24話

 バカンスの時は和やかに過ぎていく。遊び放題、ヤリ放題の日々だ。

 時折、レインの作業を手伝ったり、フィリアに神についての講義を受けてみたり。

 ハンターズらの食卓に混ぜて貰ったり、あるいは寝床に混ぜて貰ったり。


 そんな最高に楽しく和やかな日々は、サシャのおかげで充実する一方だ。

 なんたって、サシャには夢の複数人プレイの承諾を出してもらっているのだ。

 もちろん、サシャには慣れないことであるし、あまり刺激的なことをやって癖になってもよくないので自重はするが……。


 しかし、サシャとメアリのケモ耳セットを存分に堪能し尽くすのは楽し過ぎて狂ってしまいそうだ。

 逆転の発想として、アトリから手に入れた回数券を使って呼び付け、サシャをけしかけるというのもよい。

 サシャには明らかに素質があるので、テクを磨かせ、また経験人数も増やしてやろうという師匠心だ。


 そのほか、湖で水浴びなどをするハンターズを木陰から覗き見したり。

 窃視趣味はあまりない方だが、それはそれとしてこっそりやるという背徳感のスパイスがすばらしい。

 あなたの本気の隠形技術は超至近距離での覗きを可能とするので臨場感も抜群だ。


 薄着姿で、水着姿で、そして全裸で。そうした注文をつけても応じてくれるメアリは最高だった。

 しかも凄まじく過激な水着なんか用意してくれていたりして、脳が弾け飛ぶかと思った。

 その水着姿で、2人でこっそりと睦みあったりなんかすると、もう気が狂う。


「おおよそセックスの話しか聞こえてこないんだけど」


 そんな話を感慨深く話していたところ、レインに突っ込まれた。


「しかし、複数人って……過激ねぇ」


「3人なんて、そんな背徳的な……でも、すごいんでしょうね……はぁ、3人かぁ……」


「あ、うう、それはその……で、でも、えへへ……」


「あー……うん……そう……楽しいのね……」


「えへ、えへへへ……」


「サシャちゃん、かわいい……」


 サシャもやってみたらハマったらしく、あきらかにノリノリなのだ。

 フィリアもそろそろ呼んでみようか。2人の相性がどの程度なのか知っておきたいところもある。

 レインとはまだまだ純でピュアな逢瀬を楽しみたいところだ。ロマンティックに可愛がってあげたい。


 まずディナーからはじめて、視線を交わし合い、指先だけが触れ合う微かな逢瀬だけを楽しみ。

 ディナーの後には、共にほのかな光に満たされた談話室などで心行くまで語り合って情感を高めたい。

 そうしてお互いに示し合わせることなく、月が見下ろす空の下、ダンスなどをして。

 そしてドレス姿のレインを抱き上げてベッドまで連れていき、啄むようなキスから深いキスに移行していき……。


 そんな優しくも甘い逢瀬こそが、まだまだ経験の少ない少女に必要なプレイだ。

 レインからお誘いをもらった時には、こういった心から高めていくようなはじめかたをした。


 こういうのもいいが、お互いによく知り合い、十分にベッドでのお互いを知った後。

 示し合わせることなくベッドに入って、お互いだけに通じる、ヤろう、のサインで通じ合って。

 ろくな前戯も無しに、いきなり始めるような快楽だけを貪るような雑な行為も、実にいい……終わった後は酒などをカッ喰らって寝るのだ。


「ところで、あなた。そろそろ夏季休暇終わるけど、いつ学園に戻るの?」


 感慨に耽っていたところで、レインによって現実に引き戻された。

 そう、夏季休暇が終わるのである。終わってしまうのだ。この楽しい日々が。

 何と言うことだ。なぜ夏休みは終わってしまうのか。もっと続けばいいのに。


「夏休みの終わりを目前にした子供は大体そう言うわね」


「修道院には夏休みが無かったので縁遠いセリフですねー」


「私も夏休みとかあまり関係なかったので……でも、そろそろ学園に戻って勉強したいです。自主練では物足りないところもあって……呪文回路の構築とか、ご主人様のは高度過ぎて参考にならなくて……」


「基礎レベルが違い過ぎちゃってるからしょうがないわ。ハイレベルになり過ぎちゃって、人に教えられなくなっちゃってるのよ」


「あ、やっぱそうなんですね……」


 あなたの積み上げまくった技術は極めて高度だが、そのせいでもはや人に教えるに適さないレベルにまで至っている。

 技術全体の習熟度が上がり過ぎた結果、もはやどこからが応用でどこからが基礎なのか分からない。

 頭では理解していても、手癖でやっているような部分もあり、言語化困難だったりもする。


 そのため、教えることの専門家である冒険者学園の教師らに頼るのが一番という結論が出る。

 剣技は感覚が重要なところもあるので、なんとかならないでもないのだが。

 理論の方が重要な魔法を教えるには、論理的に教えてくれる教師らが一番なのだった。


「ご主人様みたいな魔法剣士になるのはむずかしいですね……ようやく初歩の初歩の探知とかを使えるようになったくらいで」


「それでも恐ろしく早いわよ。普通、魔法が使えるようになるまで年単位ってことも珍しくないんだから」


 そう、サシャはあなたが教えた『ポケット』の魔法から始まり、この大陸で使われている魔法も体得することに成功したのだ。

 まだまだ初歩も初歩だそうだが、習得の早さから魔法使い専業にならないかと教師らから誘われるくらいだとか。

 自分のようになりたいと憧れるサシャの姿はあまりにも眩しい。あなたもかつてはそんな風に憧れを抱いていた……。


「この調子で行けば、『魔法の矢』を使えるようになるまでそう遠くはないし、それが使えれば魔法剣士を名乗る資格は十分よ」


「そうですね。物理攻撃によらない、魔法による遠距離攻撃手段を持つって言うのは、ものすごく大きな手札なんですよ」


 それは間違いない。物理的な防御には優れていても、魔法には弱いというような存在もいる。

 そのほか、非実体系のモンスターには魔法でないと通用しないということもある。

 非実体にもいろいろあるので、一概にコレなら通じるとは言えないのも難しいところだが。


「そうね、アストラル界に離脱していたり、単に霧化してたり、創り出した幻影で揺らいでたり……いずれにせよ魔法なら対処できるわ」


「がんばらなきゃ……だから、学園には戻らないとですね、ご主人様」


 あなたはしょうがないとうなずいた。べつに、このまま学園をブッチしてやろうと思っていたわけでもないし。

 ただ、もうちょっと夏休みが続いて欲しかっただけだ。


「わかるわかる。でも、名残惜しいくらいがちょうどいいのよ。特にあなたなんか、遊んで暮らすの向いてないもの」


 あなたはそう見えるだろうかと首を傾げた。


「ええ。あなた羽目を外すのがうまいから分かり難いけど、根本的に真面目で勤勉なのよ」


「あ、それはたしかにそうですね。ご主人様って、毎日なにかしらの訓練はしてますもんね。備忘録もしっかりつけてますし」


「勤勉でなければ、自分で自分の下着を仕立てたりしないと思いますしね。料理だって、あそこまで上手にこだわる必要ないでしょうし」


 言われてみればそうなのかもしれない。そうなのかも……。

 思い返してみると、真面目と言われたことは多いような気もする。

 町中や自宅での羽目の外しっぷりが酷いので、冒険者になってからはあまり言われなかったが……。


 まぁ、生来の性格はともかく、優れた冒険者は多かれ少なかれ勤勉ではある。

 あなたも真面目かはともかく、勤勉に自分を磨いている自負はあった。

 冒険者と言うと腕っぷしの強さがすべてのように見られがちだが、実際は違うからである。


 では、腕っぷしの強さなど重要ではないと言うことかと言うと、これもまた違う。

 腕っぷしの強さは前提である。あって当然、無ければ話にならない。そう言うものだ。

 そこから付加価値として、知識や技能、容姿などがあるのだ。


 腕っぷしの強さは才能で補えるにしても、それ以外のものは努力が必須。

 腕っぷしだけで登れるのはやはり二流の領域までだ。一流の領域にはすべてが必要なのである。

 必然的に、一流冒険者と言うのはみんながみんな勤勉と言うことになる。真面目かはともかく。


「で、そんな勤勉なあなただけど、バカンスはいつ終わりにするの? 夏季休暇は来週末までよ」


「寮のお掃除もしないとですしね。それに王都の屋敷も、1か月以上空けてたわけですから……」


 7月半ば頃から、8月終わりまでが夏季休暇期間だったので、たしかにほぼ丸1か月留守にしていたことになる。

 王都の屋敷は人数が人数なのであっと言う間に片付くだろうが、学園の寮はそうはいかないだろう。

 あなたは今週の終わりを目途に撤収をしようと提案した。使用人たちにも告知と準備の時間が必要だ。


「そうね。まぁでも、楽しかったわね。友だちとバカンスをする、いい思い出になったわ」


「そうですね。私なんかは湖水地方なんて一生縁がない場所だと思ってたので、なおさらですね」


「また、来年も来たいですね」


 あなたは深く頷いた。来年もまたここでバカンスをしよう。次は時間をかけて準備をしようと思う。

 だれも領有してないのだから、ここに家を建てても誰も文句を言わないはずだ。

 まぁ、もし言い出したところで、そこは暴力や金で解決する気満々だったが。


 来年の約束をして、あなたたちはゆるやかに撤収の準備に取り掛かった。




 使用人たちに告知をし、ハンターズにも同様に告知をし。

 荷造りや土産の用意、そうした準備にそれぞれの者たちが取り掛かって行く。

 撤収は週末なので、準備の取り込み具合も緩やかだ。慌ただしくはない。


「撤収ですか。まぁ、そろそろ晩夏って頃合いですもんね」


「僕はもうちょっとここに残りたいなー」


「ダメだ。今週末で王都に帰る。歩いて帰りたくない」


「拙者もまだ涼みたいでござる」


「私も私も」


「私もだ」


「ダメだ! 湖水地方に逗留したら、トモちんが元気いっぱいなままだろ! 相手すんの誰だと思ってんだ!」


「モモ以外に誰もおらんでござろう」


「毎日毎日しんどいわ! いい加減にしろや! 身が保たんわ!」


 むしろ毎晩尻を好き勝手されて問題なく過ごせている時点で凄い気がした。

 ボルボレスアスの民は強靭であると同時、回復力にも優れている。そのおかげで尻がズタボロにならないのだろうか?


「まぁ、ここらには娼館もないからな……モモとトモちんは盛り合えるが、私たちが愉しむには娼館が必須だし……」


 ハンターズは全員同性がイケる程度には爛れたチームだが、基本チーム内での交歓はないらしい。

 モモとトモは例外なようだが、女性陣はみなそうだ。そのため、楽しむとなったら娼館に行くらしい。


「娼館はいい。熟練のお姉様でも、女同士の経験はほぼ無くてうぶな感触が楽しめたりするからな」


「実質的に処女なので、通常料金で水揚げできると考えると最高だ」


「この大陸、女同士、男同士が一般的ではないせいか、同性NGの案内がある娼館ってまずないんですよね」


 その娼館がたくさんある王都への帰還日については理解してもらえたと言うことでいいのだろうか。


「ああ、はい。週末ですね。いいバカンスでしたね……」


「来年……は、俺たちまだこの大陸いんのかな? いるなら、また来たいもんだが」


「さぁ……若返りの薬の供給元が、この女たらしである以上はそうなるんじゃないのか」


「それもそうだな……エルグランドには行きたくねぇし」


 アルトスレアからのエルグランド行き航路は存在しないが、ボルボレスアスからのエルグランド行き航路は存在する。

 そのためか、ハンターズのメンバーはエルグランドのヤバさは理解しているようだった。

 なんなら、エルグランドからのボルボレスアス航路も確立しているので、エルグランドの民と会ったこともあるのだろう。

 かく言うあなたもその航路を使ってボルボレスアスに渡った身なので、不自然な話ではない。


 そう言えばだが、この大陸は位置的にはどのあたりに存在するのだろうか?

 この世界でトップクラスに航海技術の発達しているボルボレスアスの民なら知っているのかも。


「へ? ああ、ここはエルグランド行き航路の途中にある大陸だよ」


 ボルボレスアスからのエルグランド行き航路は、およそ90日におよぶ大航海だ。

 極めて強力な海流があり、それに乗ることで90日なので、これでも短いらしい。

 そしてだが、エルグランドからボルボレスアスに行く航路は、同じ海流を使う。

 海流とは循環しているものが多数あり、あるエリアで大きな円を描く。ボルボレスアス、エルグランド間の海流もそうだ。

 その円の反対側を使うため、距離的には凄まじい開きがある。

 エルグランドの民がこの大陸の存在を認知していなかったのは自然な話と言えよう。


 実際のところ、エルグランドでも上流の人間なら認知している可能性は高い。

 ボルボレスアスから情報を継続的に仕入れている者なら認知しているのは間違いないし。

 あなたが知らなかったのは、別大陸への冒険にそこまで執心していなかったからだろう。


「位置的にはちょうど、ボルボレスアスとエルグランドの間くらいじゃないか?」


 あなたたたちが生きる大地と言うのは、球体であるらしい。

 あなたは計算で示された結果で丸いと言われてもよく分からなかった。

 しかし、宇宙まで魔法で追放された者が丸かったと言っていたので丸いのだろう。


 球体上で、熱帯気候のボルボレスアスと、寒冷気候のエルグランド。

 そして、ボルボレスアスと似通った熱帯気候の現大陸。

 なんとなくだが、位置関係は分かった気がした。


「しれっととんでもない経験をしたやつの存在が示唆されましたね」


「魔法やべぇな。絶対勝てねぇよそれ……どうやって戻って来たんだ?」


「まぁ、転移魔法とかいろいろあるでござるし、その類では?」


 あなたもどうやって戻って来たかは聞いていない。

 まぁ、宇宙は生物が生きるには適さない環境だとは言うが、即死するほど過酷でもない。なんとでもなるだろう。


「まぁ、その辺りの話はさておいて……来年も同行させてもらえるのかな?」


 もちろんとあなたは頷いた。

 今回連れて来た理由は、いいタイミングで手紙が来たからだが。

 ハンターズとのバカンスは本当に楽しかったし、いっしょに仕事をしたのも楽しかった。

 ハンターズとバカンスを共にすることに関して、なんらの疑問もない。


 まだまだハンターズには秘蔵の料理があるだろうし、同様にあなたにも秘蔵の料理がある。

 振る舞いたいものはたくさんあるし、いっしょにやりたいことだってたくさんある。

 1年や2年ではまだまだ足りない。それに、若返りの薬なんてものを求めているのだ。長い付き合いになるだろう。


「まぁ、そうかもだが、俺は長生きするから……いや、待てよ……あんた、歳幾つなんだ?」


 ざっくり15歳前後である。


「いや、よく考えたらだが、モンテルグレワムが最後に出現したのって軽く30年くらい前だぞ。するとあんた、当時も冒険者をしてたなら最低でも45くらいだろ」


 正確に何歳か数えていないし、エルグランドでは暦もあてにならない。

 あそこは神の奇跡によって年が巻き戻ったり進んだりすることもある。

 そのため、自分が何歳かというのは自己認識次第なところがあり、申告制だ。

 結果として年上の実子とか、年下の実母、実父と言う理解に苦しむものが発生することもあるのだが。


「意味が分かんねぇ。無茶過ぎるだろエルグランド」


「まぁ、そう言うところだと言われたらそうなのかもだけど……」


「でも、なんとなくでも何歳くらいか把握してたりしませんか?」


 本当に分からないのだ。

 というのも、エルグランドに存在する深淵につながる迷宮。

 以前サシャにも話した、強さの限界を超えられる迷宮は、ふつうの空間とは異なる場所だ。

 時間の流れですら正常ではなく、内部と外部の時間経過が切り離されているのだ。


 エルグランドにはこれに類するタルタロスやナラカ、アストラと言った迷宮がいくつかある。

 それらの迷宮も同様に時間経過が切り離されており、内部でどれだけ過ごしても外では一瞬たりとも時間が経過していない。


 結果、これらの迷宮を攻略するようになった上級冒険者は自分の年齢が分からなくなる。

 あなたもそれら迷宮を攻略しており、内部で過ごした時間は年単位となっている。

 そのため、あなたは随分と昔から15歳前後を名乗っているわけだ。肉体的には間違いなく15歳前後なのだし。


「ははぁ、なるほど……そう言う文化があるのか」


「しかし、それで分からなくなるほどとなると、よほど長時間攻略したのか」


 それもあるが、あそこでは速度を全開に開放しても問題がない。

 つまり、自分の属する時間流が世界の通常の時間流と異なる。

 そして、あなたの最高速度が通常時間流に対して何倍なのかが分からない。

 体感で1年経ったとき、通常時間流での経過はもはや分からないのである。


「ああ、なるほど。そう言えばエルグランドの連中は自前で倍速になれたりするんだよな……」


「生得能力が無法過ぎてやってらんねぇでござる」


「するとたしかに年齢が分からなくなってもしかたないか……しかし、そうであってもかなりの年齢なのだろ」


 あなたはうなずいた。そもそも若返り薬の供給元はあなただ。乱用はし放題なのである。


「なるほど。よかったな、モモ。長い付き合いをしてくれる友人が出来たぞ」


「はは……まぁ、ありがてぇよ。あんま、考えたくはねぇけどな」


 軽い調子で言うリンだが、おそらくは彼女が思うよりもそれはずっと難しい問題だ。

 モモはまだまだ若いドラゴニュートだ。まだ、長く連れ添った相手との死別は経験していないだろう。

 それでも、いつか訪れる結末は避けられない。


 その時、たった1人であっても同じく永きを生きる友がいれば、苦しみを分かち合える。

 エルグランドの民であるあなたはそうした友に困らないが、モモはそうではない。

 ボルボレスアスのドラゴニュートのコミュニティに属せばなんとでもなるのかもしれないが。


 どうにせよ、長命種の友人はいくらいてもいい。

 厳密に言うとあなたは短命種に分類されるが、実質的に長命種だ。

 長寿種族の常として、短命種との間に悲しみは尽きないけれど。

 モモとトモの交わし合った愛が永遠であるように。

 その絆までもが永遠であれとあなたは祈った。

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