2話
学園での講義が始まり、あなたは各種の講義を受講すると共に、イタズラなどに凝っていた。
学生らしく、年若い少女らしく、イタズラなどして学生らしい青春を過ごしてやろうと言うわけだ。
もちろん退学にされては困るので、ある程度の匙加減は弁えてやる。だからこそイタズラなのだ。
匙加減を弁えずに好き放題すれば、それはイタズラの範疇を超えて犯罪になってしまう。
そのイタズラの代償に罰則などを課されるのもまた、学生らしい青春の過ごし方だ。
あなたは学生らしいことは最大限やるつもりだ。学生らしい甘酸っぱい青春や、教師と生徒の禁断の恋なども楽しみたい。
「あなた、思いっ切り満喫してるわね……」
「意外と言えば意外ですよね……」
朝の食堂で、フィリアとレインにそんな風に評された。
「お姉様のことだから、寮が娼館まがいの場所になるのかなって……」
娼館に行きたければ娼館に行く。寮を娼館みたいにする必要はないだろう。
まぁ、エルグランドの自宅が娼館まがいのような場所になっていたのは認めるが。
それはさておき、レインとフィリア、そしてサシャは学園での生活はどんなものなのだろう。
「私は自分の至らない場所を見つめ直せてるわ。そして、そこを補う方法も色々と模索中ね。魔法に関しての講義は、今のところ特に必要なさそうな感じだわ」
魔法に関しての講義は必要ないとはどういうことなのだろうか。
「ん、そうね。実戦魔法学の講義は必要だと思うけれど、それ以外の講義はもう知っていることの方が多かったわ。事前に専門の訓練を積んでる生徒には実戦学の講義だけで十分じゃないかしら?」
「そう、ですね。私も魔法学の講義はいくつか受けてみましたけど、レインさんには実戦学だけで十分だと思いますよ」
そう言うものらしい。かく言うあなたも、基礎学に関してはほとんど受ける必要はなさそうだとは思った。
さすがに、剣の握り方から、剣の手入れの仕方と言う、本当に本当の基礎中の基礎からやるとは思いもしなかったのだ。
剣に触るのが初めて、という人間もいることを思えば必要な講義ではあると思うのだが……。
「私は色々と知らないことが多いですね。さすがに基礎学は必要ないと思いましたけど……」
たしかに、フィリアはメイスの扱い方もこなれていたし、手入れもしっかりされていた。
さすがに基礎中の基礎部分は必要ないだろう。応用学や発展学からの受講で十分だと思われる。
「私は魔法に関してはほとんど知らなかったので、基礎学から受けてます。剣の方は……基礎学はさすがに必要ないかなって……」
サシャの言う通り、サシャにも基礎学は必要ない。握り方や手入れはあなたが教えた。
さすがに大陸が違えど、武器の手入れの仕方や使い方はそこまで大きく変わりはしない。
この大陸特有の素材を用いた手入れ方法はあるかもしれないが、劇的な違いはないはずだ。
「そのおかげで、受けたい講義は全部受けれそうです」
などと言うサシャのカリキュラム表はビッシリと埋まっている。
今日は朝食後、朝8時から剣士発展学を受け、10時から魔法基礎学。13時から魔法対策講義。15時から冒険基礎学。17時から巨人語講座。
毎日夜まで講義を受け、日によってはさらにもう1つ講義を受けており、真夜中までの勉強をしているようだ。
勤勉なことには頭が下がるが、無理をしていないか心配になる。
「夜はちゃんと寝てますし、大丈夫ですよ。休養日もありますしね」
この大陸には週末という概念がある。7日を1つの括りとし、その最終日を休養日とするのだ。
この学園に来てからようやく知ったことだが、この大陸は基本的にはそのような流れで動いているらしい。
そのため、休養日には休んでいる店などもあるようだ。逆に、休養日こそ稼ぎ時とそれ以外を休みにしている店もあるようだが。
いずれにせよ、週に1日は休みを取る、という基本原理は多くの商店、生業に染み付いた風習らしい。
あなたも休養日の概念を知って、その休養日を娼館に行く日、あるいは他の町の女性と過ごす日と決めて過ごしている。
「ご主人様はどうですか?」
サシャの質問に、あなたは色々と学ぶことが多くて楽しいと答えた。
さすがに基礎学は必要ないものの、発展学や応用学には学ぶべき部分がある。
まぁ、試験を受ければ楽勝で突破出来るだろう、という感覚はあるが。
「試験に関してはそうでしょうね……」
「そもそもあなた、必要だから冒険者学園に来たってわけじゃないものね」
たしかにそれは言えている。サシャとレインに付き合っているという部分がないではないのだ。
とは言え、サシャが受けている巨人語講座のように、あなたにも有用な部分は多い。
こんな学びの機会をタダで得られるとは、冒険者学園とは実にすばらしい施設だ。
学園卒業後、何年かは冒険者として活動するようにという規定もない。よくぞ運営が成り立つものだ。
「さて、そろそろいい時間ね。今日も真面目に勉強しましょうか」
言われて時計を見やれば、たしかにそろそろ講義が始まろうかという時間だ。
まぁ、あなたは今日の1コマ目は何も受ける講義がないので、自主的な訓練をすることになるが。
「そうですね。頑張りましょう」
サシャはちゃんと自分が剣を腰から提げていることを確認すると、トレイを食堂に返却してから講義へと向かった。
フィリアとレインも同様であり、あなたはしばらく食休みをした後、自主訓練用の運動場へと向かった。
自主訓練用の運動場では学園の生徒らが自主的な訓練をしている。
手隙の教師陣などが常に詰めているので、無茶な訓練は許されていない。
エルグランドでよく行われていた肉体の頑強さを鍛える訓練、モンスターに取り囲まれて殴られ続ける、などは許してもらえそうにない。
まぁ、あなたが自主的にやる訓練はセリナに指導された『内功』の訓練なので問題ない。
時間を極限まで加速させて行う訓練は、2時間を280時間に引き伸ばしてくれる。
あなたは存分に訓練を積み、疲労困憊になったので軽く休憩をしてから引き上げた。次の講義の準備が必要だ。
今日は2コマ目からは異文化理解の講義があるのだ。異文化理解には色々な種族の文化の講義があって楽しい。
分かりやすいところだと、身近なエルフやドワーフ、獣人の文化の講義などが聞けるのだ。
特に、獣人の名前がすごく長いというのは未知の知見だった。
ファーストネームしか名乗らないのが普通だが、フルネームは凄く長いのだ。
実際、サシャのフルネームもかなり長かった。それで獣人にしては短めというから、長い者は本当に長いのだろう。
ちなみにサシャのフルネームはサシャ・ラジット・ダインクス・ラルシャ・エリザベス・キリムというそうだ。
ファーストネーム以外は全部ミドルネームというから、ミドルネームを多数つけると言う文化なのだ。
こういう部分を理解しておくと、その種族の女の子をコマすのに役立つことも多い。
特に、獣人のフルネームを覚えておくというのはそれなりに有効な手立てと言えるだろう。
当人らも長くて覚えにくいから、ファーストネームしか名乗らないという。覚えられることを想定していないのだ。
今後、獣人の女性のフルネームはちゃんと聞くようにしないといけないだろう。
あなたが女の名前を忘れることはないので、そんなに難しいことではない。
学園の講義はおよそ1時間半である。講義の間に30分の時間がある。
休憩時間でもあり、次の講義のための準備時間でもある。準備に時間のかかる講義もあるのだ。
実際、フィリアの受けている仲間を守る盾学などは装備を整えるのに時間がかかる。
さすがに鎧の着用に関しては講義時間の中で行うようだが。30分そこらではつけるのが不可能な鎧もある。
もちろんあなたも30分の時間を決して無駄にはしない。
次の講義のための準備をする女子生徒を手伝ってやったりなどして友誼を深める。
自分の講義のための準備時間も必要だが、それは時間を加速させてやればすぐ終わる。
「あなたって、後輩なのにむしろ先輩みたいよね」
「というか、実際に冒険者として既に何年も活動してる先輩じゃない」
「たしかに。じゃあ、センパイね」
「それいいわね。センパイちゃんね」
などと、準備を手伝っていた学園の先輩にあなたはあだ名をつけられた。
センパイ。なぜか分からないが、あなたの胸は強く満たされた。センパイと言う言葉は素晴らしい。
「センパイちゃんは次の講義はいいの?」
あなたの次の講義は冒険者歴史学だ。準備は筆記用具だけでいい。
「ああ。あれは昼寝時間だものね」
「あの講義、適当にやってても合格できるわよ。だれでも知ってるような内容しか試験に出ないもの」
などと先輩方に教授されたが、あなたにしてみると知らないことばかりなのだ。
かつての偉大な冒険者の足跡は、冒険者を志す者にしてみれば当然知っていることばかりだ。
しかし、この大陸で生まれ育ったわけではないあなたにはまったく初見の話で興味深いものが多い。
おそらくだが、この学園で最も冒険者歴史学を楽しんで受講している生徒はあなただろう。
必修科目なので受講者こそ多いが、他の者は大抵居眠りするか、他の授業の予習や復習だ。
そんな中で真剣に板書を書き取り、分からないことがあれば適宜質問するあなたは非常に目立っていた。もちろんいい意味で。
「センパイちゃん、変わってるね~。今度、センパイちゃんの冒険の話とか聞かせてよ。なにか凄い大冒険とかあったら聞きたいな~」
「あはは、ないない。そんな大冒険とか、おとぎ話じゃないんだから」
などと笑う先輩たちだが、あなたの話の引き出しを全て漁ればお気に召す話の1つや2つはあるだろう。
ボルボレスアス北部で発生した国家存亡を懸けた超巨大飛竜討伐戦などは誰もが楽しんで聞けるだろう。
あの飛竜は本当に洒落にならないほど巨大だった。当時のあなたも必死で戦ってようやく生き残ったほどの激戦だった。
あるいはアルトスレア西部で起きた、黒の呼び声、と呼ばれる一連の事件などどうだろうか。
著名な冒険者チームの3つが協力しあい、国家存亡レベルの魔神を撃破したという一連の事件だ。
そのチームの1つに所属していたエルフの美女を口説くためにあなたも事件解決に尽力したのだ。
ちなみに事件は無事解決したが、そのエルフを口説くことには失敗した。
あなたはそんな話ならある、と先輩方に軽く説明をして見せた。
「え……なにそれ、めっちゃ凄そうな冒険してるじゃん……」
「凄い聞きたいんだけど……ねぇ、今日の夜、センパイちゃんの部屋に遊びに行ってもいい?」
あなたは快く頷いた。お菓子とお茶を用意して待っている。
もちろんベッドも完璧にメイクしておく。
2人同時なので些か難しい可能性は高いが、準備しておいて損はない。
「じゃあ、今日の夜はセンパイちゃんの部屋ね」
「巨大なドラゴンの話とか楽しみ!」
そう期待されては応えねば冒険者の名が廃るというもの。
あなたは今のうちから今夜の話の構成を考えておくのだった。
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