隣の席のギャルが優しい

桜井正宗

第1話 隣の席のギャル

「岩谷くん。岩谷いわたに 海里かいりくん……君、大変だったね」


 隣の席のギャル・島田しまだ りんが俺を慰めてくれていた。

 三日前、家が全焼し……なにもかも失った俺。

 今は親戚の家でお世話になっていた。

 家族は重体で入院中。

 俺だけが奇跡的に助かった。


「島田さん、話しかけてくれてありがとう。俺、昔から不幸体質なんだよ」

「そうなんだ。お参りとかお清めした方がいいかもね」


 もちろん、神社へ参拝してみたり、滝に打たれてみたり、霊媒師に清めてもらったり……海外の有名なシャーマンに祈ってもらったりなどなど色々試した。

 それでも俺は不幸だ。


 しかも、ぼっちで孤独。

 だからアニメだとかゲーム、VTuber趣味に走っていた。

 しかし、そんな趣味すらも火事によって奪われてしまった。


 財布も、最近誕生日で買ってもらったばかりの最新のスマホも、全て丸焦げの灰となった。


 俺はどうして、こうも不幸なんだ。


「もう無理かも。この呪いはどうやっても解除できないんだ……」

「落ち込まないで。まずは小さな一歩からはじめてみよう」

「なにを?」

「わたしと遊ぼうよ。そしたらさ、少しは運気が変わるかも」

「島田さんと!? マジで……いいの?」


 本当に良いのかなと、俺は島田さんに視線を送る。

 彼女は笑顔で答えてくれた。


「いいよ。その代わり、おすすめのアニメとかゲームを教えてよ~。岩谷くん、そういうの詳しいでしょ」


「なんで分かるんだい?」


「ほら、隣の席だからさ。スマホの画面が見えていたの」


 そうだったんだ。

 完全に油断していたな。

 でも、まさか島田さんがアニメとかゲームに興味があるとは

 俺とは住む世界が違うと思っていたのに。


 そもそも、島田さんは俺みたいなオタクとは無縁のはず。なのに、どうしてこんな優しいんだろう?



 疑問に思いながらも、俺は島田さんと友達のような――いや、それ以上の関係になりつつあった。



 一週間も経つと気軽に話すようになり、アニメやゲームの話題で盛り上がっていた。



「――という異世界モノが面白いよ」

「うん、なんか流行ってるよね。わたしも見てみようかな~」



 島田さんと一緒にいると会話も弾むし、不幸も起き辛いと分かった。

 ここ一週間、プチ不幸こそあったけど、ヒドイ目に遭うことはなかった。


 精神的にも楽になり、俺は島田さんともっと時間を過ごしたいと感じていた。


 友達以上に……付き合えたらいいのにな。

 でも、思いを口にしてしまったら、この関係は終わってしまうような……そんな気がしていた。


 だから俺は言わないでいた。



「配信サイトにあるから、ぜひ」

「帰ったら見てみるね。ていうか、岩谷くん」


 突然、俺の手をにぎってくる島田さん。

 今までなかったスキンシップに俺はドキッとした。


「ど、どうしたの……島田さん」

「今日、どこかへ遊びに行かない?」

「も、もちろんだよ! 誘ってくれるとは思わなかった」

「だってさ、岩谷くんぜんぜん誘ってくれないんだもん」


 そりゃそうだ。

 俺から誘ってオーケーが貰えるとは思えななかった。

 99.9%の確率で玉砕すると分析していた。

 けれどそれは違ったようだ。

 島田さんは……なんだか他の女子とは違うようだ。

 やっぱり、ギャルって良い意味で異質なんだな。



 放課後。



 職員室に呼ばれていた俺は、用事を済ませて教室へ向かった。

 結構時間が掛かってしまった。

 教室にはもう島田さんしか残っていないだろう。

 俺を待つ、島田さんしか。


 そうだ、早く向かおう。


 かなり待たせてしまった。

 お詫びになにか奢ってあげよう。


 ルンルン気分で教室へ。



 だが、教室の前に到着して早々、違和感を感じた。



 ……?



 気配が二つ?

 しかも、島田さん……誰かと話しているみたいだ。



『……島田さん。あんな陰キャの岩谷より、俺の方が……いいんだろ?』

『……っ』



 え……。

 なにが、起きて……?


 扉が少し開いていた。


 覗いてみると、島田さんが押し倒されていた。

 相手の男は……同じクラスの茂木もぎくん!


 ウソだろ……そ、そんな!


 島田さんが他の男と……信じられない!

 こんなの悪夢だ!!

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