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小さなテーブルには少し大きめのお皿に野菜炒めが乗っており、三人分のお茶碗などあるわけもなかったので、自然とお味噌汁の器と平べったいお皿にご飯を各自自分の目の前に置いて、何とも言えない食事となったが。

「うお、すげぇ。有り合わせなのに超うまい」

「ありがとうございます。ちょっと調味料とかもあべこべでしたが、なんとかなりましたぁ」

 見た目は特に何の変哲もない野菜炒めなのだが、出されたそれは、薄味のようで、しっかりとコクのあるような、そんな不思議な味なのだが、非常においしいものとなっていて、真也は、自分の家にある調味料でこんな味出せたか?と疑問に思いつつも、これもうでだろうと、美味しい野菜炒めに感動しながら箸をドンドン進める。

「おいしい」

 千春はと言えば、美味しいと言いつつ、幼馴染の満面の笑みと、友香の非常に嬉しそうな顔を見て、ナニコレ、私なんで、と妙な気持を抱きながら、渋い顔で非常においしい野菜炒めを食べていた。

「あの、お口に合いませんか?」

 流石に気になったのか、おずおずと友香が千春にそう聞くと。

「え、そんなことないよ。すごくおいしい」

「その割に渋い顔してたが?」

 流石に言いずらいだろうと思った真也は、友香のかわりにそういうと、自分でも気が付いていなかったのだろう、考えが顔に出ていたことに、うわぁやっちゃったぁ、と思いながら、美味しいよ、と再度言って作り笑いを浮かべる。

 流石にそれ以上追及するのは良くないと思ったのか、良かったですと言い、友香も納得する事にした。



 な、なにをやっているのよ、私はぁ。

 自身の行いに恥をかきながら、千春は自問自答していた。

 せっかく、3年ぶりに様々な無茶をして会いに来た、大好きだった人に、会う早々頬舌されるは、3年ぶりに会えばあったで、あまりにも様々なものが変わっていて、こんな見た目は普通だけど、小さくて可愛らしくて、おまけに料理もできて、私負けてる。

 で、でもあれよ、私昔告白されてるし・・・。

 そう思うのだが、自分のした取り返しのつかない失敗が頭をよぎり、泣きたい気持ちになり、さらに、目の前の美味しい料理が、あまりにもおいしくて、女子としての差を見せつけられているようで、自然と顔が歪んでしまっていた。

 自分でもダメだ、このままじゃこの娘に取られちゃう、という焦りがあるが、それを表には決して出せない。

 だってまだ、ここにこんな無茶してまで来たわけを、彼に何も言えてないのだから。



 夕食を済ませ、各々くつろぐ、といっても、2LDKなので、ほぼ大人の体格といっていい人間が3人も居れば、狭いとまではいかないが、自然と視界には入る。

 友香は、図書室から借りているのだろうか、本を読んでおり、千春は妙に居心地悪そうにしつつも、くつろいでおり、真也は、そろそろこれは聞かないといけないと思って、お茶を3人分入れつつ、小さなテーブルに向かう。

「三条さん、お茶だよ。チーも」

「ありがとうございます」

「あんがと」

 お茶に手を伸ばした千春の手を、真也はおもむろにつかんだ。

「え、何?!」

「そろそろ聞かせてもらおうかと思ってな」

 居たくないだろうか、それなりに力を込めて真也は千春の掴んだ腕を握った、

 その意図が分かったらしく、千春の顔が引きつる。

「あー、えっとぉ」

「流石に、言わない、言えない。この状況で通せないのは分かるよな?」

 そうは言ってみたものの、真也もわかっていた。

 千春が頑なに何か言わないときは、自分か、その聞いている相手が関わっている場合が多いと、なので、流石に長年の付き合いだ、ふと力を込めていた手を放した。

「え、あの・・・」

 追及は免れないし、話すまで離してはくれないと千春も思っていたが、真也があまりにあっさり掴んでいた手を離したので、拍子抜けしてしまった。

「三条さん。乗り掛かった舟だと思って悪いんだけど。このバカから事情聴きだしてもらえない? その間にお風呂掃除してくるから」

 言うが早いか、真也は友香の返答を待たず、早々にお風呂場へと向かってしまった。




 本を開いてみたはいい物の、好きな人の部屋に勢いで突入してしまったせいもあり、深々穏やかではない友香は、何でもないですよぉ、いつもどうりですよぉ、というようになる様にふるまってはいたが、そろそろ限界がぁ、と思っていた矢先、真也から、とんでもないお願いをされてしまった。

 自身のおそらくライバル、というか恋敵に事情を聴きだせと、いうが早いか、本人はお風呂掃除に向かってしまって、ロクに会話など成立などするのか怪し、と思いながら、意中の相手が頼ってくれたんだ、頑張らないと、と自身に言い聞かせ、静かに本を閉じる。

 特に変な動作をしたつもりはなかったのだが、その動作に、びくりと千春が身を震わせたのが見て取れた。

「あ、あのぉ」

 なるべく柔らかく、を意識して声をかけようとして、上ずった声になり失敗する。

「ひゃ、ひゃい!」

 整った顔が、慌てたように動揺し、友香を見る。

「先輩の事。好きなんですか?」

「は、はぁ?!」

 友香は思っていたことを、特にオブラートに包むことせず、直球で投げかけた。

 と言うのも、おそらく、回りくどく言うよりもストレートに聞いたほうが、この人は素直に話すのではないか、という女の勘という何とも自分で思っていても胡散臭いなぁと友香は思いながらも、直感を信じようと思った。

「私は好きですよ先輩の事」

 畳みかける様に、自分でもなんでこんな事と思わなくもない勢いで、友香は千春にそう言っていた。

「な、なんでそんな事恥ずかしげもなく言えるのよ!」

「アナタのせいですよ。好きだから戻ってきたんじゃないですか。詳しい事は知りませんが、静流さんが動いてる感じだと、相当無茶苦茶したみたいですね」

 棘のある言い方だなぁと、自分でもわかるぐらい、嫌な言い方をした友香だが、事実なので隠す必要も、ましてや恋敵に塩を送る真似などしたくもないと、どこかで思ってしまっていたからこそ出た言葉ともいえた。

「わ、私は。大切なものを取り戻したいの!じゃ、邪魔しないで」

 その大切なものが何を指しているのか、友香にはわからないし、二人に過去に何かあったのだという事は理解できるが、だからと言って、邪魔をしているわけでもなければ、邪魔をするつもりもないが、友香自身が真也を好きな事で邪魔になるというのであれば、はいそうですか、と言って譲るつもりはない。

「邪魔ですか。私は、先輩を愛しています。何なら今日抱かれたって良い」

「は、はぁ?! な、何言ってる・・・ば、バカじゃないの?」

「冗談を言っているように見えますか?」

 普段の大人しそうで、生真面目そうな見た目からは終ぞ出てこなそうな言葉が放たれ、あまりの無い様に千春は言葉を失った。

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