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どれぐらいそうしていただろうか、気が付けば空は茜色に染まり、夜が近ずく時刻になっていた。

 お互いに落ち着きを取り戻し、互いにはずかしさをにじませながら失笑する。

「ねぇ、友香ちゃんと付き合うの?」

「それも含めて、明日、お昼に会うって事だろ」

「ごめんなさい。私また・・・いたぁ」

「アホか、しんみりすんな。聞きたいのは分かるし、俺がまぁ、色々失敗したり、タイミングが悪かったりしたせいでこうなったのもあるんだ。お前ひとりの責任じゃない」

 千春にチョップをかまし、制止する真也。

 いつもの調子とはいかないまでも、2人はそれなりに復活していたが、やはりまだぎこちなさは残っていた。

「私の事も、改めて聞かせて」

「・・・」

「私、シー君がどんな答えを出しても、受け止める。受け止められるよ」

「はぁ、チー、おまえはすげぇよ、あんだけ立ち止まって、後ろ向いて、過去にすがってたのに、もう前向いてやがるし」

「シー君だってス良いよ、私にあんなひどい事され続けて、それでも友香ちゃんていう彼女候補作っちゃうんだから」

「酷い事してた自覚はあったんだな」

「あ、あはははは、はぁ。ごめんなさい。たぶん私が逆の立場だったら、もうとっくに折れてたと思う」

「かもな」

「否定してくれないんだ」

「正直、限界だったのもあるんだ・・・・おっとこれ以上は明日だ。今言う話じゃない。今の忘れてくれ」

「うん、ごめん。もう聞かない」

 千春と真也は、そう言ったまま、暮れるまちを高台の公園から眺めながら、お互いに、気持ちがどこへ向かっているのかを確かめつつ、明日への糧といて、今あるこの時間とこのゆっくりと暮れていく景色を、ただじっと何も言わずに眺め続けるのだった。





11話 花言葉と香り、思い出と終焉、移り変わらぬ気持ち。

 千春が宿泊しているホテルの前まで良いというので、真也はそこまで彼女を送ると。

 互いに別れた。

 デートとは名ばかりで、とても遊ぶという形ではなかったが、真也も千春も、互いに酷くすっきとした吹っ切れた表情をしていた。

「戻ってきたわね」

 エントランスにあるラウンジで娘の帰りを待っていたのか、春奈が2人に歩み寄る。

「はぁ。少しはまともになったみたいね2人とも」

「えっとぉ、春奈さん。色々気苦労をかけまして・・・」

「真也君、あなたは悪くないわよ。もとはと言えばこのうちのバカ娘が、豆腐メンタルで。シー君に切られたらどうしよう、何てめそめそいじいじしてたのがいけないのよ」

「ちょっ、お母さん!」

 ちゃかすように、春奈さんはいい、少し恥ずかしいながらも、言われても仕方がないかという感じで千春は反論していた。

「まだ、俺自身の答えとかは出てないんですが。明日、千春にも三条さんにも、今の気持ちを話そうと思います」

「モテる男は辛いねぇ」

「俺もまた、千春と五十歩百歩みたいなものですから」

 そう言って真也は春奈に千春を預け、その場を後にした。



「ホント手間がかかるわねぇあなたち」

「ごめんなさい」

「でもぉ、ほんと良い顔になったわ。私の自慢娘だもの、こうでなくちゃ」

 そう言って春奈は千春を抱きしめ、千春もまた、その行為を、あるがままに受け入れ、自分よりも小さいが、とても大きな母の温もりに顔をうずめた。


 

「そろそろかなぁ」

 友香は、お鍋に火をかけた中でぐつぐつと煮える大根と、モモ鶏肉、油揚げを見つめながら一人いそいそと夕食の準備に取り掛かっっていた。

 さながら、疲れて帰ってくる旦那様をまつ新妻、のような気分を味わいつつ、煮物をつつく。

「千春さん・・・約束守ってくれたのかなぁ」

 すでに部屋着に着替え、ペチコートのロングスカートがひらりと舞う。

 友香はこの部屋着がすごくお気に入り、フワリと柔らかく舞、肌触りが良くリラックスできる部屋着なのが、彼女が身に着けているのは透けない少し厚手のもなので、下着というイメージとは少しかけ離れており、部屋着として着用している形である。

 最初、真也の前この姿をしたときは、痴女とかそんなふうに思われないかと心配してはいたが、やはり男の子は、女性の服事情には疎く特に何も言ってこなかったが、妙にソワソワはしていたのをはっきりと覚えている。

 そんなお気に入りを翻しながら、夕飯を作る姿は、やはり新妻に近いものがあるのではと、自分で思いながら悶絶する。

 こんな妄想もまた、いつまで続けて居られるかは分からない、という不安も心を少し締め付ける。

 私ではなく彼女が選ばれてしまったら、おそらくこの生活や、彼の優しは自分ではなく千春に向くのだろうと。

 それでも、この時を満喫はしたかった。

「最初から不利なのは分かってるもの。でも諦めない・・・あ、レイン?」

 スマホが通知を知らせる音を鳴らしたので、台所の手に届く位置においてあぅたスマホを手に取り、通知を開く。

 スマホには、小さなキャラクターが大成功。という文字と同時にピョンピョンと飛び跳ねてるスタンプが表示されていた。

 千春からの返信で、状況が良くは分からないが、どうやら問題なく無事に終えられたようだと、ほっと胸をなでおろす。

 レインの連絡先をしっかりと交換もしておいたため、彼女とのやり取りは、意外と気楽にできていた。

「うまくいったんだぁ。良かったぁ。とも言えないのかな私的に」

 千春に返信で、おめでとう、という言葉を返しつつ、苦笑する。

 喜ぶべきなのか、また不安になるべきなのか、それでも自分で選んだ選択肢である以上、後悔はしていない。

 彼が明日、私たちにどういう返事をするにしても、今は彼の帰りを待ち、暖かいご飯と居場所を提供するのが、今私にできる最大限の事だと自分に言い聞かせながら、友香は

スマホを置き、再度夕食の準備に取り掛かるのだった。

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