第0章6話【意思決定】-イミヤの思い-

 イミヤは現実と幻の間を行き来しているようだった。そんな浮遊感に襲われながらイミヤは周囲を見回す。


「ここは…。」


 そんな時ガラスが割れるような音と共に、空間が裂け、茶色掛かった髪と黒くそして蒼い瞳をもつ少女が姿を現した。

 しかし、すぐに違和感を覚えた。彼女には表情がこれっぽっちもない。けれど、その姿はイミヤに似ていた。


「これは、私?」


 言葉を返してくれる事を期待せずに、そう疑問を投げかける。


「そう私。あなたは私。そして、あなたが取らなかった選択肢を選んだ私。」


 彼女は微笑むこともなく無表情で淡々と言葉を続ける。


「こうすれば良かった。こうするべきだったと、あなたが選べなかった道を進む私。」


 脳に響き渡る不愉快な声色をした私はそう告げる。


 私が選ばなかった道?私が全てを守ることができた私?

 考えようとしてもよく分からず、頭が理解する事を拒み、何かに怯えるように身体も震え出す。


 けれど、その震えた体を無理やり手で押さえ込み、相対する彼女の目を離さず告げる。


「私は貴方を羨んだりしない。これは私が決めた道たがら。」


 例え過去がどのようなものであっても。


 再びガラスが割れるような音が鳴り、この世界の終わりを告げる。私はまだ死ねない。死んではならない。責任を果たすまでは。だから帰ろう。待ってくれている皆さんの元へ。


 刹那、もう一人の私が酷く顔を歪めていたのを私は見逃すことはなかった。








 い……ちゃ…いm………ん


 呼ばれている。私はまだ生きなければいけない。彼らが望んだ世界のために。

 そう決めたのだ。だからその声がする方へ求められるまま前に進む。


 瞼をうっすらと開けるとあまりにも眩しくて目が反射的に閉じようとするが、それにすら反抗し、周りを確認する。


「…ここは?」


「イミヤちゃん!よかった。本当によかった。」


目の前にはヴァルエさんがいて、私の顔を覗き込んでいた。


「ヴァルエさんは無事だったんですね。

……無事だったのはヴァルエさんだけですか?」


「私もいる。」


「インディゴさん…よかった。他の方々は?」


 インディゴは少し黙り込んだが、意を決したのか話した。


「他は殉職。私たちがいたのに不甲斐ない。ごめんねリーダー。」


「……いえ、あなたたちが無事でよかったです。」


 イミヤは少し神妙な面持ちになったが深呼吸してそう答えた。

 辺りを見回そうと寝台から起き上がろうとしたが、寝台に固定されているようでそれが叶うことがなかった。


「GVaを確保できたんですね。けれど、機械の類が動作していない?じゃあ何が車両を動かしているの?」


「その通り機械類が軒並みやられているようだから私が運転している。」


 少し怖くて聞けていなかったが、ヘクタがまだイミヤといるという存在の証明であるその言葉に安堵した。


「ありがとうございます。ちなみに私はどれくらい気を失っていましたか?」


「そんなに気にすることじゃない。2時間くらいだ。」


「2時間ですか…。ご心配をおかけしました。」


「気にすることじゃない。もうすぐ街につくから、それまではその応急処置だけで勘弁してくれ。鎮静剤も打てればよかったが、ただでさえ出血が激しいんだ。呼吸が浅くなってしまったら困る。」


「大丈夫です。これくらいの痛みは耐えられます。」


 と言って、にへらっと笑顔を作った。

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