30話

 冒険の後始末が終わった。


 レインの手で戦利品が粗方売り捌かれた。

 換金しやすい武具類の売却益だけで、金貨1万枚を超えた。

 調度品類などがどうなるかは不明だが、宝飾品類はそれだけで多大な価値がある。

 少なく見積もっても、金貨3万枚を下回ることはない、との見込みだった。


 あなたたちが冒険で消費した費用を補って余りある、と言うことだ。

 つまり、次の冒険に行くための代金は楽勝で賄えるということだ。

 そして余裕ができれば、装備品や道具に金を注ぎ込むのが冒険者と言うもの。

 あればあるだけ装備に回せてしまうくらいに、装備品は天井知らずに金がかかる。

 あれだけあった戦利品が消え去って、あなたたちの装備は静かに充実した……。



 フィリアの手で装備品が補修され、レウナの手で買い出しが行われ。

 そして、あなたによってみんなの衣服が綺麗になった。

 その冒険の後始末の最中、あなたたちは最後の追い込みに訓練の総仕上げをした。


 と言っても、そう厳しいことをするわけではない。

 今まで学んで来たことを再確認し、軽く手合わせをし。

 座学の答え合わせをして、教わった技を試して。

 そんな、試験前の復習のような、軽い再確認の仕上げだ。

 それが終わったら、あなたたちの訓練は終わりだった。


「サシャさん。ファイター10、ウィザード7。どちらも順当に均等に伸びたという感じですね。1か月で4レベル上昇と言うのもなかなかすごい話ですが、まぁ、経験さえ積めば劇的に成長するのは当たり前と言えばそうですしね。なにより、あの戦力でマハラジャを突破できたなら、そうなるのも必然と言うかなんと言うか。どうにせよ、劇的に強くなったので、いまやサシャさんは疑いようもなく超英雄級冒険者です。胸を張ってください」


「はい! ありがとうございます!」


「レインさん。ウィザード15、キャット・クレイドル2……ちょっと初見のクラスなので分かりかねますが、どうやら『フォーマ』と言うポイントを溜めることで呪文を強化するクラスのようです。セーブ難易度向上、あるいはいずれかの呪文修正を適用。『フォーマ』の消費量がそれぞれ違うようですが、詳しくは不明です。また『フォーマ』の消費で呪文を発動することもできるようです。運命を紡ぎつつ秘術連盟で働いてる感じでしょうか。強過ぎやしませんかそりゃ。まぁ、強クラスに就けたなら、そりゃよかったですねと言うことですのでよしとしましょう」


「ありがとう。うちの女たらしの持ってる爆弾を調べるうちに、物質の秘めたるエネルギーについての見解が深まったのよ。それを利用する手立てが応用できたおかげかしらね」


「なるほど、ティルトウェイトと言ったところですか。次、フィリアさん。クレリック11、パイアス・テンプラー・ナイト4、ブレイブリー・シールド・オブ・ザイン3。ここに来て専用上級クラス持ってきましたね。ザインの勇敢なる盾。どうやらクラスレベルごとに盾に能力を付与できる能力があるようですね。呪文発動能力も順当に伸びるし、盾を強化して強くなれる。いいクラスだと思います。問題があるとしたら、盾を強化して防御力ではなく攻撃力が上がることですが、まぁ、盾で殴れとそう言うことなのでしょう。盾を武器として活用する際は特技の縛りが緩いので悪くはないですよ」


「そ、そうですね……でもたしかに神話の中ではザイン様は剣で戦いつつも、盾で殴りつけて勝負を決することが多かったですから……」


「レウナさん。プリースト15、モータル・サーヴァント・オブ・ラズル10、レンジャー2。なんと言うか普通に強くなったはいいですが、本当に普通に強くなっただけなので何も面白くないというか、べつにやれることが増えたわけではなく、今までやっていたことの強さがちょっと上がっただけと言う何とも言えない具合の成長具合です。強いて言うなら専用上級クラスレベル10で獲得した『ディスラプト・バースト』が半径30メートルにアンデッド絶対殺すウェーブを放射するのがなかなか強いですが、アンデッドにしか効かないのがなんともまた」


「弱くなったわけではないからそれでいい」


「イミテルさん。モンク16。ファイタークラスを再訓練してモンクを再取得し、さらに各種特技も再訓練し、バキバキにチューンしまくって連打にすべてを賭けるビルドに再構築することができました。一応、それ以外の能力も以前と変わらない程度にはこなせるので、決して弱くなったわけではありません。そのあたりは安心してくださって結構ですよ。一気に5レベルも伸びた上に、やや格上相手にも通じるコンボを会得出来たので、決して足手まといにはならないでしょう。こんだけレベルがあれば、モンク以外ならもっと強くなれたというデカすぎる十字架は気にしないように」


「礼を言う……しかしな、その5レベル分とやらの成長をした割りに、連撃以外はほぼ変わっていないというのは、成長したと言えるのか?」


「あーあー聞こえなーい。おめでとうございます、イミテルさん」


「おい……いや、いい……私が本気で連撃を放てば、フィリアすら一瞬で沈められるというのはすさまじい武器だ。それを得るために他を犠牲にしたと思えば仕方ないことなのだろう」


「いえいえ。最低限度の実用性を維持しつつのロマンビルドは楽しいですからね。本当は『一撃必殺』に『戦いの跳躍』、『宿命剣』『急降下攻撃』を組み込んで、期待値400点コンボを想定したのですが『急降下攻撃』の200フィート以上落下の条件を活かせる場面が思いつかず断念したのが返す返すも惜しいです。条件さえ満たせばダメージ4倍と強力なことこの上ないのですが……」


「すまんが、200フィートとはどれくらいだ?」


「60メートルくらいですね」


「どういう状況ならそれを満たせるんだ……」


「私もそれが分からなかったので断念しました。他にもいろいろ考えたんですけどね。マルチクラスとかも本当はしたかったんですよね。でも、モンクが基礎でマルチクラスとなると選択肢が少なくて。貴族と言うからには高貴なる行いは得意でしょうから、清貧の誓いを立てつつ剣聖になってもらうとかくらいしか思いつかなかったんですよね」


「剣か……基本はできるが、そこそこ止まりしか使えんぞ」


「まぁ、剣聖とは言うものの拳もOKなんで、拳聖とかそう言うアレなんでしょう。あとは決闘請負人になるとか。しかし、シティアドベンチャー専門はどうなんでしょう? 一番順当なところとしては、刺青を入れればよかろうと言うところなのですが……」


「馬鹿を言うな。未婚の女が刺青なんか入れられるわけなかろう」


「そう言う社会通俗のこともあって断念しました」


 ジルは随分とイミテルのことを真剣に考えてくれていたらしい。

 依頼として頼んだとは言え、頭が下がる思いだ。


「あ、いえ、まぁ……趣味と実益を兼ねていると言いますか。まぁ、はい。楽しんでやっていたことなので、お気になさらず」


 そう言ってくれるならありがたい限りではある。

 あなたはジルへの報酬は奮発しようと考えた。


 さて、全員の実力は問題なく向上した。

 EBTGメンバーだけで、国の1つや2つは落とせそうなレベルだ。

 いや、落とせそう、ではない。間違いなく落とせる。


 これだけの実力を得た今、もはやソーラスを攻略するのになんらの不足も無い。

 冒険者学園に通ったり、訓練したり、再挑戦したり、訓練したり……。

 そんな紆余曲折を経て、ようやく……そう思うと、感慨深いものが込み上げてくる。


 いや、まだだ。まだこれからの話なのだ。

 今まで辿って来た足跡に想いを馳せて懐かしむのは、迷宮を踏破してからでいい。

 あなたは頭を振って気を取り直すと、招聘した面々に礼を言った。

 みんなのおかげで、ソーラスを踏破できそうだと。


「なぁに、俺とメアリは大したことしてねぇよ。いや、ほんとに大したことしてねぇな。みんなのことボコったくらいだぞ」


「タダ飯とタダ酒をかっ喰らいまくりつつ、お嬢様と激エロ生活しつつ、合間に運動してた感じですね」


 そうかもだが、超英雄級戦士の2人の指導は実にいいものだった。

 その肉体能力だけで頂点に登り詰めた超英雄級戦士を肌感覚で知ることは重要だ。

 英雄の領域に至り、その世界に身を浸したからこそわかる、2人のいる高み。

 サシャもフィリアも、モモとメアリの高みを知り、超英雄級戦士の恐ろしさが身に沁みて分かったことだろう。


「私はとてつもなく仕事をしたと思います。追加報酬をもらっても許されると思います」


 ジルの要求は正当なものと言えるだろう。

 全員の最も効率的な成長の方向性を、各々の諸事情に合わせて策定してくれた。

 その上で、その全員の成長に対し効率的に修行をつけてくれた。

 今回の全員の成長はジルありきのものと言ってもいいだろう。

 あなたは深く頷いて、音波耐性の他にもう1つ何かつけようと提案した。


「やったぜ。言ってみるものですね」


「ずるいわ。ねぇ、私もかなり仕事をしたと思うのだけど?」


 コリントの言うことも間違ってはいない。

 ジルほど仕事したかと言うと話は別ではあるのだが。

 高位魔法による諸々のサポートは実に手厚かった。

 秘術も奇跡も同等クラスで使いこなせる汎用性の高さ。

 武僧の技術もあるので、イミテルの急成長はコリントのお蔭だ。

 目立った活躍ではないが、実に助かった。

 しかし、装備に完全耐性をもう1個付けてやるほどの働きではない気がする。


「くっ……でもまぁ、たしかにその通りね」


 まぁ、報酬についてはなにか考えておく。後ほど話し合おう。


「私はあんまり活躍出来なかったかな?」


 ノーラがそんな調子で残念そうだが、ノーラも十分活躍してくれた。

 たしかに、全員の成長に対して貢献したかと言うと微妙だが……。

 長年の経験からくる生きた忠告、助言は得難いものだ。

 それに模擬戦の相手として、他にはない種類の軽戦士だったので十分活躍してくれた。


「俺は飯作ってただけだな。でも、ごはんは大事だろ」


 そう言って胸を張るケイ。実に愛らしいおっぱいだ。

 ケイのご飯は美味しかったし、飽きも来なかった。

 働きは地味だが、とても重要だった。本当においしかった。

 特に、ケイのはじめてが最高においしかった。


「……ところで一応聞くんだけど」


 なんだろう?


「俺を男に戻してくれたりは……するのかな?」


 なんで? あなたは首を傾げた。

 男から女になるなら大歓迎だ。

 そのための道具も負担しようではないか。


 しかし、女から男になるのは歓迎しない。

 そのための道具を用立てるなどありえない。


「だよな……ジル、後でよろしく」


「はい。後ほど落ち着ける場所でやりましょう」


 どうやらジルに頼んで戻してもらうらしい。残念。

 高位の術者ならば出来るだろうとはわかっていた。

 儚い抵抗だった……あなたは深く溜息を吐いた。




 あなたは全員に報酬を支払った。

 まず、ジルとコリントには事前に相談した通りの装備品。

 ジルは以前にプレゼントした、純粋魔法属性耐性の防具に、音波耐性と毒耐性を付与してやった。

 コリントには純粋魔法属性耐性の防具をプレゼントした。

 そして、ケイとノーラにはネルー貨幣にして20万ネルーの支払いだ。


「うひゃー……凄い大金……」


「総額で言えばこれ以上のものは手に入れてるけど、即金でとなるとインパクトがすごいな」


「学園長先生って、なんだかんだ定額のお給料だから臨時収入あると安心感あるんだよねー」


「そう言えばその学園の仕事は大丈夫なのか?」


「思い出したくなーい……」


「ああ、そう……」


 そんなことをぼやくケイとノーラはともかくとして。


 あなたはモモとメアリに本当に報酬は要らないのかと再確認をした。

 この訓練期間中、何度も確認したのだが、報酬は要らないと言われ続けている。

 1か月近くに渡って2人を拘束していたのだから、相当な報酬が必要だろうに……。


「いいさ。金が欲しくてやったわけじゃねえからな」


「そうです。私はお嬢様とエッチがしたくて来ました」


「身も蓋もねぇな……俺もだけどさぁ……」


 まぁ、この訓練期間中の浮気えっちは最高に気持ちよかった。

 トモに隠れて、モモと2人きりでないしょのないしょの浮気えっち。

 脳が灼けそうなほどの背徳感と興奮があなたを満たしてくれた。最高だった。

 やはり、モモ女の子味は抜群においしい……!


「どーせ、俺らの場合、この大陸にいる理由はあんたしか供給できない若返りの薬だからな」


「副次目的として、魔法を覚えるとか、便利な魔法の道具を手に入れるとかはありますけど、主目的はそれですね」


「だから、あんたに呼ばれて色々やるのは結構楽しいし、実益もあるのさ。あんまり報酬とか気にしなくていいぜ」


 まぁ、2人がそう言うなら……あなたはひとまず納得した。



 これにて全員への報酬の支払いも終わった。

 あとは各自ご自由に。必要なら魔法による送迎もする。

 それによってジルとケイとノーラが自前でアルトスレアへと帰還した。

 そしてモモとメアリはあなたの魔法による送迎がされた。

 最後の1人、コリントはまだ居座っていた。


「だって、ヒマだもの……せっかくお部屋も用意してもらったから、しばらくここに滞在するわ。家の管理くらいはするから任せておいてちょうだい」


 まぁ、コリントがそうしたいと言うなら……よいのではないか。

 不在時の管理もしてくれるというならありがたい限りであるし。



 さてはて、こうしてあなたたちは次の冒険への準備を終えた。

 ほんのつい先日帰って来たばかりなのですぐまた再挑戦とはいかないが。

 次に挑んだ時が、あのドゥレムフィロアが死ぬ日となるだろう。


 その先、10層には何が待っているのだろう?

 更なる迷宮か、あるいは未だ誰も見たことのない財宝か。

 まったく、楽しみなことこの上ない。

 やはり、冒険とは最高だ。

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