19話
玄室を解放し、トロル2体を雑に射殺。
その次の玄室では霜巨人が1体いた。
アンジェリカとブリジットが自分諸共吹き飛ばして勝利。
「うーん。敵はそんなに強くないわね」
「でもバラつきが激しい感じはするね」
「リッチが圧倒的に強いけど、次の階層でトロルだものね。弱くはないけど強くはないわ」
「ランダム性の強い迷宮かもしれないのです」
まぁ、無作為に選出されているのではと言うのは頷ける。
正直、この大陸の迷宮は詳しくないのだが……。
こういう迷宮はよくあるのだろうか?
「ないと言えばないけど、あると言えばある……かしら?」
「基本的に深層ほど強敵が出る性質はあるのです」
「でも、浅層でも強敵が出る迷宮もあるにはあるよ」
「初手で月蝕の巨人が出て来た迷宮も以前あったわ」
聞いたことがない巨人だ。
どれくらい強いのだろう?
「ちょっと私たちでは計り知れないくらい強いのです」
「雑にぶん殴られて即死したわ」
「私は『致傷』って呪文を連射されたよ」
「5メートルくらいある岩投げつけられてぺしゃんこにされたわ」
凄まじい強さであることはわかった。
『致傷』と言うと、6階梯呪文だったはずだ。
少なくともリッチと同レベルの魔法が使えることになる。
魔法に熟達した巨人……という線もなくはないが……。
純粋に極めて強大であるがゆえに、呪文も使える。
そう言う性質の存在ならば、リッチを遥かに超越した強さだろう。
「そう言う敵の強さのばらつき度合を身をもって確認するのも私たちの仕事ね」
「どれくらいの強さのチームなら攻略できるかを計算するんだ」
「まぁ、基本的には、不死身を活かしての威力偵察なのです」
「専門的な調査と言えるほどのことはしないわね!」
そして可能ならば、そのまま攻略してしまうと。
しかし、そうなるとよほどの数の迷宮を並行して攻略しているのだろうか?
新迷宮を捜索しているチームも相当数存在はするのだろうが……。
「そうだね。私たち『トラッパーズ』は並行してあちこちの迷宮を攻略してるよ。前哨基地にいるのも全員ではないんだ」
「各地の発見済み大迷宮を攻略してる一線級メンバーなんかもいるのよ」
「まぁ、その一線級メンバーはそう数がいないから、別働攻略チームはほんの2つだけよ」
「正直、私たちもどこまで大きい組織なのかは把握し切れてないのです。完全に把握してるのはタイトだけなのです」
あれで全員じゃないんだ……まぁ、ティーの口ぶりでは大きい町には連絡員がいるという様子だった。
それを思うと、むしろあの程度では済まないと考えるべきなのだろう。
ひとつの会社組織と言うより、ひとつの町と言えるほどの規模に達してる可能性も否めない。
「まぁ、詳しいことはタイトに聞いてちょうだいな。次よ、次」
その通りだ。あなたはアンジェリカの提案に頷く。
そのアンジェリカが、次の玄室の扉を開き、内部を確認する。
そして、すぐにこちらに向き直ると、大きく息を吸い込んだ。
「超巨大パンチング双腕戦艦グロース・ファウスト接近!」
耳キーンなった。
あなたはものすごい大声の報告に驚く。
しかし、内容が……なんのなんだって?
あなたはアンジェリカの報告はさておいて、中を覗き込む。
それに呼応するように、他の3人も部屋を覗き込む。
ぼんやりと明るい部屋の中には、巨大な人型が佇んでいる……。
「……たしかに、アンジェリカの言う通りすごい腕してるのです」
「あの腕で殴られたら、どこにあたっても一撃でミンチね……」
「さすがにこれは、私たちでは無理そうだね」
他のメンバーが言う通り、あれはでかい。
身長は約6メートルほどだろうか。超大型サイズと言っていい。
それはすべてが鉄で造られていることを除けば古代戦士そのもの。
古めかしい鎧を纏った戦士の造詣は美術品としても通用するだろう。
儀礼用の鎧を模していることが分かる華美な装飾も伺え、よほどの手間暇をかけて作ったことが分かる。
アイアンゴーレム。そう呼ばれる人造のモンスターだ。
特別に費用と手間をかけ、標準のそれより遥かに巨大に作ってある。
普通のゴーレムは精々2~3メートル程度で作るものだ。
ワンサイズどころかツーサイズも大きく作ってある。
大きく作ればそれだけ材料費も嵩むので、非常に高額になる。
「ゴーレム、雑魚っぽそうな響きの割に強いのよね……」
「しかもアイアンゴーレムだ。古代のアイアンゴーレム、強いんだよね……」
「私たちじゃ手も足も出ないわ。あれがハリボテでなければだけど」
「ひと当てして、見掛け倒しでないことを確認して撤退するのです」
あなたもブリジットの提案に頷いた。
アイアンゴーレムは標準サイズでも相当強いモンスターだ。
愚かで融通が利かないので手玉には取りやすいが。
馬鹿正直に正面から激突すれば非常に手ごわい。
それを超大型サイズで作った上、特別強く作ってあるように見える。
推定だが、EBTGメンバーで戦っても結構厳しい相手だろう。
当然ながらクラリッサら4姉妹では手も足も出ない強敵だ。
「いくわよー!」
「突撃ー!」
「押すのです! 押すのですぅー!」
「いくよ! 撃滅だー!」
4人が威勢よく突っ込んでいく。
そして、4人が玄室に突入したことでアイアンゴーレムが反応した。
「撃て撃て! 集中砲火!」
「撃ちまくれー!」
「奴さん射撃の的になりたいようよ!」
「どんだけ装甲が厚いのです!」
4人が一斉に手にした銃を連射する。
ほんの数秒で弾倉の弾丸を一気にばら撒き終える。
それらはほとんどがアイアンゴーレムに直撃する。
が、アイアンゴーレムはほぼノーダメージだった。
ほぼ鉄の塊なのだ。生半な銃弾では通じない。
比較的薄い関節部を切るとか、打撃で躯体をひしゃげさせるとか。
そう言う感じの攻撃でないといまいち通用しないのだ。
銃撃と言うのはスティレットやレイピアでの刺突にも似ている。
殺傷力そのものは高いが、傷は大きくなく、無生物には有効ではないのだ。
あとはまぁ、魔法的効能のある武器ならばもう少し違ったのだが。
ゴーレムの原動力は、内部に呪縛したエレメンタル、つまり元素の霊だ。
これに対し、躯体を浸透して魔法的威力を伝達すればいいのだ。
躯体が無傷でも、動力であるエレメンタルを撃破すれば動かなくなる。
「退避! 退避よ!」
「尻尾巻いて帰るのです!」
「帰ろう! 帰ればまた来れるよ!」
「逃げるのよぉぉぉ!」
残念ながら、純粋物理攻撃しかできなかった4人だ。
今回はあなたが『上級魔法武器化』をかけていない。
欠片も通じず、尻尾巻いて逃げるしかできなかった。
4人が勢いよく玄室から飛び出して来る。
そして、扉をドカンと閉めてすぐに離れた。
「……ふぅ。完璧な撤退だったわ。私たちの勝利である」
「帝国陸海軍の進撃は留まるところを知らず、東アジア全域を統一する日も近いのです」
「大日本帝国に栄光あれ!」
「ばんざーい! ばんざーい!」
などと勝ち名乗りを上げる4姉妹。
これを勝ったと言い張る度胸は認めよう。
「全滅しなきゃ勝ちよ!」
クラリッサが堂々と胸を張る。ちっさ。
まぁ、その意見には頷けるところもある。
たしかに、死んで何もかもを喪うよりはいい。
そう言う意味では負けてはいない。勝ったかはともかく。
しかし、ダイニッポン帝国?
『アルバトロス』チームの来た国もニッポンと言ったはずだが。
あの国は帝国の号は冠していなかったので、偶然の一致か。
「まぁ、あのゴーレム相手では私たちは勝てないわ。撤退ね」
「なのです。現在時刻は……ヒトヨンマルロク。うーん……」
「微妙な時間だね。離脱しても、もう1度アタックできなくもないような……」
「十中八九、明日に持ち越しってことになりそうだけどね」
言いながら、クラリッサらが撤退をはじめる。
あなたも同様にそのあとをついて行く。
あなた1人でゴーレムを破壊することは可能だが……。
ここはあくまで『トラッパーズ』が発見した迷宮だ。
あなたが発見した迷宮ならともかく、出しゃばるべきではない。
いま、あなたはあくまでも勉強のために迷宮を攻略しているのだ。
それに、あまり出しゃばって不興を買いたくもない。
『トラッパーズ』を敵に回すと、規模が規模だけにめんどうそうだ。
特殊能力持ちの冒険者も少なくないようだし……。
クラリッサらを敵に回すと凄く面倒くさそうだ。
夜のお愉しみ中、自爆しに来られたらすごく困る。
なんせ蘇るのだ。毎晩3回はノーリスクで自爆できる。
そんなことになったら娼館には出禁を喰らうだろう。
どうにせよ、敵は作るより減らした方がいいものだ。
あなたは敵を作ることを恐れはしないが、好き好んで作りもしない。
帰り道の玄室にはモンスターがおらず、離脱に苦労はなかった。
玄室のモンスターの復活は早ければ数十分で復活するという。
だが、大抵の場合は半日から1日ほどかかることが多い。
そして、その階層の奥部にいる個体はもう少しかかることが多い。
早ければ3日。長ければ半年にも及ぶほどのスパンで復活する。
冒険者学園の授業で、あくまで目安として覚えておけと習った。
どうやらここの迷宮は半日から1日ほどのパターンのようだ。
奥部の個体は、どうだろう? そもそもどれが奥部の個体かはまちまちらしい。
1層の最奥部に居たリッチがそうと言えなくもないが、そうでない可能性もある。
まぁ、明日になってもう1度攻略しにくれば分かるだろう。
あなたたちは迷宮から脱出した。
その足でそのままタイトへと報告に向かった。
前哨基地中枢は午前中の地震のこともあってかやや騒がしい。
しかし、直後ほどの喧騒ではなく、平穏と言えば平穏か。
「戻ったか、クラリッサ」
「ええ。大海令18号に従って、迷宮の調査を進めて来たわ」
「ここは内陸だ」
「太平洋は見た目には美しいけれど、危険がいっぱいだったわ」
「内陸だ」
「タイト……」
「なんだ、真面目に報告する気になったか」
「あなたは強くない」
「突然なんだ。そんなことは百も承知だ」
珍妙な会話をはじめるクラリッサ。
タイトは冷静かつ律義に突っ込んでいる。
「海軍の支援を要請するわ」
「なに? 海洋型迷宮か? 皐月を呼び戻す必要があるな……」
「いえ、普通に玄室型迷宮ね。でも、支援が必要なのは本当。超大型サイズのアイアンゴーレムが突破できなかったわ。2層の、たぶんだけどボス個体ね」
「超大型サイズのアイアンゴーレムか。となると、脅威度としては相当なものだな……」
タイトが難しい顔で、傍らのボードを見やる。
そこにはあなたには読めない字で大量の書き込みがされている。
たぶんだが、この前哨基地に所在しているメンバーの現況などが記されているのだろう。
朝に出て行ったメンバーを見送っては書き換えているので可能性は高い。
「生半なやつらを突っ込ませてもしょうがない。明日、攻略班を編成する。今日はもう休め」
「じゃあ、探索報酬ちょーだい」
「報告書を書け」
「口頭じゃ……だめぇ?」
「だめ」
「あとで書くわ……」
「早めに頼む」
書類仕事は苦手なのだろう。
あなたは晩ご飯のカレーに、カツレツをつけてあげるからと励ました。
これを言うと、ケイのところのエルフ姉妹は元気100倍なのだとか。
「カツカレーですって……!?」
「カツカレーと聞いては黙っておれないのです!」
「報告書は私に任せておきなさい!」
「福神漬けも欲しいぃぃ!」
などと言いながら、4人が報告書の作成に取り掛かった。
なんとも現金な。まぁ、それだけ好きなのだろう、カレーが。
あなたは報告書が書き上がったら宿舎においでと伝えて退室した。
ストックのカレーはあるが、カツレツの準備をしたいところだ。
特に、あなたの場合は『アルバトロス』チームにも食事を提供している。
あなた自身に、クロモリ、『アルバトロス』チーム、そしてクラリッサ4姉妹。
時と場合によって見知った顔の者が手土産持参で夕食を食べにくることもある。
少なくとも10人前。そして、全員が体を動かす部類の人間だ。
その食事量は並の人間を遥かに超えているし、誰もが皆年若い。
常人の30人前くらいは用意しないと、誰かが食いはぐれてしまう。
カツレツ30人前。一気に用意は難しい。
普通の鍋でやれば、軽く2時間はかかる。
今のうちから準備をしておかねば。
あなたは急ぎ足で宿舎に帰り、夕飯の支度をすることにした。
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