ブラインド・サバイバル~超有名ゲーの世界に転生したけど、私はプレイしたことがない~

賽乃目れいか

第1話 覚醒

「ああぁ————————————————っ‼」

「ど、どうなさいましたか、お嬢様⁉」

「急に叫ぶなんて、はしたないぞシャルロット」


優雅なバースデーパーティを切り裂く、甲高い少女の慟哭。家族も使用人も、今日婚約が決まったエドウィン王太子も、目を見開いてこちらを凝視する。

私——シャルロット(3歳)は、今宵、とうとう気付いてしまったのだ。


「私…………私、転生者なんだッ‼」


「……………………、は?」

全員の目が点になった直後、私の意識はプツリと途絶えた。



その後は大騒ぎだったらしい。意味不明の言葉を叫んで失神した私に、屋敷は上へ下への大騒ぎ。国一番の名医を呼び、あらゆる薬を用意し、目が覚めた時にはフワッフワのガウンと最高級羽毛布団にくるまれていた。

まあ意識を取り戻したら取り戻したで、ひと騒ぎ起こったのだけど。それすらごっそり抜け落ちるほど、私は動揺していた。


なぜなら今私がいる世界は、前世の超有名乙女ゲー「君は月夜に誰を思う?」の世界だったから。

そして私、フランボワーズ公爵家令嬢・シャルロットは“君月”のキャラクターの一人だったのである。


以前から違和感はあったのだ。シャルロットでない、別人の思考が入り込んでいるような感覚。どうにも聞き馴染みのある単語。公爵家令嬢に生まれ王太子と婚約、剣と魔法の身分社会。こんなテンプレすぎるカードが揃えば、誰だって異世界転生を疑うだろう。

そしてフレーラン王国の王太子・エドウィンとの婚約が決まり、彼の容姿を見た瞬間シャルロットの中にいた“私”が覚醒した。金髪正統派王子様のルックスなのに、瞳は鮮やかな赤とオレンジのオッドアイ。君月の広告を見かけるたび、その斬新なキャラデザに感心したものだ。

そして私、シャルロットは……


…………シャルロット、は……


(——ヤバい!全っ然、立ち位置が分からない!っていうかこんなキャラ広告にいたっけ?プレイしたことないから何も分からないぃ—————————っ!)


超有名と紹介しておきながら、私は君月をプレイしたことがない!いや君月だけじゃない、ゲーム全般やったことがないのだ。HPとMPの区別なんてつかないし、RPGの「僧侶」と聞いて日本古来のお坊さんを思い浮かべる始末。一度友人の勧めで乙女ゲーをプレイしたことがあるが、どうも性に合わずキャラ設定で辞めた。

あの時ゲームを勧めてくれた咲紀(さき)ちゃん、元気かなぁ……。


(……いやいや、前世を懐かしんでる場合じゃないって!転生モノあるある、元ゲームの知識ありきのストーリー展開!ゼロ知識の私がゼロ準備で参戦したら、確実に何かしらのバッドエンドを迎えてしまう……考えろシャルロット!)

まだクラクラする頭に無理やりエンジンをかけ、私の現在と未来を全力で分析する。

このようなゲームの世界に転生した場合、考えられるパターンは主に3つ。


①特殊能力を秘めた主人公(8割が庶民)


②強い魔力を持つ悪役令嬢(8割が高位貴族)


③ゲーム内に登場しない新キャラ、あるいは登場するけどモブ(ただし9割が転生バフでチート持ち)


(王太子と婚約するくらいだ、フランボワーズ公爵家は貴族の中でも屈指の名門に違いない。あとは魔法についてだけど、まだ魔力紋が出ていないから未知数ね……)

そもそもこの世界では、魔法を使えることが“貴族”のステータスになっている。家庭教師曰く、魔力を持つ子供は“魔力紋”なるものを発現させるというが——。


ジワ……ッと、胸元が熱くなった。


(ま、まさか——)


慌ててベッドを下り、鏡の前で確認する。右胸のあたりに、バラのような黒い紋様が浮かんでいる——間違いない、魔力紋だ。


これも家庭教師の受け売りだが、魔力紋の発現は6歳前後が平均という……

……私、今、3ちゃい。


(終わったあぁぁぁ—————————ッ!公爵家令嬢、王太子と婚約、強すぎる魔力!これ絶対、シャルロットが悪役令嬢で処刑されるシナリオじゃーん‼)


頭を抱え、天を仰いで慟哭した。おお神よ、貴方は私に知識ゼロで死(バッドエンド)を回避せよと言うのか、命綱無しでバンジージャンプをしろと言うのか……。


それを悟った瞬間、涙がとめどなくあふれてきた。

某大ヒット転生モノと違い、ゼロから異世界生活を始めているヒマはないのだ。いくら前世でテストだ受験だ成績だという無理ゲーをこなしてきた私でも、さすがにこれは無茶すぎる。文字通りのノーゲーム・ノーライフだ。


死ぬのは嫌だ。異世界転生には夢を見たい。

それに——


(君月は知らなくても、転生モノあるあるは知っている‼)


そう、私はゲーム全般に疎い。だけど転生モノに関しては、誰にも負けない読書量と愛を持っている。普通のJKが恋愛やオシャレに当てる時間を、私はすべて、転生モノを読み漁る時間に費やしてきた。一時は某Web小説プラットフォームに自作ラノベを投稿していたほどには。


その経験則によれば、大半の悪役令嬢が十代~二十代あたりで処刑されている。主人公が出てくるのは、その世界の学院に入学した頃が9割。

君月の世界で、学院に入学できるのは10歳から。勝負は、今日からの7年間で決まるに等しい……!


拳を握りしめ、私は鏡に映る私に誓った。


——残り7年で、このゲームの攻略方法を見つけて処刑エンドを回避する。

さあ神もご照覧あれ、転生モノの知識でゲームの世界を生き抜いてしんぜよう!


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