秋桜 第一章 茶色の花びらは、やがて赤く染まりて

藤咲 みつき

第1話 想いの先に。

「好きです。付き合ってください」

 まだ暑い日が続きながらも、多少肌寒さを感じる9月下旬。

放課後、図書室で少しまぶしさを感じる夕日に身を焦がされながら、平塚 真也の目の前にいる小柄な少女は、意を決して、胸に両手で祈るように握りこぶしを包むようにしながら、真剣なまなざしで言葉を紡ぎだした。

 この言葉が出てくるまでに、10分ほどたってはいたが、それも致し方ないのかもしれない。

 彼女、三条 友香が真也との接点など一切なかったのだから。

 というのも、彼女は1年生で、真也は2年であり、接点などあるわけもなく、また下級生が上級生を放課後に呼び出すというのもハードルが非常に高いと言えたが、それ以上に、この状況のハードルを上げてしまったのは彼女の呼び出し方に問題があったからだ。



 5時間ほど前、4時限目が終わり、皆が解放感と空腹感から安堵のため息とともに、昼食を楽しんでいる、そんな昼のひと時にそれは起きた。

 この学校には変な風習があり、許可申請さえしっかりとすれば教師などの許可など必要なく誰もが校内放送を使う事が全面的に許可されている。

 この校内放送というのが、一種の風物詩になっていて、この北高校では、この校内放送を使って様々な事が行われていた。

 ちょっとくだらない冗談や一発ギャグから、特定の人に向けた謝罪、呼び出し、あげくの果てには愛の告白と、多種多様な使われ方をしていた。

 そんな中、特に行われるのが、告白のために人を呼び出すという行為だった。

だが、これはいわば公開処刑を双方が、する側とされる側が受ける事となる。

 にもかかわらず、この高校では特定の時期には連日行われる恒例行事とかしていた。

 なぜ、そんな多大なリスクを払ってまで。この校内放送という名の公開処刑が行われるかというと。

 校内放送で呼び出され、もしくは呼び出した男女が、告白をして成功をし半年以上付き合うことができたなら、末永く結ばれる。などという話が出回っており、実際に卒業生でこの伝説通りにその後結婚して幸せに暮らしている、という話が多いのもこの話に信憑性をもたせている最大の要因だったりする。

 そのため、時期、冬休みや夏休み前、秋ごろなんかは校内放送が連日行われ、1日に2件ほど呼び出しという名の告白ロマンスが行われていた。

 夏が終わり、秋も見え隠れし始めるこの時期9月も下旬ごろは特にその呼び出しが多く発生しており、この時期の昼食中の風物詩となっていた。

「(3年A組の、林 游先輩。1年C組の美川 志保です。放課後、屋上でお待ちしてます)」

「すげぇな、今日は1年が3年を処刑台にたたせたぞ」

「おまえ、言い方があるだろ」

 神谷 和人の発言に、平塚信也は、やや呆れながらそう静止した。

 処刑台とはよく言ったものだとも思う。

 何故処刑台なのかと言えば、この放送は全生徒が耳にしており、誰が、誰を呼び出すかというのはいわば全校生徒が聞いている、仮にその呼び出しに応じない、もしくは何らかの理由でどちらかが来なかった場合、翌日、全校生徒から針の筵に会うというおまけ付きなのだ。

 なので、この方法校内放送を使うというのは非常に双方にリスクがある。

 呼び出される方は断ることができず、また呼び出すほうは必ず行く必要がありさらには告白ともなれば、成功、失敗に関わらず全校生徒が見聞きしているのだ。

 もちろん、その現場に立ち会ったり、言ったりといった無粋な真似をするようなことは、暗黙のルールで行われておらず、むしろそこには近づいてはいけないという配慮がなされるので、むしろ人払いにはちょうど良いともいえる。

 それを逆手に取り、過去呼び出しに応じず、ほっぽり出した人がいたらしいのだが、翌日にはすぐにばれたとの事。

 待ち人は、当然呼び出した人が車でその場にいるわけなので、何らかの形で誰かには見られることとなり、それが長ければ自然と不自然な形ともなろう。

 さらに、呼び出した本人が悲しそうな顔をしながらその場を後にしようものならば、何があったかなど聞かなくてもわかるというものだ。

 以来、呼び出しに応じなければ、全校生徒から白い目で見られ、残りの学生生活がもはや地獄になるのは明白となってしまった。

 処刑台とはよく言ったものだとも言えなくはないが、純粋な恋心に対してその言い草はあまりよい言葉とは言えなかった。

「おまえ、周りの女子見てみ」

「え、女子?・・・うぅ。す、すみませんでしたぁ!」

 真也があきれながら昼食ののり弁を堪能しながら、和人にそう言うと、なんだそんな大げさにと言って周囲を見た和人が、次の瞬間には青ざめた顔で椅子から立ち上がり直立し、そのままの勢いで腰を90度に折り曲げ、謝罪の言葉を述べた。

 アホがいる、そう思うと同時に、発言には気を付けないと自分も社会的に死ぬなこれはと思った。

「おまえ、乙女心をもう少しだなぁ」

「真也くぅんそんな事言ってていいのかなぁ。もしかしたらお前が呼び出されるかもしれないんだぜぇ」

「安心しろ。絶対にないから」

 真也は断言する様にに言うが、和人の含みのある笑みを崩すことなく、言うものだから妙な悪寒を全身を包み込み、言入れぬ不安をあおってくる。

 そうこうしている間に、またも行内報を打を告げる、木琴の音が鳴り響いた。

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