第83話
光魔法フォースレイ。そう言う技がある。
魔法なのに技なのか。そう言う疑問もあるだろう。
だがたしかに技だ。魔法と言う意味で言えば、単なる『魔法の矢』なのだから。
どういう技か。『魔法の矢』を形成し、これを握りつぶす。
しかる後、これを光線のようにして放つ。拳から光の奔流が放たれるのでカッコいい。
難点は、魔法の威力が自身の生命力を上回っていると即死することだろうか。
もちろん敵ではなくて、自分が。『魔法の矢』なんか握りつぶしたら自分にダメージがあるのは当たり前だ。
「か、かっこいい……! ご主人様! カッコいいです!」
だが、見ているサシャからは大好評を得られたのであなたは満足した。
ちょっとヒリヒリする手を握って隠し、あなたは次に剣を抜く。
そして、剣を視線の高さにまで持ち上げ、サシャの目線の位置を確認。
サシャが145センチ。そしておおよその相対距離。それからあなたの身長。
それらの情報を踏まえ、サシャの視点からはあなたの持つ剣が、ちょうどあなたの眼の少し下の位置に見えるように持つ。
そしてあなたは剣の表面にゆっくりと手を滑らせる。
すると、あなたの手が移動した矢先から、その剣からバチバチと音を立てて紫電が迸る。
電撃属性付与。エルグランドに存在する付与技術の一種だ。
一時的に武器に属性を付与する技術であり、一見してそうは見えないが魔法ではない。
まぁ、あなたに蓄えられた魔法そのものを消費してはいるので、魔力を使わないだけで魔法なのかもしれない。
先端まで付与されると同時、あなたは剣に血ぶりをくれてやるような動作をし、剣を無形に構える。
意味はまったくない。ただ、血ぶりの動作と同時に紫電が奔り、地面を焼き焦がすさまを見せるだけだ。
とにかくカッコいい。難点はわざわざチンタラ付与しているせいで魔法のストックを本来の50倍くらい浪費するくらいだろうか。
本来なら一瞬で付与できるのだが、ゆっくりやった方がカッコいい。だからゆっくりやる。それだけの話だ。
「わぁぁ……! ご主人様、物語の騎士みたいです! カッコいいです!」
そう言ってはしゃぐサシャは可愛らしい。
レインはあなたが披露した付与の技術を見て興味深そうな顔をしている。
レインからすると非常に有用な技術に見えるのだろう。
まぁ、無意味とは言わないが、かなり弱い技術なので使い道はほぼ無いのだが……。
フィリアはこんな技術もあるんだ~、くらいの感想のようで、面白げに見ている。
「なかなか面白い技術ね。どれくらい威力があるの?」
比較対象がないので何とも言えないところである。
ただ、おおよそだが『魔法の矢』一発分くらいの威力はある。
かつては凄く強力に思えた技術だが、今となっては雀の涙の威力と言える。
「へぇ……武器にそれだけ付与するのは凄いわね」
「魔法の矢1発分はたしかに……それ、他の人の武器にも付与できるんですか?」
それは無理だった。あくまで自分の武器にしか付与できない。
ちなみに武器とは言うが、厳密に言うと腕に付与しているのである。
だから他人には付与不能だ。逆に、腕に付与するので素手戦闘でも効果が発揮できる。
「あー、なるほど。分類で言うと、付与と言うより自分専用の強化魔法なのね」
「たしかにそれなら付与不能でもおかしくないですね……なんだか、エルグランドの魔法って自分専用って趣が強いですよね」
フィリアの感覚は正しい。エルグランドの魔法は他人のために使うのはほぼ無理である。
いや、他人の頭を吹き飛ばすためとかになら使えるが、それは他人に利するという意味ではない。
一部の強力な回復魔法、解呪などの魔法は他人にも使えるが、ほとんどは自分にしか使えない。
そう言う風に範囲を局限することで極めて強力な威力を振り絞れるように設計されているのだ。
ただ、あなたは魔法使いギルドの高弟だった時期に、いくつかの自作魔法を制作している。
その自作魔法を使えば仲間に付与魔法をかけることも一応は可能だ。
厳密に言うと、本来自分専用の付与魔法と同じ効果の魔法を、莫大な魔力を消費することで無理やり範囲型にしているだけの魔法だ。
どれくらい消費量が違うかと言うと、効果は全く同じなのに500倍から1000倍くらい使う。
ハッキリ言ってまったく割に合わない消費なのだが、あなたほど強力な強化魔法が使える仲間は少ないので仕方ない。
「へぇー。エルグランドの強化魔法って興味あるわ。かけてもらえない?」
「たしかに興味ありますね」
サシャも興味ありげな雰囲気をしているので、あなたは披露することにした。
エルグランドでは魔法使いの基本中の基本と言える魔法『ワイズマン』を。
ワイズマンの魔法は非常にシンプルな魔法で、一時的に頭をよくする魔法だ。
脳を強制的に賦活・活性化させることで、学習能力を飛躍的に向上させることができる。
同時に、魔力の質を高めることができる。魔力にも質というものがあるのだ。
魔力の質が高ければ高いほど魔法の威力・持続時間は伸びる。まぁ、そこまで飛躍的には向上しないが……。
「うわ。わっ、なにこれ。すごい! 頭がすごく冴えるわ!」
「ほんとだ……な、なんでしょう、すっごく頭がよくなった気がします!」
「たしかに凄く頭が冴えますね。なんと言うか、凄く集中できてる時の自分……? って感じです」
全員が驚いてくれたようだ。
魔法威力の強化などを行っていないので、そこまで劇的な効果ではないのだが。
しかし、それは超人的な肉体能力を持つあなたにしてみればの話。
全員の思考能力と学習能力は並みの人間の10倍近い数値にまで強化されているはずだ。
頭がよくなった気がする、というのは気のせいではなく事実なのである。
そこで、あなたは全員を呼んだ理由について説明する。
レインがあなたの持つ強化魔法に興味を持ってくれたおかげで、随分と話が早く進められる。
あなたは、この手の強化魔法は一切使うつもりがないという話だ。
「え? なんで? こんなに強力なのに」
強力なのはたしかだ。しかし、強力過ぎるのだ、いくらなんでも。
あなたの極めて高純度・高品質の魔力は魔法の威力を引き上げる。
道具の力を借りない限り、威力を弱めることもできないのだ。
この手の強化魔法は、他にも速度を引き上げたり、筋力を引き上げたりと言ったものがある。
それらすべてをかけてやれば、サシャ1人でも『銀牙』を皆殺しにすることが出来ただろう。
「そんなに……?」
そんなにである。ハッキリ言って、そんなものを恒常的に使っていたら成長もクソもない。
圧倒的な力で正面から蹂躙しておしまいだ。たぶんフィリアとレインの出番もない。サシャだけで全部片付く。
フィリアとレインの出番を確保と言うわけでもないが、そうでもしないと進歩はない。
それに伴って、あなたも手加減して戦う。
魔法の威力を絞るのは無理なので、基本的に剣だけで戦う。
その戦闘にしても、可能な限り威力を絞って、サシャと同じくらいの強さで戦う。
「そこまでするの?」
そこまでしないと、サシャとレインとフィリアのやることは1つになる。
つまり、もう全部あなた1人でいいんじゃないかな? と呟くくらいだ。
ただこれに関しては、将来的にエルグランドに連れ帰るつもりのペットたちのことを考えてだった。
口には出さないが、あなたはサシャを堕としてエルグランドに連れ帰る気満々だった。フィリアはもう確定事項。
エルグランドでも通用する冒険者になって欲しい……そう言う想いの下に決めた方針なのであった。
「まぁ、既にだいぶあなた1人でいいんじゃないかな疑惑はあるのだけど……そうね、私たちの成長のためと言うことなら……」
「私は回復魔法が使えますけど、攻撃魔法と剣士としての戦闘はお姉様ができちゃいますもんね……」
「……ご主人様、回復魔法も使えますよ。瀕死の私を一発で治しちゃうやつを、1日に何十回も」
「もう全部お姉様1人でいいんじゃないかな」
フィリアが諦めたような笑顔で述べた。まぁ、その通りだ。
武器も手加減をするために適当なものを使う予定だ。
「でも、そうすると剣士2人と魔法使いと神官が1人ね。バランスはいいんじゃないかしら」
「そうですね。開錠技術とかが使える野臥せりがいれば、バランスの取れた王道パーティーって感じでしょうか」
「そう言う開錠技術とかの方はどうするんですか、ご主人様」
戦闘には直接関係しないので、その辺りは気にせず使う予定である。
ただ、サシャとフィリアの成長のこともあるので、基本的には2人に任せる。
2人では対処不能、となったら使う感じで行く。
「なるほど」
同様に、絶体絶命の状況になったら縛りも解く。
全てを焼き尽くす暴力で万事を解決して見せよう。
「そうなったら私たちの負け、って感じかしらね」
「私たちが不甲斐ない戦いをしたら、お姉様が本気を出す……ですもんね。わかりました、がんばりましょう!」
「はい、がんばりましょう!」
サシャとフィリアは気合を入れる様子を見せた。
向上心が旺盛なのはいいことである。
あなたは2人への期待を込めて激励をした。
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