「学校一の美少女」の姉を自宅で飼うことになったら世話も焼けるが可愛すぎる件。

ひたかのみつ

第1話 美少女で妖精◆櫻田花歩の頼みごと

頼井陽和たよりいひよりは校内一お人好しな高校二年生の男子生徒だ。

 断ることが苦手で、器用になんでもこなしてしまうところがある。

 だから、クラスメイトや先生から小さなお願いをされる、なんてことは珍しくない。


「(もぐもぐ)わらひのえおおあえをあずかっれほひいの」

「ごめん、そのパン? を齧りながらしゃべるのをやめよう 」

 陽和は苦笑いで、机の前に立つ隣のクラスの女子生徒、櫻田花歩サクラダカホに聞き返した。


 櫻田花歩、黒髪のショートヘアと真鍮しんちゅうで出来た金色猪のヘアアクセサリーがトレードマーク。その整った目鼻立ちと、透き通るような白い肌から、クラスはもちろん学校一かわいい少女との呼び声も高い。


「(もごもご)ただのパンじゃないよ! パンオショコラだよ(もぐもご) 」

「ちょ、ちょっと……? 次のひと口にいかないでよ…… 」


 しかし彼女の言動には一般に理解が及ばないものが多く、その見た目と神秘性もあって、ついたあだ名は『妖精ちゃん』である。


 花歩は昼食のパンを口いっぱいにもぐもぐさせながら、陽和の顔の前に手のひらを差し出した。

「えっと……? 握手、ですか? 」 身長同様に小さな手だと思った。

 陽和が、学年一の美少女との握手に身構え、自分の手のひらを花歩の方へゆっくり持ち上げたところで、

「んんっ」と花歩がうなった。


 陽和がはたと我に返ると、花歩は顎でクイクイっと、陽和の机の上にあるお茶のボトルを示している。

「えっと、このお茶が欲しいの? 」

花歩は、さも当然だという目で、手を伸ばしたままコクコクと頷いた。


 親切心のままに、お茶ボトルを手渡してあげると、花歩は迷いのない動作でお茶を開けようとして――開けずにそのまま、飲み口を勇旗の目の前に向けてきた。

「キャップ、開けて欲しいの? 」

 若干の苦笑いを混ぜてたずねると、今度は少し頬を赤らめながら、小さく頷いた。

照れ?! あの櫻田花歩にもそんな感情があったのか……

 しかし恥じらいの基準が全くわからない。 と陽和は思った。


「い、いま開けるよ。 はいどうぞ、キャップ開いたままだから気を付けて」

陽和ひよりは急いでキャップを開け、花歩にお茶を返した。

花歩は受け取るなりお茶をグビグビと飲み、ボトルの中身が半分を切ったあたりで、「ぷはあぁぁ」と見た目らしからぬ息を吐くと、ボトルを陽和の机に置いた。


「あぶなかった。 息できなくて」

「なるほど…… 」 恥じらいの赤面ではなかったか。窒息寸前、危機一髪。


 どうやら、パンはしっかり飲み込めたらしい。

こほん、と小さく咳ばらいをしてから、花歩は再び説明を始める。

「じゃあもう一度、ちょっと用事があって 」

「うん」

「うちで飼っている猫を、預かって欲しいの 」

「なるほど…… 」

「あと姉も」

「うん? あね? 」 

 猫のついでにおまけとして付いてきた聞きなれ無いフレーズ。『 預かって欲しい 姉 』

 けどまさかそんなはずはないよね? と陽和は訝しげに


「そのアネっていうのは猫のことで合ってる? 猫は姉妹で二匹いるっていう…… 」

「いやいや、猫は一匹だけ、別のペットのことでもないよ。姉っていうのは勿論、わたしの姉だよ。ラージシスター 」


 花歩は、何言ってるの? とでも言いたそうな様子だ。

「いや、何言ってるの? は俺の台詞だ 」

「別に何も言ってないけど……? 」

「姉をクラスメイトに預けるって、いったいなにがどうなったらそんな話になるんだ 」

 花歩は少し困った表情で首を傾げ、

「うーん、猫を世話する人が必要で、姉を世話する人も必要で……猫は姉を十分に世話できないし、当然姉も猫の世話をできないから? 」

「ごめん全然わかんない」




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