かわいそうな被害者

紅陽悠理

第1話 序章

目覚まし時計を止め、田倉エリは窓のカーテンを開けた。夏が終わり初秋の風が入りこむ。

「さあ朝だ」と自分を励ました。

ここは、京都の北部にある女子高の寮である。

1年A組の田倉エリは、寮の301号室で、多田麻実、谷崎美久と暮らしていた。

「あら、エリ。今日は早く起きたのね」洗面所から出て来た麻美が声を掛けて来た。

「麻美、おはよう。美久は?」

「私が起きた時にはもう居なかったけど。いつもの散歩じゃない?」

谷崎美久は毎朝早く散歩に出掛ける習慣があった。

「エリもコーヒー飲む?もう少ししたら美久も帰ると思うし」

「うん」

返事をしてエリは洗面所で歯ブラシを取った。そこへ電話が鳴った。

「はい、301号室です。はい。えっ?もしもし?もしもし?!」

その後少しして、受話器を置く音がした。

「もう電話終わったの?何か変な感じだったけど、休みの日の朝から何の電話だったの?」

言いながら洗面所から戻ったエリは、麻美の顔を見るなり

「麻美、どうしたの?!」

エリは麻美の両肩を掴んで揺すぶった。

「ゆ、ゆうかい...」

「えっ、なに?」

「みくを、美久を誘拐したって」

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