あまたのドラマ
らむねり
1 月夜に消える
眼下の町からはあちこちで火の手が上がっている。熱波がこの崖の上まで登ってくる。顔が熱い。黒くうごめく妖し達の大群が街を飲み込んでいく。夜の闇の中で、禍々しい叫び声が散り散りになり空に消える。
「どうか、おやめくださることはできないのですか」
遥か天から細く刺す、月光を浴びた背中にすがる。
「この叫びを聞いてなお、私にやめろと申すのか」
大和は腰に携えた剣に触れ、柄を握った。鞘から抜刀すると同時に、刃先に漆黒の龍が現れ剣に渦巻く。
「大和様、、、」
大和は刃先を天に向け、眼下に燃える町を見つめる。妖しどもが家々を踏み潰し歩く。子供も大人も踏み潰され、燃えた家に巻き込まれた。建物や家畜、人々にあてられた悲劇が轟音となって大和に届く。数百年に一度の百鬼夜行。妖し供の、血肉が踊る。
「紫、これで最後になる」
暗黒の龍を纏いし刃の切先を払い、大和は肩越しに紫を見つめる。面をあげる紫。目が充血し濡れている。鼻頭まで赤い。鼻をすすりながら、紫は見つめ返す。
こんな惨事の時にも美しいあなたを、永遠にみていたかった。
「いままでありがとう」
半歩、足を踏み出す。
紫の消えそうな悲鳴が小さく響く。
大和は、静かに微笑む。
「————、、、」
大和はつぶやいた。惨劇の音に、それは消された。
紫の瞳は揺れた。崖から飛び降り姿を消す最愛の彼。心臓が早鐘をうち、全身に響く。口が渇き、うまく息ができない。声がでない。手を伸ばす。届かない。駆け出すにも、足がもつれてしまう。着物の裾につまずいた。地面に顔を打ちつけ、岩で頬を切った。生暖かい血が垂れる。惨めな有様に、涙が流れる。なんとか崖先まで地を這い、町を覗く。炎の渦にゆらめく町。もう、大和姿は見えなかった。
「大和様、、、」
紫はまた、地面に沈んだ。
あまたのドラマ らむねり @ramu_neri
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