第73話
話し合いを終えた後は、誰が言うともなくお茶会になった。
やはり、女同士と言うのはお喋りが弾むものなのだろう。
あなたもお喋りは嫌いではないので、お茶会に否はなかった。
「本格的な冒険か……楽しみね」
「そうですね。迷宮に挑むのって、実は久し振りで」
「あら、そうなの? 私は初めてなのよね」
冒険者としての経験がそれなり以上にあるレインとフィリアはそんな風に楽し気だ。
サシャは冒険者になって日が浅く、あなたはこの大陸のことはよく知らない。
そのため、あなたは供されたお茶を静かに楽しんでいた。銘柄とかは知らないが、美味しいのはたしかである。
「服とかも幾つ買い足さないとですね。やっぱり、迷宮に挑む時には着替えが複数あった方がいいですよ」
「やっぱり、そう?」
「ええ。最悪、下着だけでも替えを用意したほうがいいです」
フィリアの言葉にあなたは頷く。
下着はデリケートな部分に直接触れるものだ。
不衛生にしているとあっさり病気になってしまう。
今のあなたは1年間着たきり雀でも汚くなるだけだが、かつてはそうではなかった。
今ほど肉体が強靭でなかった頃は、不衛生な被服のせいで度々病気になったものだ。
まぁ、あなたはどっちかと言うと娼婦とかに病気をもらう方が多かったが。
そう言えば、その下着について話があるのをあなたは思い出した。
「……私の下着ならあげないわよ」
「あ、あの、私の下着でよければ……その……」
嫌そうにあなたに断るレイン。
いそいそとスカートの中に手を入れるフィリア。
あなたはレインに猛然と抗議した。
この場合の話とは、下着の準備についての話である。
べつに欲しいとかそう言うことではない。
「ああ、そうなの。ごめんなさいね」
あなたは謝罪を受け取った。
あと、フィリアの下着も受け取った。
「結局貰ってんじゃないのよあんたは!」
くれるというから貰ったまでの話である。
なにより年若い少女、すなわちギャルのパンティーには絶大な威力がある。
「そう……で、準備についてって、なによ」
あなたには立派な縫製技術がある。
その技術を用いて、下着の用意を受け持とうという提案だ。
「下着の用意ぃ? べつに、そこらで買えばいいじゃない」
「…………」
「そう言えば……」
フィリアとサシャはなにかに気付いたように、上目遣いに天井を見ている。
なにかを思い起こすときの目線の動きである。脳の働く位置が影響してるとかなんとか。
「え? なに? どうしたのよ?」
「あ、いえ……そう言えば、お姉様の下着って変わったものをつけてたなと思って……」
「そうなの?」
レインはあなたの下着姿を見ていない。
そのため、あなたの下着について知らない。
「具体的にどんなのつけてるのよ?」
あなたは頬を赤らめると、先ほどフィリアがしたのと同じように下着を脱ぎだした。
そして、大事にしてね……と消え入るような声でレインに下着を渡した。
「いや、寄越せとは言ってないわよ!」
言いつつも、見慣れない形状の下着にレインは興味津々と言った様子である。
この大陸の下着……というか、服飾文化はエルグランドに比べればだいぶ遅れている。
エルグランドにおいては数百年ほど前の流行りと言った感じだ。
頑丈さ優先の冒険者の装備を見るとそこまで差はないように感じるが。
町を往く人々の服装を見ると、随分と古風な印象を受ける。
その割にあなたの礼服が古臭く見えるらしいのは不思議だが。
ともあれ、このあたりでは下着はズロースが一般的なようである。
実際、先ほどフィリアにもらった下着もズロースである。
この近辺の女性はこれを直接下着として履いている。
これはゆとりのある構造の下着で、いわゆる半ズボン状の下着だ。
エルグランドでも用いられていたが、直履きする者はまずいない。
普通はショーツの上に履くものだし、それにしたってだいぶクラシカルな装いだ。
ブラジャーはどうも存在していないらしい。原始的な構造のものはあるが。
ブラジャー、と言えるレベルに至っているものはない。
だいたい、布製の帯を巻くなどして、揺れを抑えているにとどまる。
乳房を美しく形作り、また型崩れを防ぐようにカップを保持するなどの機能は考えられていない。
さらに言えば装着も手間だし、もっと言うと脱がすのも手間である。
なによりも美しくない。本当にただの布の帯なのだ。つまらないにもほどがある。
たぶん、この近辺が遅れているのだろう。この辺りの出身でないと思われるアトリやメアリは素敵なものをつけていた。
やはり、可愛い下着と言うのはモチベーションに直結する。
なんのモチベだと言われるとうまく説明できないが、たしかにある。
いまいち気分の乗らない日はお気に入りの下着をセットでつけるのがあなたの習慣だ。
女性にとって、可愛い下着と言うのは気分を高揚させてくれる大事な装飾品なのである。
「そう言うもの?」
そう言うものである。
とりあえず騙されたと思って下着を作らせてほしい。
少なくともフィリアはもう手放せなくなることを保証する。
胸の大きな女性ほどブラジャーと言うのは欠かしてはならない品なのだから。
「……私は要らないってことでしょうか?」
サシャがちょっと悲し気に言う。
あなたはそんなことは無いと答えた。
これから成長していくサシャの胸を優しく保護してくれるブラジャーは必要だ。
というより、10歳を過ぎたらブラジャーと言うのは必須である。
少なくともあなたはそう信じていた。
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