24話

「まぁ、飲めよ」


 診療したり、村で力仕事を手伝ったり。

 そんな牧歌的な日々を送っていると、ハウロに飲みに誘われた。

 そして、あなたはその誘いに頷いて、ハウロの家にやって来た。


 こうして対面して飲んでいると、たしかにハンターズのエッセンスを感じる。

 元々が同一人物と言う異常事態のこともあり、彼女らは仕草が似ている。

 背格好や体格が違ったりするので異なる部分もあるが、大部分が似ている。

 特にハウロは体格が一番近しいアトリに所作が似ているようだ。


 アトリの動きをより洗練させ、狩人としての完成度を高め切った姿。

 既にハウロの力は人間と言う個の限界を極めつつあるのではないだろうか。

 既に人の領域に留めておけないレベルにまでなって来ている気がする。


「んー……俺もよ。実際の感覚としちゃ、それこそ70年近く生きてんだ。だから、恥じらいってほどのもんもねぇから聞くがよ」


 なんだろうか?


「あんた、メッチャ好色で、同じく女が好みなんだよな」


 その通りだ。あなたはハウロの観察眼の正しさを認めた。


「守備範囲どうなってんだ? こう、見た目若くても実年齢30過ぎは無理とか、筋肉質なのは無理とか、受けしか無理とか……」


 あなたの守備範囲は50にプラスマイナス50だ。つまり0歳から100歳までが守備範囲。

 そして身長130センチの矮躯も、身長90メートルの巨躯も、肩幅50メートルの魁偉な体躯もオールオッケー。

 腕や足、目、鼻、口などの数にもこだわりはないし、特殊性癖も大体は許容範囲。


 頭を万力で挟む、指を1本ずつ折る、焼けた鉄を握り締める、煮えた油をかける。

 脇腹から肩まで貫通するよう槍で貫く、首にロープをかけて絞首台にかける。

 ギロチンにかける。象4頭で四肢を引っ張る、焼けた鉄板の上を歩くなどもいける。

 掌一杯の黄金採掘、カニを船一杯に捕るまで帰らない、伝説の緋色熊の狩猟。

 セイウチの着ぐるみを着て決闘、サメとタコの融合体の創造。

 セリマン国王都の陥落、大陸を引き裂く究極の人造神の撃破等々。


 あなたはそう言った性癖にまで対応できる。


「……??? あ、うん? なんか、ただの拷問が死刑になって、最終的にドキュメンタリーからB級映画になっていったと思ったけど、プレイなんだ? ……??????」


 あなたもちょっと後半の方は理解が及ばないが、なんかそれが最高に興奮するらしい。

 まぁ、でも、たしかに土を散々に掘り返して黄金を掘り出したアレはよかった。

 成果の金塊を眺めながら酒盛りして、ベッドイン。あれは特殊な達成感があって素晴らしかった。

 さんざ苦労して掘り返した金塊がガキの小遣い以下の価値しかないのはさておいて。


「ごほん……まぁ、あんたがおよそなんでもイケることは分かった」


 納得していただけて幸いだ。

 それで、そんな話を持ち掛けるとは、そう言うことと思っていいのだろうか?


「ああ、うん、まぁな。こう、うん、うーん……複雑、なんだよなぁ、俺も」


 複雑とは?


「ちょっと変だと思わねぇ? えっと、ハンターズっつったっけ? 以前の俺が集った烏合の衆。アイツらの性癖さぁ」


 ハンターズの面々の性癖。トモが大好きということだろうか。

 いや、たとえ女になったところで、男としての認識を保持して女好きなこと?

 それとも全員が程度の差はあれど結構なレベルのマゾヒストと言うことだろうか?


「……俺はマゾだったのか。いや、それはいい……その、あいつらが女好きだけど、俺はその、同性愛はちょっとって言ったろ」


 そう言えば言っていた。

 宗旨替えでもしたのだろうか?


「いや、そう言うわけじゃねえんだ……そのほら、女の体で女遊びしてると……自分がどんどん女になってくのを感じるんだよ……」


 今さら何を言っているのだろうか。あなたはそう思った。

 あなたはハウロのことを荒っぽい言動をする女性だと普通に思っていた。

 少なくとも、男らしいと認識するような部分は一切ない。

 女になっていく、と言うことならとうの昔に手遅れだ。


「……そうなのか?」


 そもそもの話、アトリやリン、キヨも普通に女らしい所作をしている。

 やや荒っぽいというか、男っぽいようなところもあるような気はしないでもないが。

 そう言う性質と思えば気になるほどのものではないし。


 ループ初期の頃ですらそうなのだから、最後期のハウロは尚更だろう。

 女になっていくのを感じるなんて、もはや何を言っているのかと言う話だ。


「いや、女としての所作はともかくだ……つまりその、自分は男であるというアイデンティティを保持しつつも、なおかつ男らしく、ストイックに、タフで優しい男らしくあり、強い男らしくありたいんだ」


 男らしさが溢れかえってるなと思いつつ、あなたはとりあえず頷く。

 ハウロの支離滅裂と言うか、こんがらがった言動からなにを察するかと言うと……。

 つまり、ハウロは……トモと生涯を歩んでいける男らしくありたかったのだろう。


「そう! そう言うことだ! トモちんと共に在り続ける強敵ともでありたかった……!」


 ハウロの言うことを纏めるとしよう。


「ああ、頼む」


 最も男らしくあるためには男である必要がある。


「そうだ!」


 男らしさのためには男にしか出来ない行為をする必要がある。


「そうそう!」


 そのためには女の体で女と遊ぶというのは言語道断と言うこと。


「分かってるじゃねえか!」


 よって、男らしくあるためには男である必要がある。


「当然だな!」


 そして遊ぶ相手は当然ながら、男でなくてはいけない。


「女遊びは軟弱って風潮もあるからな」


 男と遊びながら男にしか出来ない行為をすることで男らしくなれる。


「ああ、その通りだ。で、その男らしい行為だが……」


 射精はもちろん男にしか出来ないことなので男らしい行為だ。


「あ、ああ、まぁ、そうだな……ちと下品だが、まぁ、そう言えなくもない」


 つまり、尻を責められて射精することは非常に男らしい行為と言える。

 尻から責められると、男にしか存在しない器官に刺激が加わるらしいので。


「うん、うん?」


 そして、女装は男にしか出来ない行為である。


「あ? うん? ああ、まぁ、異性装って意味じゃ女がやると男装になるから……?」


 総合すると、女装して尻を掘られてトコロテンなる行為をするのは非常に男らしい行為と言うことだ。


「はぁ? あ、ん? んん???」


 さらにその上で、自分は女の子ですと宣言する行為……いわゆるメス堕ちだ。

 これも当然ながら男にしかできない、極めて男らしい行為である。


「?????????」


 そして、トモと言う青年がいる場合において、その実現は難しくない。

 彼によって女の子にされることで、誰よりも男らしくなれるのだ。

 つまり……ハウロは男になった上で、トモに尻を掘られてメスにされたかった。そう言うことだろう?


「ンなわけあるかぁぁぁあいっ!」


 ハウロが机をひっくり返した。

 あなたは吹っ飛ぶ酒瓶をキャッチして退避する。

 今は後遺症のこともあってあんまり体調がよろしくない。

 無茶なことはしないで欲しいとあなたは苦言を呈する。


「あ、すまん……」


 まぁ、ハウロの狂乱はさておいてだ。

 モモはとうの昔にトモと一緒に生きていくつもりだった。

 それがハウロになったら前言撤回とはどういうことか。

 あなたはハウロの意志薄弱ぶりをなじった。


「そんなもんは気の迷いだ! やっぱ、男の体で女抱くのが一番楽しい!」


 それはない。あなたは力強く断言した。

 女の体で女を抱くのが一番楽しいに決まっている!


「はぁー!? 生粋の女がなぁに言ってんだオメー! そんなことはチンチンをお持ちんちんになってから言ってみなさぁ~い!」


 あなたは以前にチンチンを持ったことがある。リンの要求だ。

 それによってリンのものすごいおっぱいに、ものすごい奉仕をされた。

 あれは、すごい……いや、すごい……。


「リンの、あれで、ご奉仕……! やっぱこう、挟んでもらったのか?」


 挟んでもらった。

 なおかつ、上下された。

 前後もした。互い違いもされた。


「俺もメートル超えのすんげぇのに挟んでもらいてぇ~!」


 挟んでもらうものないじゃん。なに言ってるの?


「ウギィーッ! それ言ったら戦争だろうがよォン!」


 まぁ、もちろんそうなったところであなたは勝つが。

 あなたはそんな調子で笑って、先ほど回収した酒瓶を呷る。

 ハウロもそうだが、アトリからモモロウまで一貫して酒の好みは辛口のようだ。

 さて、それでハウロは何が言いたかったのだろうか?


「あ? ああ、なんだっけ? ……ああ、そうだ。俺、男に戻りてぇんだよぉ……」


 ふぅん、そうなんだ。不許可。

 あなたはそのようににべもなく拒否した。


「ひでぇ。あんた性転換させる手法とかあるんだろ! モモロウがただの可愛い女の子になってたじゃねえか! なぁ、俺にもそれやってくれぇ!」


 そんなことしたら女の子が1人減って男が1人増えてしまうではないか!

 逆なら大喜びだが、そっちは絶対に嫌だ!


「なぁ、頼むよぉ! そんでもって、そのまま1発ヤらせてくれ! 優しくするからさあ! ちゃんと外に出すし!」


 あなたは死んでも嫌だと断固拒否した。

 あなたはべつに男嫌いと言うわけではない。

 だが、男とベッドインしたいとは思わない。


 ましてそれが元女だなんて! 考えるだにおぞましい!

 あなたは元女ではなく現女とヤりたいのだ!


「どうしてだよ! サメ、タコ、カニがイケる性癖の海鮮丼の癖に、なぁんで男だけはダメなんだよ!」


 女の方が好きだからだ! あなたは力強く断言した。

 あなたは生粋の女であり、女の集団の中で生まれ育った、女の中の女だ。

 幼い頃から女らしく育てられたために、女らしいものが大好き……そう、たとえば女!


「意味分かんねぇこと言うな! だったら男だって男らしいものが好きだから男が好きになっちまうだろうが!」


 実際にトモとかモモとかは男が好きではないか!

 彼ら2人共に少女と見まごうほど可愛らしい青年だが。

 言動や振る舞いなんかは結構男性的ではあるのだ。


「それは、そう、そうかもだが! なぁ、頼むよ! この村には娼館とかねぇし、女の身で女をナンパなんかしても冗談だと思われるし! そもそも村人と痴情のもつれで揉めたくないしさ!」


 ハウロが女のままならもちろん大歓迎である。

 だが、それが男に性転換してからと言うことなら不許可である。

 あなたは酒瓶を干して、空き瓶を放り捨てる。

 そして、自分の『ポケット』から蒸留酒の瓶を取り出して、それを注いだ。


「ん」


 ハウロも飲みたいらしく、カップを差し出して来たので注いでやる。


「実際よぉ、この村で性欲の発散とか難しいじゃん? 男引っかけるのは……嫌だしさぁ……」


 まぁ、それはたしかにそうかもしれない。

 トモがいればドへたくそなりになんだかんだやっていけたのだろうが。

 どうやら、この世界線はモモロウのそれが基準であるようなので。

 つまり、いつもならループすれば必ず訓練所にいたトモがハウロの場合はいない。

 よってハウロはパートナー不在のまま生きてきたということになる。


「ログラックなら女でも入れる娼館あったんだけどさぁ、さっき言った通り、性癖曲がる感じがして、なんか最近怖いし……」


 なんだかよく分からない理屈だ。

 あなたはいっそのこと最後まで曲げてしまってはと提案した。


「最後まで曲げて戻んなくなったらどうすんだよ! 折れちまったらどう責任取ってくれんだ!」


 あなたは女々しいやつだなハイハイと流した。

 まったく、そんなのでは男らしさなどあったものではない。

 あ、今は女の子だったね、とあなたは笑った。


「イギィィイ――――! 訂正しろ! 俺は、男だ!」


 ハウロの無理筋な宣言にあなたは頷く。

 そして、あなたも同様に返す、自分は女だと。


「はぁ~ん? 女にしちゃ少し貧相すぎませぇん? 平たい胸の種族でございますかぁ……ん? 思ったよりあるな……」


 あなたの胸を無遠慮に撫でるハウロ。

 そして、その手がそのまま腰をなぞっていく。


「!? 細ッ!? え、なに、この……えぇ? す、すげぇボディライン……なんつうくびれ……やっべ……こんなエロい体で世の中に申し訳ないと思わねぇの?」


 ハウロのやらしい手付きにあなたは笑い、ナマで見たいかと尋ねた。


「見たいですねぇ!」


 では、このままストリップをしてやってもよい。

 そして、最後はベッドでもてなしてあげようではないか。


「マジで!?」


 あなたはエルグランドにおける最高級娼婦だ。

 そのもてなしがタダとは、嬉しいなんてものではないだろう。

 もちろん、そのおもてなしにも提供条件はあるが……。


「聞かせてくれ」


 ハウロが女であるならタダでいい。


「なるほどぉ! やるやる! 見せてくれ!」


 さっきまでの抵抗は何だったのかと思うほどあっさりとハウロが頷いた。

 まぁ、酒がやや回って来てるんではないかと言う気はする。

 実を言うと、あなたもちょっと酒が回っている気がする。

 弱体化の影響だろうか? 多少なりと酒が効いてるような……。

 まぁ、多少の酔いは心地よいので問題ない。

 あなたはハウロをその気にさせるべく、ストリップを始めた。



「うひょおおおおお! ストリップキタァァァァァァ!」


「めちゃ落ち着いてる! 手練れの雰囲気! ナンバーワン嬢のストリップの時みたいだ!!」


「よし、生肌じゃ――――!!!! ストリップ伝説の幕開けじゃ――――!」


「ストリップのためのBGMキタァァァァァ! あ? この音楽どこから鳴って……? ん?」


「よし! ストリップ好スタート! 見て! あれが10代の柔肌、絶好の滑り出し!!」


「ストリップ、絶好の美しさ!」


「ストリップのじらし! 期待が溜まるぞ~! ワクワクだ!」


「さぁ、最後に弾けろ! お見せっ! おまえの裸を!」


「ストリップ!!!!!」


 ハウロは大興奮だった。

 あなたもまた、久方ぶりのストリップに気分が昂った。

 あなたはストリップやポールダンスを娼婦の嗜みとして会得している。

 が、ホールで披露したことはなく、個人相手にしかやったことがない。

 そのため、あなたは経験人数の膨大さに反し、ストリップを披露した相手は非常に少ないのだ。


 さて、ストリップの後は、あなたのお愉しみの時間だ。

 あなたはストリップを披露していた壇上からハウロを誘う。


「あ~……エルグランドの最高級娼婦、パネぇ……綺麗だ……へへ、せっかくだから、愉しませてもらうとすっか……!」


 あなたも楽しみだ。

 ハウロを抱くのももちろん、その逆も。

 なんせ、ハウロはモモロウの後のループなのだ。

 つまり、あなたの知る中でもトップクラスに上手いモモよりもうまいはずなのである。


 まったく、今夜は眠れないな!

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