第10話

「え…?!あ、ご依頼…あ、いえいえご予約でなくても大丈夫です。上がっていただいて…」

ケインは明らかに疲労の溜まった表情で会話していた。

「で、ご依頼についてですが…ああそういえばお名前は…」

「フランク.カーターです。年齢は20です。」

カーターという青年の見た目は、好青年というイメージをそのまま現実世界に引っ張ってきたかのような見た目だった。

「ああ…そうですか。それでご依頼というのは?」

「弟を探して欲しいんです!」

「人探しですか…居なくなってからどれぐらい経ったんですか?」

「3週間前の1月6日です。遊びに行くと言ったっきりで。名前はアルバス。これが写真です。」

10歳程の少年だった。

「それは国公に頼む案件になっているんじゃないですか?」

「通報したんです…。したんですが…何故か一向に見つからなくて…聞いた話だとここ最近似た感じの行方不明事件が多発しているらしくて弟もそれに巻き込まれた危険があると…」

「…国公に痺れを切らしたって感じか。…分かりました。お受けしましょう。」

「……ありがとうございます!」

「行くぞ。探しに。」

「え?今から?」

「人の命がかかってる状況でタイミングなんぞ関係あるか!」

「……いつでもご連絡を。」

ケインはカーターに名刺を渡し、彼を玄関前まで送ると、クレアの部屋の扉を叩いた。

「おい!クレア!」

「なんだぁい…?」

クレアはやはりのっそりと扉の中から現れた。

「人探しだ。お前の人脈が必要になる。」

「……そうかい。裏社会側とかの方面にも聞くかい?」

「そっちの方面は所長のが良いだろうが…今何処にいるか分からねえからなー…」

「探しても良いけど…条件がある。」

「条件?」

「人体実験の実験台に…」

「うっし…探しに行くかあ…」

「物凄く食い気味にスルーしたね。」

「何?!レド…お前…自ら実験台を…」

「え?」

「『わーい僕実験受けたーい!』お前…そこまでして…」

ケインはレドの声を真似るが、全く似てなどいない。

「あの…」

「てな訳でこいつが受けるってよ。」

「ええ…ちょっと困るんですけど…」

「ははははははは!覚悟しておきたまえよマウス君!こうなったら止められないからね?拒否権など無いからね?ひゃっっはあああああ!」

レドは自身の命が残りわずかであることを悟った。

「あ!ケインじゃーん!」

「おー久しぶりだな。…なんか雰囲気変わった?」

「あ、分かる?香水変えたのよ」

「あー…まあ今のも良いが俺は前のが好きだな」

「本気で言ってる?」

「…いや適当」

「もーなにそれー!」

「ギャハハハ!」

「ケインくーん!」

「ケイン!」

「あの先輩。」

「…なんだ?」

「さっきまで話しかけてきた女性……大体10人…いや12?13?…全員と寝たんですか?」

「んな訳無いだろ。」

「ええ…」

「どーせ信じ無いとは思ってた。」

「さて…と。ここらへんだったかな?」

「こんなところで聞き込みしても意味なんてあります?国公がどうせ調べ尽くしてるんじゃ…」

「あまりにもヒントが少ないもんでな。1月6日の朝以降失踪としか分からないし、カーターさんの地区で連続した疾走が続いてるって割に手がかりが掴めねえし…」

「まあやるだけやりましょうか。……もしかしたら関係ないところでも分かるかもしれないですし。」

しかし三時間ほど聞き込んでも、何一つとして有力な情報は得られなかった。

「……おい誰だここで聞き込もうって言った奴。」

「あんただよ。」

冷酷な口調でレドは返す。

「…なあ。フランクさんの前じゃ気使って言わなかったが今回の事件…」

「知ってますよ。魔族関連でしょ?どうせ国公もそっち方面で動いてる。国公が動いてここまでヒント無しってなると相当ですよ。…っていうかフランクさん本人も気づいてるでしょ?…そもそも可能性が高い時点で彼に言うべきだったのでは?」

「…確証もつかめんし、何より不安にさせちまうよそれじゃ。…まあお前の言うことが正しいかもな。」

「……」

「んだよ?」

「いえ…先輩って夜遊びしまくって昼寝てるイメージしか無かったのでそう言う解答は少し意外で…」

「はあ?!あのなあ、俺は俺で色々と…まあ良い。取り敢えず一旦戻ろう。」

レドの言葉に対し怒りを露わにしかけたケインはそれを抑え込んだ。

2人は疲労感を溜め込んだ足取りで、ドラゴンクロウへと戻った。

「え?ああ…情報?見つかったよ。なんとね…カーター氏の居た地区の情報さ!」

「俺の努力って…」

『俺たちって言わないのかよ。』

レドはそんな文句が漏れ出そうになる。

「それ信用できるんですか?グレーゾーンな証言とかじゃ疑ってしまいますが…」

レドはクレアに疑問をぶつける。

「ふっふっふ…大丈夫さ!何を隠そう地区有数の裕福な家系…」

「おおまじか。」

「に住み着いているパラサイトおじさんの証言だからね。」

「思いっきしブラックゾーンじゃないですか。」

「ま、まあ詳細を知らない事には…一概に根拠がないとは言えんだろ…」

「それでね…彼の証言によると1月5日…大体深夜11時30分…その頃に例の少年が歩いていた所を見たらしい。」

「時刻は正しいんですか?」

「その日は住み着いている家の家族が旅行に行っていたらしくてね。遊び放題だと言わんばかりに外をウッキウキで歩いていたらフッと人影が見えた。どう考えてもこどもの身長だったもんで疑問に思い、後をつけた。が、その曲がり角で突然消えてしまったとの事だ。」

「う〜ん…じゃあますます分からんな…」

「…もしかして地下とか?」

「いや、地下の探索はとっくにやってる筈さ。」

「地下と言っても下水じゃなくてもっと下の…」

「下ぁ?!そりゃ考え過ぎってもんだろう!」

「じゃあそこで消えた理由が分からないじゃないですか。仮にこれが魔族事件だとして…その魔族がたとえば地面を操作する魔能力でも持っていたとしたら…それは可能なのではないかと。」

「妄想の域を出ていないよ…。」

「…だが手がかりがそれ以外無いってんならもうそこで行くしかねえだろ。ここまでくると魔族事件なのは明白だろうし…何より生半可に姿をくらますような能力で国公を却られるとは思わない。」

「……分かったよ。そうなってくると…大体此処からここまでは覚悟しといてね。」

クレアは地図に巨大な丸を書いてそう言った。

「…何するんだ?」

「私の魔力探査機は精度が高い割に持続時間が短くてねえ…電池が切れた時に取り替える役をしてもらいたいのさ。」

「…大体どれぐらい?」

「最低3日。もちろん休みなしでね。」

「終わった…」

「もちろん手がかりが無かったら別のところを探して、さらにもう違うと思ったら別の方法を探さなきゃ行けないからね?」

クレアの言葉には、誰よりも強い圧がかかっていた。

「カーターさん…あと3日以上はかかります。……もう少しの辛抱ですので。」

ケインは電話越しにカーターに謝っていた。レドはそんなケインを見て、やはりかつての母親を思い出してしまった。

6日後…

「あ!…ホントにあった。ホントにあったあああああああああああ!」

クレアは部屋で発狂した。

「終わった…終わったんだ…」

「流石にちょっと休みたいな…。」

レドとケインはその連絡を通信機から聞き、道端で膝をついて安堵の表情を浮かべる。当然道ゆく人に奇怪なものを見る目で見られていたが、彼らはそれを気にも止めなかった。

「…となると…この地下に空洞があるのか。」

「まあそうだね…正確な場所は色々調べるとし…ここまで不自然に穴が開いているってのは…明らかに怪しいよ…ちょっと休もう…今日は寝よう…」

3人はベッドに倒れ込んだ。レドに関しては自身の家があるにも関わらずである。

「カーターさん…魔族が居ると思わしき場所が見つかりました…。」

「本当ですか?!」

「…あなたは祈っていてください。今できる事はそれだけです。現場に行こうなんて事は絶対にしないでください。良いですね?」

後日、ケインはカーターにそう訴えかけた。カーターは何も答えなかった。

ーーーー

「うっし…行くか。」

「…どれくらいだ?強さは。」

「そうだね…最低でもStage5はある。」

「…一体どうなってんだか。知性魔族がぽんぽん出てくるなんぞ聞いてねえよ。」

ケインは軽く口をこぼした。

カーターは3人が事務所から出るのをビルの屋上から眺めていた。まだ気づいていない。よし、このまま着いていけばいい。弟を探すと言った執念が彼の瞳には宿っていた。

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