28話
あなたたちは少しの休憩を取った後、戦利品の回収に移った。
EBTGメンバーはレウナとイミテルを除き、『ポケット』が使える。
この『ポケット』は重量を無視できないが、体積を無視して物を保管出来る魔法だ。
ただ、例外として、銀や金などの貴金属類の重量は無視して保管出来る。
厳密なことを言えば、金銀ではなく銀貨や金貨を重量無視で保管出来るというべきだが……。
さておいて、その魔法が使えるがゆえに、運搬には困らない。
高額な調度品類や武具、また美術品の類は重量を帳消しには出来ないが……。
そのあたりは『四次元ポケット』に突っ込めばいいだけの話だ。
あなたたちは手分けして戦利品類を片っ端から回収しにかかった。
「しかし、なんと言うか。ここらだけ飛び抜けて敵強くない?」
「そうね。4層の『氷河山』はまだわかったのだけれどね。霜巨人の集団に、ホワイト・ドラゴンの若年個体から老年個体まで……腕利きなら踏破出来る感じがするわ」
「で、5層になったら鎧袖一触で薙ぎ払えるでかいアリだのブサイクなライオンが出て来るだろ?」
「それなのに、反対側に向かうと異様に強い化け物が居る。妙なバランスよね」
「君はどう思う?」
ケイとコリントの会話にあなたは首を傾げる。
バランスとかなんとか、なんの話だかよく分からない。
迷宮が冒険者側の事情を考慮してくれるだろうか。
そもそもどういう前提のもとに成り立つ事物かもわからないのに。
冒険者に来て欲しいのか、来て欲しくないのか。
仮に来て欲しいのだとして、数多居るモンスターを殺して欲しいのか、殺して欲しくないのか。
逆に来て欲しくない場合、それは1歩たりとも立ち入らないで欲しいのか、踏破さえされなければいいのか。
そのあたりのことは当然わからないし、なぜモンスターがいるかもわからない。
伝え聞くところによると、元は巨人族が創り出した奴隷種族を労働させるための鉱山だったと言うが。
それだって本当なのかはわからない。
どのように資源を得ていたかもわからない。
そんな迷宮を相手に、敵の強さがまちまちなことに意味を見出せるのだろうか。
想像を働かせることは大事ではあるのだが。
それも度を過ぎれば、ただの妄想になってしまう。
わからないことに無理やり理由を見出すのは真実を歪めることにもつながる。
わからないものをわからないままにすべきではないが。
わからないものを無理やりわかろうとすると、逆になにもわからなくなる。
そう言う意味では、わからないものをわからないままにすべきであることもある。
この迷宮はそう言うものなのではないのだろうか?
「あー……たしかにそうかも。ちょっと考え過ぎだったかな」
ケイの本職はトレジャーハンターであるから、主たる活動は迷宮探索だろう。
アルトスレアの迷宮は、アルトスレアにて栄えた魔科学文明の遺跡が多い。
そうした遺跡は、かつては商業施設だったり宗教施設だったりと、意味がある。
そんな経歴から迷宮に対して意味を考えてしまうのは職業柄と言えるだろう。
ケイは苦笑して、考えを振り払うように頭を振った。
「認めたくないものね。私が愚かなゲーム脳高齢者であることを……!」
一方のコリントはなぜか打ちひしがれて壁に寄りかかっている。
いったいどうしたのだろう。ゲーム脳とはどういう意味だろうか?
なんだかよくわからないが、だいぶ落ち込んでいるようだった。
あなたはコリントにヒマならお宝を集めてくれと仕事を頼むことにした。
変に落ち込んでてもしょうがないので、気分転換になればと思ってのことだった。
「ええ、分かったわ。ゲーム脳だって役立つところを見せてあげるわ……隠し金庫がありそうなところを探したりね!」
やっぱりなんだかよくわからないが、張り切っているようなので頑張って欲しい。
あなたはコリントの働きに期待しつつ、お宝の回収に戻った。
およそ2時間ほどかけて収奪品を掻き集めた。
そうしたところで、あなたたちは野営をすることにした。
マハラジャとの戦いで大いにリソースを消費した。
そのリソースの回復のためにも休息は必要だ。
あとは帰るだけとは言え、帰り道に何もないとは限らないし。
「いい経験点稼ぎになりましたね。アヌシャラの複数討伐もあって、相当な経験点になりましたよ」
「はい、いい経験になったと思います。こう、剣の冴えと言うか、攻守のバランスについての理解度が格段に上がったというか……」
「得た経験点的に、1つや2つくらいはクラスレベルを上げられておかしくはありませんからね。どのタイミングでクラスレベルが上がるかは割と個人差があるので一概には言えませんが、帰ったらまた軽く訓練をすればまず間違いないでしょう」
「レベルが上がるというのは……えっと、こう、腕が上がるという意味ですよね? それって、そう言う数値的に読み取れるものなんですか?」
「何十人か弟子や後輩を育てて来た傾向からすると、コツを掴んだ、と言えるような感覚に至るとレベルアップするようです。逆の可能性もありますが」
「コツを掴んだ、ですか……」
「そのコツを掴むに足る経験は既に得ているので、ゆっくりと動きを見つめ直す機会があれば理解できるとか、そう言うことではないでしょうか」
「うーん……? なるほど……?」
ジルの話は相変わらず難解でよく分からない。
まぁ、他人の強さを推し量るというのは体感的なものだ。
それを明確に言語化しろと言う方に無理があるのだろう。
「まぁ、みんな一気に強くなったし、ジルくんの言う通り、一休みして訓練し直せばもっと強くなると思う! やっぱり、才能ある子って違うね」
「才能、ですか」
「うん。サシャちゃんは才能あると思うよ」
「そうですか?」
あなたはノーラの意見にはどちらかと言えば否定的だった。
サシャが無才かと言うとそうではないと思うが、天才ではない。
「才能って一口に言っても、いろいろあるからね。私はグレイラインの里から出てだいたい100年くらい人間社会で暮らして来たわけだけど」
「100年……」
「やっぱり一番強いのは、体力ある人なんだよね。凄くセンスある子でも、虚弱で大成出来なかったとか、大成する前に病死したって言うのはすごく多くてね……」
「あー……」
「サシャちゃんはものすごく体力があるし、病気をしない頑丈な体があるからね。そこに加えて、いくらでも努力できる環境をくれるご主人様がいるわけだからさ」
「才能は、肉体の素質と、努力を許す環境が作る……と言うことでしょうか?」
「物事の上達速度を左右するセンスが不要とは言わないけど、努力できる体と環境がないと、そのセンスも持ち腐れになっちゃうからね」
「なるほど……」
「サシャちゃんのセンスは並だとは思う。でも、そのセンスを補える体力と、ものすごく恵まれた環境があって、それに甘えず努力できる意志力がある。だから才能あると思うんだ」
なるほど、そう言う意味であれば、たしかにサシャは才女と言える。
なによりも得難いのは、現状の自分に満足せずに、向上心を持ち続けられること。
努力できる環境があっても努力をしない人間もいるように、現状に満足する者も居る。
まぁ、サシャの場合は、あなたと言う目標が居るからと言うのもあるとは思うが。
「あと、サシャちゃんって読み書きできるでしょ。それできるだけで、ものすごく勉強とか訓練で有利だからね。冒険者になる前に、どれだけ知識を積み上げていたかって言うのは、すごく大きいよ」
「それは、なるほど、たしかに。読み書きできないと、そこからですもんね……」
加えて言えば、サシャの読み書きの技能はハイクラスのそれである。
貴族向けの書籍ですら平気で読み下せるというのは特殊技能と言ってよい。
社会における識字率次第では、読み書きと言うだけで特殊技能だったりもするが……。
言われてみると、そうした総合的な才能や素養と言う意味では、たしかにサシャは優位にあるだろう。
ものは考えようだが、総合的観点における才能と言うのはちょっと考えたことがなかった。
世の中にはいろんな物の見方があるなと、何度目かも分からない気付きだ。
こうした別視点と言うのは、言われてみないと気付けないことの方がずっと多い。
まったく、いつになっても学ぶことは尽きないものだ。
財宝でいっぱいになった『ポケット』を抱え、あなたたちは帰還する。
帰り道にホワイトドラゴンのいた個所を見たが、特に何もいなかった。
どうもモンスターが自然発生するようではあるのだが、すぐに再発生するというわけでもないらしい。
あるいは、見渡す限りの広大なこの空間にはホワイトドラゴンのコロニーでもあるのだろうか?
この山頂は住み良い環境なので、特別強い個体がどこからかやって来て住み着くとか……。
可能性としてはそちらの方があり得る気がして来た。
あんな強力なドラゴンがポコポコと湧いてこられても困る。
4層『氷河山』をさっさと降り、3層『大瀑布』も同様にさっさと降りる。
そこまでくればもはや苦戦する要素など何もなく、あなたたちは無人の野を往くが如くに帰還する。
そして、家へと帰り着いたあなたたちは祝勝会を催した。
料理のできるメンバーが料理を作って、持ち寄って。
美食と美酒で食卓を満たしたら、後は思う存分に飲み食いするだけだ。
可愛い子が居たら口説き、気に入らない奴が居たら殴り、眠くなったら寝る。
そんな冒険者らしく粗野で、荒々しくも活力に満ちた、そんな祝勝会だ。
「おつかれ、おめでとう! 特別にメアリをファックしていいぞ!」
「えっ?」
「おやおや、サシャちゃんは私といっしょに寝たいわけですか……では、お姉さんがサシャちゃんのベッドでおねしょしてあげましょう!」
「ええっ!? やめてください!!!」
「お酒いくら飲んでも酔えないので面白くないんですよね」
「私も毒無効だから1ミリも楽しくないの。ジルは無効と言うわけではないのよね」
「アルコールの飲用限界は1プラス耐久修正値の2倍なので、大量に飲む必要があって面倒なんです」
「なるほどね」
「なによ、あなたたち分かってないわね! 酔えないってことはね、飲みが足りないってことなのよ!」
「すみませんが、樽で蒸留酒を持ってくるのをやめていただけますか?」
「お酒おいしいね! ケイくんも飲んでる?」
「飲んでる飲んでる。ノーラはほどほどに飲みなよ。2日酔いになるよ」
「はーい」
「やはり飲み比べか……いつ開始する? 私も参加する」
「レウナさん」
「エルフは酒に強い……なぜか知らないが、そういわれているので、たぶん私も酒に強いと思われる」
「ならば、誰が強いか決めるほかあるまい。冒険者とはそのようなものだ」
「聖職者としては過ぎたる酒食は窘めるべきなのですが……」
「私も聖職者だが、その手のことは教義にないからなぁ……よく考えるとアンデッドを殺せ以外のまともな教義を聞いた覚えがないぞ……?」
「……レウナさんって、一応は教皇とかに相当するものすごく高位の聖職者なんですよね?」
「こ、この場合、私の位の高低の問題ではなく……我が神が生と死の狭間にあっては寛容であらせられると言うだけだ……問題ない……」
「まぁ、たまにはいいですか……」
「うむ。では、このワインをいただくとするか……トイネではなかなか手に入らんので楽しみにしていたのだ。マフルージャのワインは味が濃くてうまい」
「飲み比べと言ったらウオッカだが、こちらではラムか? 蒸留酒以外はありえん」
「そ、そう言うものか……?」
目の前で繰り広げられる乱痴気騒ぎはとにかく賑やかで、楽し気だ。
そうそう、冒険者とはこのようなもの……あなたはしみじみと頷いた。
自己研鑽に熱心な冒険者は身を謹厳に慎むことができる。
だが同時に、思いっ切り羽目を外して楽しむこともできる。
喧嘩してイスやテーブルを壊すくらいなら可愛いもので、店を潰すにまで至ることもある。
そしてやがて調子に乗って『ナイン』を起爆して町が更地に……。
さすがにソーラスを更地にしたらまずいのでそこらは自制するが。
あなたは喧嘩が始まったら混ぜてもらおうとワクワクしていた。
「……! な、なんだ、寒気がしやがった……死の気配が、プンプンしやがる……!」
「モモもか……? 私もだ……」
「レウナちゃんも? モモはヒュンと来た感じですか?」
「あ、ああ……めっちゃ縮んでる……」
「モモのタマヒュンセンサーは正確ですからね……あれ? いまタマなくないですか?」
「……言われてみるとそうだな。いや、でも、なんかヒュンッとしたんだよ」
「そうですか……私もサブイボが立っています。この感じ、メインイボも立ちそうで……」
「メインイボ!?」
「メアリ。サブイボは分かるが、メインイボとは、なんだ……?」
「レウナちゃんにもついてる、胸に2つあるやつですよ」
「それイボ扱いでいいんだ……」
「イボ……」
なんでかレウナとハンターズの2人が反応していた。
どうしたのだろう……?
その後、特に喧嘩が勃発することはなく、祝勝会はしめやかに終わった。
このメンバー、大変な強者が多いので、喧嘩などしてみたかったのだが……。
ケンカは模擬戦と違って素手での戦いとなりがちで、それはそれで楽しいのだ。
まぁ、いずれまた機会が巡ってくることもあるだろう。
あなたは前向きに考えることにした。
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