18.俺の居場所は……

「王子!?」

「殿下!?」


 二人が驚きの声を漏らすのが聞こえた。

 ユリウスは刃を返し、敵の短剣を弾き飛ばす。そのまま腕を掴んで背後にねじり、痛みに悲鳴を上げる男を取り押さえた。鮮やかな手際だった。


「殿下……」


 敵を全員拘束し終えた二人が駆け寄ってくる。エディリーンは目を丸くしていて、アーネストはちょっと泣きそうに見えた。

 そんな二人に、ユリウスは微笑んでみせる。


「よくわからんが、大変なことになっていたようだな。……ひとまず、これでいいか?」


 アーネストはユリウスの前に跪く。


「苦労をかけたようだな。すまなかった。だが、変わらず務めを果たしてくれたこと、感謝するぞ」

「……よくぞ、ご無事で……」


 アーネストは跪いたまま顔を上げないが、声が微かに震えていた。


「……あいつは?」


 エディリーンは眉根を寄せて、ユリウスの目を――その奥にいる俺を見ている。


「ああ、まだここにいるぞ」


 ユリウスは自分の胸を指す。


「とりあえず、城に戻ろうか」


 路地の向こうから、夜の静寂を破るようにして、明かりを持った一団が近付いて来る。アーネストが言っていた、近衛騎士団だろう。

 縛られた男たちは、到着した騎士たちにしょっ引かれて行った。




 それから、どうなったんだっけ?

 俺はなんだか意識がぼんやりしていて、全部の出来事をどこか遠くから見ているような、変な気分だった。


 っていうか、ユリウスの魂がこっちに帰って来たなら、あっちの俺の身体は今どうなってるんだろう。ぶっ倒れてたりするんじゃないのか。俺も早く帰らないと。

 そう思ったけど、ふわふわと不思議な空間を浮遊しているようで、どっちに進めばいいのかわからない。それどころか、手足をばたばたさせても、進んでいるのかどうかもわからなかった。


「大丈夫だ、そなたも帰れる」


 気が付くと、すぐ横にユリウスがいた。その手がすっと一点を指差す。その方向に、細く光る糸のようなものが見えた。


「身体と魂を繋ぐ糸だ。これを辿れば元の世界に戻れる」


 それはきっと、ずっとそこにあったけれど、見るのを拒んでいたものだ。


「何の因果でこんなことになったかわからんが、なかなかに興味深い体験だった」


 ユリウスは、腕を組んで感慨深そうに頷いている。やっぱり肝の据わった奴だなあと思った。


「俺は……」


 入れ替わってからのことを思い出しても、楽しかったとは言えない。でも、俺がちゃんとしていれば、アーネストたちともっと違う関係を作れたかもしれないと思う。

 異世界だろうが何だろうが、人が生きて生活している。そのことに変わりはないのだ。


 俯いた俺にユリウスは微笑み、背中を押す。


「ほら、もう行け。名前を呼ぶ声が聞こえるだろう?」


 ああ、本当だ。声がする。聞き覚えのある声だ。


 俺はゆっくりと、光の糸を辿って歩き出した。


 そう、俺の名前は――。

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