古い大きな地図
雨世界
1 春になるとわたしは世界を見つけた。
古い大きな地図
あなたと一緒に地図を見る。
それから二人で、冒険に出かける。
……まだ見たこともない場所に。
わたしとあなたの、二人の頭の中にしかない場所に。
春になるとわたしは世界を見つけた。
わたしは今、この手紙を病院のベットの上で書いています。
こんなに落ち着いていろんなことを考えることができるのは、もう本当に何年ぶりだろうかと思います。
あなたに手紙を書こうなんて全然思っていなかったのに、急に手紙が書きたくなりました。
なんだか少し恥ずかしい気持ちになります。
でもわたしの正直な気持ちを書きます。
それをあなたに読んで欲しいんです。
いつも迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい。わたしはいくつになっても子供であなたに迷惑ばかりかけていましたね。
しかもそのことに気がつくことがまったくできませんでした。わたしには周りを見る余裕すらなくなっていたんですね。本当にごめんなさい。
季節はもう春ですね。
いつのまにかあの寒い冬は終わっていました。なんだかあっという間でした。
この手紙を書いている今も開いている窓から気持ちのいい春風が吹き込んでいます。
ねえ。覚えていますか?
二人で桜を見たときのこと。
それから、そう。星を見に言ったこともあったよね。
海に行ったりもしたし、雪を見たこともありました。
なんだかどの思い出も懐かしくて、楽しかった気持ちでいっぱいで、きらきらしていて、なんだかちょっとだけ泣いてしまいそうになります。
家の中にいるわたしをあなたは無理やり外の世界に連れ出してくれました。
あなたがいなかったら、見ることもなかった景色が、感じることもなかった気持ちが、わたしの中にはたくさん、本当にたくさんあります。
あのころのわたしは世界を恨んでばかりいました。人を妬み、自分のことが大嫌いで、あなたのことも大嫌いでした。
わたしには愛が必要でした。
あなたが愛をくれました。
たくさんの愛を。
受け止められないくらいの、目を細めてしまうくらいに、眩しい愛を。
……どうもありがとう。今、こうしてわたしがこの世界にいられるのはあなたのおかげです。
あなたはわたしに世界が綺麗だってことを教えてくれました。
自分を大切にすることを。誰かを愛することを。生きることは失敗をしながら学ぶことだってことを、教えてくれました。
もし神様がいて願いをひとつだけ叶えてくれるのだとしたら、わたしはあなたと暮らしたいと願います。
あなたと一緒に長い年月を過ごしたい。それだけがわたしの願いです。
質素で平凡で、でも毎日が楽しくて、安心できる明るい家で、あなたとずっと一緒にいたいです。
空の中に白い月が見えます。
今書いているこの手紙があなたの元まで届くことを祈って、わたしはこの手紙を紙ヒコーキにして、書き終わったら空へと飛ばします。
月まで届くようにと。
神様に願いを込めて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます