とやらはそこらの水たまり程度の浅さなのか。


 まぁ、教えてもらえるならあとで聞きに行くか。

 ここで軽く飲んで、持っていく土産の酒もここで見繕うか。

 ジャンゴにタイトの好みの酒について聞いて。

 ここで酒を買い、そしてそのままタイトのところで飲むとしよう。

 彼とは仲良くしたいと思っていたのだ。


 『トラッパーズ』で女関係の問題が起きたら仲裁してくれる人として、縁は繋いでおきたい。

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