いつでも僕の帰る場所
高穂もか
プロローグ
この世界には、「第二の性」と呼ばれるものがある。
それは、第一の性である「男性・女性」の上に、「アルファ・ベータ・オメガ」の三つに分類された。
最も数の多いベータは、第二の性に振り回されない、第一の性だけを持つ存在である。
アルファは数が少なく、必ず何らかの才能に恵まれる。彼らは、社会においてあらゆる意味でのリーダーであり、勝ち組と言える存在だ。そして、その希少さから崇拝と畏怖の対象として尊ばれた。
最も数の少ないオメガは、「生産」に特化していた。オメガは男女の別なく、体内に子宮を有し、妊娠出産が可能である。さらに三か月に一度「発情期」があり、この時に性交に及べば、ほぼ百%の確率で妊娠できる。
オメガの生産性とは、長らく大きな社会の問題でもあった。
発情時のオメガのフェロモンは、周囲にいるものを無差別に、発情状態に陥らせてしまう。
ゆえに性犯罪や、望まない妊娠などの事態を引き起こし――オメガは、まともな社会生活を営むことが出来ないとして、迫害・隔離の対象とされていた。
本能に苦しめられるオメガの唯一の救いは、アルファに所有され、彼らの子を産むことだけ。アルファに項を噛まれると、オメガの子宮はロックされ、その個体の子しか孕めなくなるからだ。
――とは言え、それは「オメガ保護法」が制定される以前……はるか昔の話だ。
医療の発展により、フェロモンの抑制剤が開発されたこと。
何より――オメガの「生産性」の重要さに、社会が気づき始めたのが、大きな変化だった。
深刻な少子化問題の解決の為、オメガ保護法が制定されて以来……オメガは、社会から守られる存在となっていた。
現在では、オメガであれば、学費も生活費も国が担ってくれる。高額なフェロモン抑制剤の支給も、全ての医療も無償で受けられ、まさに国を挙げて保護されていた。
その対価として――オメガには「出産の義務」が課された。
オメガ保護法により、「国により保有されるオメガは二十歳を迎えると、出産の義務を果たさなければならない」。
ニ十歳を迎えたオメガは、国への恩返しに、残りの一生をかける。
オメガセンターに保護され、精子の提供を受けての出産を行い――生まれた子供は手元から離され、すべて国の所有とされた。
ただ一つの逃げ道は――婚姻すること。
婚姻すれば、国から婚姻相手へと所有権が移る。その相手次第で、好きな仕事につくことも、子供を手もとで育てることも出来る。
ゆえに、オメガはニ十歳を迎えるまでに「婚約者」を見つけようと必死になるのだった。
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