第57話

 明けの黄金亭とやらは割とすぐに見つかった。人に聞きながら探せばすぐだった。

 それなりに規模の大きい宿で、1階部分は酒場を兼ねているようだ。

 宿を取っている者の数も多いようで、さぞかし大賑わいしていそうだが、今はとても静かだ。


 床にはボコボコに殴られた男たちが転がっており、全員大変悲惨な有様だ。

 まぁ、男なんぞいくら傷を負ったところで勲章になるだけなので問題はあるまい。

 そして、あなたはその男たちをボコった主犯と思われる者たちの下へと足を向けた。


「よう。探したぞ」


 声をかけて来たのはモモだ。酒瓶をそのままラッパ飲みしている。

 同じテーブル席を囲んでいるのは、見るも絢爛な美女と美少女ばかりである。

 以前ベッドを共にしたアトリの姿もあり、色気に満ちた流し目で挨拶を交わした。

 しかし、なんでこんなレベルの高い面子がこんなに勢ぞろいしているのか謎である。


「改めて自己紹介するよ。俺たちは対大型モンスター専門の冒険者チーム、ハンターズをやってる」


 対大型モンスター。エルグランドではあまり馴染みのない概念だ。

 なにしろ、複数人で戦えるほどの大型モンスターとなると面白半分で狩られてしまう。

 そのため、専門にしてしまえるような大型モンスターが存在しなくなってしまうのだ。

 他大陸では大型の飛竜などを専門とした冒険者が存在すると聞くが、モモもそうした冒険者なのだろう。


「こいつらはそのメンバー……あ、俺がリーダーってわけじゃないぞ。リーダーはあいつ」


 そう言ってモモが指差したのは、アトリだった。

 リーダーらしさがあるかと言うと、まぁ、ない。

 集団の取りまとめ役にリーダーシップが必要な類の集まりではないのだろう。


「それで、こっちが順に……」


「リンだ」


 黒髪の小柄な少女がそう名乗る。立派な鎧を身に着けているが、あなたには分かる。

 体格には不釣り合いなほどに胸が大きいという事が。女相手ならば無限大の洞察力を発揮するあなたには分かる。

 これは是非とも味わってみたい。あなたは滾る欲望に笑みを浮かべた。


「私はメアリ。よろしく」


 次に名乗ったのは獣人……なのだろうか? なんだか少し違うような気がする。

 金髪に金の瞳をした少女の頭には黒い毛に覆われた耳が生えている。色が違うのは普通なのだろうか?

 お尻には可愛らしい黒い尻尾が生えており、猫のそれのように見えた。


「最後は拙者でござるな。キヨでござる」


 なにやら口調に大変な特徴のある黒髪の少女だ。リンよりも多少体格はいいが、あまり大差はない。

 左右の瞳の色が異なっており、いわゆるところのヘテロクロミアと言う奴だろう。

 後天的なものの場合、変色した側の眼に異常を来している場合が多いが、荒事を続けられている以上は大きい影響ではないのだと思われる。



 その全員の紹介を受け、あなたは大きく息を吸い、吐いた。

 そして、意を決してモモへと声をかけた。

 もしや全員食べてもいいのか? と。


「ああ、いいぞ。全員美味しく頂いてしまえ」


 あなたは一筋の涙をつぅと流すと、モモに深く頭を下げた。

 100パーセントの感謝の意を示す方法を、あなたはそれしか知らなかった。


「こっちも打算ありきでやってるし、こいつらの趣味と実益も兼ねてるから気にするな。さぁ、どうする? 全員同時はダメだぞ」


 ダメなのか。あなたは残念な情報に肩を落とした。

 この全員と朝まで楽しめたなら最高の思い出になったというのに。

 まぁ、1対1と言うのもじっくりと愛を深め合えるのでそれはそれでよし。


「では、拙者が先陣を切るでござるよ。各々方は拙者の生き様をとくとご覧あれ」


「おまえのイキ様は見たくない。私に任せておけ」


「待て、私は既に彼女のお相手をしたことがある。つまり、経験者に任せておけ」


 キヨ、リン、アトリが立候補して来た。なんとも心躍る話だ。こんなに乗り気な女の子がいるとは実に嬉しい。

 あなたはこの大陸の出会いに深い感謝の念を捧げていた。ここまで自分を導いた何者かに祝福を贈りたいくらいだ。

 ところで、モモは相手をしてくれないのだろうか。美少年を美少女にして食べるというのも最高に楽しいのだが。


「あ、うー……興味がないわけじゃないんだけど……そ、の……お、俺は、ほら、さ?」


 ほら、と言われても困るのだが。


「だ、だからさ、その、アレじゃん? やっぱりその、義理を欠くって言うか……なんていうか……まぁ、そう言う……」


 義理を欠く。つまりだが、モモはトモ専用と言うことだろうか。なんて胸を打つ言葉だろう。

 この口調だけは乱暴な雌堕ち少年に幸いあれ、二人の道行きに救いあらんことを。

 そう言えば、そのトモが見当たらないが、別行動でもしているのだろうか。


「ああ、トモちん? トモちんなら買い物。食料品関連はトモちんが買い出し担当なんだよね」


「べつにトモが料理するわけではないのだがな」


「理由を教えてやろうか。おまえらを買い物に出すと酒ばっかり買ってくるからだよ」


 冒険者と言えば、やはり酒であるので、そう言うこともあるだろうとあなたは笑った。

 あなたも酒は好んで飲む。今や酔うこともできなくなってしまったが、それでも好きだ。

 エルグランドが水に恵まれないため、酒を飲むのが普遍的な文化だというのもあるのだが。

 一応、肉体を虚弱化させるポーションを吐くほどがぶ飲みすれば酔うこともできるのだが。そこまでして酔いたくもなかった。


「ところで、私はすさまじい名案を思い付いてしまったのだが」


「なんだよ」


「トモを女にしてモモがトモを大人の女にするというのはどうだ?」


「!?」


 モモが勢いよく立ち上がった。そして、座った。

 それからまた立ち上がり、座った。


「ちょっと申し訳ないんだが、以前に見せてくれた性転換できる杖を1本譲ってもらえないだろうか」


 あなたは笑顔でモモに以前の『ミラクルウィッシュ』のワンドを差し出した。それも3本だ。

 これはこんなに素敵な女の子たちを紹介してくれたお礼なので、返礼は必要ないとも。


「3本もくれるのか。貴重な品なんじゃないのか?」


 貴重は貴重だが、べつに入手手段はあるので気にしなくていいとあなたは答えた。

 ちょっとばかりの労苦を払う必要があるが、慣れている。


「そうか……ありがたくもらうよ」


 ところでトモが性転換したら、あなたがアプローチをかけるのはアリなのかとモモに尋ねた。


「ああ、好きにしなよ。女相手ならギリ浮気じゃないなって結論出たから。やっぱ、俺は子供産めないしさ。女相手はしょうがないかなって」


「モモが性転換したら子供産めるんじゃないか?」


「!?」


 その発想に至っていなかったのか、聞いたモモが眼を見開く。

 モモが勢いよく立ち上がった。そして、座った。

 それからまた立ち上がり、座った。


「一応聞くが、この杖で性転換したら子供も産める体になるのか?」


 あなたはその問いに対する答えを持っていなかった。

 もちろん、このワンドで性転換した者の実例は幾人か見ている。

 そして、そうした者が問題なく子供を作っている姿も見ているのだが……。


 しかし、そもそもエルグランドは同性だろうが異種だろうが子供が作れる。

 この『ミラクルウィッシュ』の効能で生殖能力が得られたかはなんとも言えないところだ。

 ただ、おそらく問題はないはずだ、と答えておいた。


「なるほどね……どういう分け方をすべきかな……ううむ……なぁ、これを追加で譲ってくれるとしたら、どういう条件になる?」


 これは以前に譲った若返りの薬よりも格段に貴重な品である。

 そのため、さすがに一晩愛を交わすだけで譲ることはできないと断った。

 譲るとしたら、それなり以上に大きな対価を払ってもらう必要がある。


「じゃあ、メアリがネコ耳堕天使エロメイドでご奉仕したら譲ってくれたりするか?」


 あなたは笑顔で頷いた。なんだろう、その胸が滾る属性は。

 あなたは各種の属性に完全な耐性を得ており、火や氷の属性はもちろん、状態異常への完全耐性もある。

 だが、モモの口にした属性はそれらを容易く貫通して、胸に甘い痛みを、そして興奮の状態異常を齎した。

 あなたにはこの興奮の状態異常の原因を追究する義務があるのだ。

 1本と言わず、追加で3本差し上げるので、ぜひともやらせてほしいと懇願した。


「だ、そうだ」


「なんでモモのために私が体を張らなきゃいけないんですか。あなたが処女を差し出したらいいでしょうに」


「なぁ、この杖、いろんな願いをファジーに叶えてくれるものだと考えていいよな?」


 あなたは頷く。限度はあるものの、かなり自由度の聞く代物だ。

 指名手配の取り消し、性転換、自殺、流布してる二つ名の変更など、色々とよく分からない使い方もできる。

 ただ、厳密に願わないと、変な解釈をされたりすることもある。

 あなたの父が信仰する神への目通りを願ったら足元にキウイが転がって来たりしたこともあった。


「たとえばだが、喪った手足を再生したりすることはできるか?」


 あなたは頷いた。健康を願えばどんな傷病もたちどころに癒してくれるはずである。

 喪った手足の再生も出来る、と言うのは以前に聞いたことがある。死者蘇生も出来るとか。


「メアリ、紹介料として1本貰う以外は譲る。頼むぞ」


「モモ、メイド服を用意しなさい」


「ああ」


 なにやらよく分からないうちに、メアリとの逢瀬が決定されていた。

 あなたは先ほど聞いた魅惑の属性に脳を焼かれているので大歓迎だったが。

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