第38話
ユフェライラ様はどこまで行くのだろうか。
牢を出てからまっすぐと王宮に向かっているみたいだ。牢から王族の住まう王宮までは歩いてでも10分近くかかる。
私は、ユフェライラ様の後を物陰に隠れるようにしてついていく。
猫というのは瞬発力はあっても持続力がない。
ユフェライラ様の歩く速度についていくのがだんだんと辛くなってきた。
人間の姿の時はこのくらいの距離を歩くのはわけがなかったのに。猫の姿でいるのは尾行するのにはいいけれど、持続力が足りないのが難点だ。
だんだんとユフェライラ様との距離が離れていく。それでも、ユフェライラ様が王族の住まう王宮の中に入っていくのは見て取れた。
王宮のどこまで行くのだろうか。あまり奥深くまで入っていってしまうと私が隠れる場所もないかもしれない。
誰か知っている人がいれば、ユフェライラ様の企みについて相談したいのだけれども。って、猫の姿では難しいかもしれないけれど。
「あれ?猫がいる。どっから入ってきたんだ?」
少しの油断が辺りへの警戒を疎かにしていた。
ユフェライラ様に見つからないように気をつけていたが、王宮を警護しているたくさんの衛兵たちのことはあまり気に留めていなかったのだ。
まずいっ。王宮の外につまみ出されてしまうかもしれない。
まだ、「あの女」が誰かもわかっていないし、ブチ様にもお会いできていないのに。
「にゃあう。(見逃してちょうだい。)」
おねだりするように鳴いてみる。
「可愛い猫だな。だけど、ここに入って来ちゃいけないよ?」
「まて、王族の誰かの飼い猫が外に出てしまったんじゃないか?」
「そうだな。こんなに美しく可愛い猫だ。ただの野良猫ではなさそうだ。」
衛兵たちは私の姿を見て優しげに微笑む。
王宮の外につまみ出されてしまうかと思ったが、話の流れからすると王族の元に連れて行かれそうな感じだ。
ユフェライラ様やユースフェルト殿下の元に連れて行かれなければいいけど。でも、あの人たちは猫を可愛がっていると聞いたことはないし……。
「王妃殿下なら、一番猫に詳しいだろう。王宮内の猫は全て把握されているだろうし、王都の猫も大体把握されているはずだ。」
「ああ。そうだな。ただ、お忙しい王妃殿下だ。すぐに会ってくれるだろうか。」
「大丈夫だろう。王妃殿下は猫を最優先にされるような方だ。伝言を伝えればすぐにでも返事がくるだろう。」
どうやら私は王妃殿下の元に連れて行かれるようだ。
私は衛兵の一人にひょこんと抱き上げられた。
「見れば見るほど可愛いな。王妃殿下がこの猫のことは知らないっておっしゃったら、オレが飼おうかなあ。」
「あ、ずりぃ。オレも飼いたいな。」
「オレもオレも。」
「んー。大人気だな。おまえ。いっそのこと王宮の片隅で飼わせてもらうか?王妃殿下なら許可を出してくれそうだ。」
「そうだな。飼い主がわからなかったら、掛け合ってみるか。」
衛兵たちは私を囲みながらそんな話をしている。
私は人間なので誰かに飼われるのは避けたい。いつ元に戻れるのかはわからないけれど、どうせなら人間に飼われるのではなくて保護猫施設で猫に囲まれて過ごしたいと思ってしまう。
「なにを騒いでいるんだ?」
衛兵たちがワイワイと騒いでいるのを不思議がった男性が声をかけてきたようだ。
この声、どこかで聞いたことがあるような……。
不思議に思って声のした方を向くとそこには銀髪の男性が立っていた。
「にゃああん。(シルキー殿下。)」
そう声をかけてきたのは、シルキー殿下だった。
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