第147話

 その日のお風呂上り、ぼくはプレゼントのリサーチをするべく、リビングのソファで寛ぐ宏兄に近づいた。

 

「宏兄、宏兄」

「ん?」

 

 宏兄はすぐに読んでいた本を閉じて、テーブルに伏せてくれた。体ごと向き直って、「どうした?」ってほほ笑んでくれる。

 ぼくは、なんだかくすぐったい気持ちで、隣に座ると、話を切り出した。

 

「ちょっと、相談がありまして……」

「おう。なんだ」

「お義母さんにお誕生日のプレゼント、贈りたいねん。宏兄とぼくの二人からってことで。いいかな?」

「ダメなわけないじゃないか……! ありがとうな」

 

 宏兄は大きな笑みを浮かべて、わしわしと頭を撫でてくれた。ぼくは、ホッとする。

 

「よかったあ……それでね。どんなプレゼントにしよう? 何か、好きなものとか……衣類……も、趣味があるけど。お花とか、食べものもいいかなって、思ったんやけど……」

 

 ぼくは、後ろ手に持っていたポメラを出し、「プレゼント企画」のファイルを開いた。今日、綾人に聞いた、お義母さんの情報をまとめてあるねん。――宏兄に画面を見て貰って、相談する。

 

 綾人が言うには……お義母さんは、和服の似合う優しいひとで。

 すごく多趣味で、シュノーケリングから、けしごむハンコまで、色々習ってはるんやて。最近は、フラワーアレンジと自転車にとくに凝ってはるそう。お料理は作るより食べに行く派で、老舗も話題のお店もお好き。

 

「ちなみに、綾人のところは、サイクルウェア一式にするんやって!」

「おお。綾人君、いいチョイスだなー」

「ねっ。やから、うちは自転車以外で! 宏兄、お義母さんの好みとか、教えて欲しいんよ」

  

 お義母さんは、「好き」をたくさん持ってはるひと。きっと、道具にしろ嗜好品にしろ……色んなこだわりがあるやろうから、情報収集が大切やんね。

 

 ――お邪魔にならんのはもちろんとして。やっぱり、喜んでもらいたいもん。

 

 お嫁さんとしての、初のミッションですから。

 ふんすと意気込んで、宏兄を見上げると――すっごい、にこにこしてる。

 

「そうだなあ。成が選んだものなら、なんでも嬉しいと思うけどな」

「……も~、お世辞はいいのっ。お役立ちな情報をください!」

「ははは」

 

 宏兄は、天然さんなんやから。

 両腕を振り上げて、ぷんぷんしていると宏兄は笑う。

 

「本気なんだけどなあ。うーん、そうか……」

 

 テーブルに置いてあったスマホを取り、宏兄は何やら操作したかと思うと、画面を見せてくれた。

 覗き込んで、「わあ……!」と感激の声が漏れる。 

 それは一枚の写真で、被写体は大きな食器棚やった。そこには、ティーセットが所せましと並んでて。画面を拡大させてもらうと、ティーポットに急須、ティーカップや湯飲みにコーヒーマグまで、ずらり。一目でわかる高級ブランドから、キャラクターまで色んな種類があるみたい。

 

「これは……?」

「母さんのコレクション。あの人、究極のニワカなんで、色々試してはすぐ次に行くんだけどさ。ティーセットと着物だけは、ずっと集めてるみたいなんだよな」

「へええ」

 

 聞けば、こんな棚がまだ何台もあるそう。めっちゃ大好きやん。

 ぼくは身を乗り出して、その写真を見つめた。

 

「そっか……! ティーセットやったら、気に入ってもらえるよね! コレクションは、増えれば増えるほど嬉しいもん」

 

 ぱっ、と両手を打ち合わせる。すると、宏兄はからかうような笑顔を浮かべた。

 

「成も、「小説やったらなんでも嬉しいよ」、って言うもんなー」

「うっ……好きなんやもん!」

 

 つんつんと頬をつつかれて、照れくさくなる。だって、お誕生日に本が増えたら嬉しいやん。

 

「よしっ。そうときまれば……素敵なティーセット見つけよう!」

「あと、なんか良い感じの茶っ葉を見繕っとくか」

「賛成!」

 

 宏兄が、笑顔で手を上げる。ぼくも、満面の笑みを浮かべて、ハイタッチした。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る