第32話







「……話は聞いていた。ユースフェルトはどうしてあの女にそこまで固執しているのか不思議だな。アマリア嬢まで陥れてしまうほどに、ユースフェルトがあの女に惹かれるだなんてとても不思議だ。」


 銀髪の青年は不思議そうに首を傾げる。

 この人はアンナライラ嬢のことも知っているようだ。

 

「オレはアマリア嬢の方がいいけどな。」


「えっ!?」


 この人は何をサラリと言ってのけるのだろうか。

 

 思わず頬が赤くなってしまい、両手で頬を抑える。

 

「いや、普通にそうだろう?あの女、教養なさそうじゃないか。どう考えてもあの女がこの国の王妃になったら国が亡びるだろう。それならアマリア嬢の方がマシだろう。どう考えても。」


「むっ。なんか失礼な言い方ね。」


「そうだろう?」


「それはそうだけれども、マシと言われるのは気に入らないわ。」


 銀髪の青年に助けてもらったのは事実だけど、なんだかこの人は初対面のはずなのに失礼な気がする。

 

「マシなもんはマシだろ。」


「もうっ!それよりあなたのお名前を教えてくださるかしら?」


 本来、相手の名前を訊くときは自分から名乗るのがマナーだが、この人は私の名前を知っているみたいだし、とっても失礼な人だから少しくらいマナー違反をしてもいいだろう。

 そんな気持ちで名前を尋ねてみた。

 

「んー?オレの名前か、オレは……。」


「んあっ!?なんだ、これっ!!なんで、オレは裸なんだよ!!オレの服はどこにいったんだっ!!」


 銀髪の青年が名前を教えてくれそうなのに、急にユースフェルト殿下が慌てたような声を上げたので名前を聞き取れなかった。


「服はオレが借りている。」


 銀髪の青年はユースフェルト殿下にこともなげに伝える。

 

「なんだってっ!!オレの服、返せよっ!!」


 怒りながら、銀髪の青年の方を振返ったユースフェルト殿下だったが、銀髪の青年を目に入れた瞬間、ユースフェルト殿下は目を大きく見開いた。


「……シルキー兄上。」


「よぉ。久しぶりだな。」


 銀髪の青年……もといシルキー様はにっこりとした笑顔をユースフェルト殿下に向けた。

 ユースフェルト殿下の言葉を聞いた私は、ユースフェルト殿下と同じように大きく目を見開いて銀髪の青年を凝視してしまった。

 「シルキー兄上」その言葉が意味するところは、この目の前にいる大変失礼な銀髪の青年こそが、この国の第一王子殿下ということだ。

 

 思いも寄らない人物の登場に私は目を白黒させた。

 だって、シルキー殿下は人前に姿を現さないから。猫の姿になったとも噂されている人物なのだから。




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