第23話
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「なんだ、あれは……。とんでもない女だな。あんな女をユースフェルトが好んでいると?アマリア嬢との婚約破棄までして、あんな女を求めると……?ユースフェルトはいったい何を考えているんだ。」
オレは隠れてアンナライラの様子を伺っていた。
アンナライラはシルキー王子を探しているようだ。
それも意味不明な理由を並べ立てて探しているらしい。
冗談じゃない。
アンナライラはシルキー王子という肩書を利用して王妃になろうとしているだけではないか。しかも、民のことは一切考えず、自分だけよければすべて良いという考えなのが嫌でも伝わってきた。
「アンナライラが王妃になるなんて冗談じゃないな。この国を破滅させる気だろうか。あれじゃあ、アマリア嬢の方が数百倍もマシじゃないか。」
一つ年下のユースフェルトの顔を思い出し、眉間に皺を寄せる。
ユースフェルトはお人よしで騙されやすく、とてつもない馬鹿だが民のことは少なからず考えていたはずだ。
だから、オレが人間の姿に戻れなくても、王も王妃もユースフェルトにしっかりとした妃をあてがえば、この国はなんとかなると踏んでいた。
そして王や王妃、重臣たちが慎重に慎重を期して選んだのが、アマリア嬢なのだ。
非常に厳しい審査だったと聞く。
結果が出るまで数年かかったとも。
「ユースフェルトもアマリア嬢のこと気に入ったって言っていたのにな。」
ポツリと呟く。
どこか寂し気なその声は「にゃぁ……。」としか発せられなかった。
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「こんな夜分遅くにごめんなさい。施設に潜り込んだお嬢様を捕まえましたの。」
ユリアは城の詰め所のドアをくぐると、アンナライラをドサッとその場に置いた。
「こ、これは、ユリアさまっ。」
詰め所にいた衛兵の一人がユリアに気が付くとすばやくユリアの前に立つとピシッと敬礼をした。
「この子、とぉっても危険な子だからしっかりと見張っていてちょうだいね。施設の警備兵もこの子の所為で使い物にならなくなっちゃってたのよぉ。まったく、情けないったら。」
「はっ!なんたる怠慢でありましょうかっ!申し訳ございませんっ。きっちりと処罰しておきます。」
「まあ、いいわ。いつもはとても良くやってくださっているもの。それに、この子は闇の魔力を使うわ。慣れない闇の魔力に当てられて気絶してしまったみたいね。」
「申し訳ありませんっ。ユリアさま。」
「いいのよ。でも、あなたたちも気をつけてちょうだいね。この子、魅了の魔法も使えるみたいなのよ。」
「はっ!それは気をつけますっ!」
「頼んだわね。ああ、そうだわ。ナーガ様はいらっしゃるかしら?」
ユリアは衛兵にアンナライラを引き渡すと、クルリと方向を変えた。そして、去り際にナーガのことを確認する。
「はっ!ナーガ様はお休みになられているかと……。」
「そう。わかったわ。ありがとう。」
ユリアはそう言って城の詰め所を出ようとする。
「待ちなさい。ユリア。」
そのユリアを、音もなく気配もなく、どこかからやってきた黒髪の女性が引き留めた。
ユリアは自分を呼び止める声を聞いて、ピタリッと動きをとめた。それからゆっくりと振り返る。
「……ナーガ様。いらっしゃいましたか。」
「ええ。ユリア、あなたに聞きたいことがあるの。お時間よろしいかしら?」
「はい。問題ありません。」
ユリアはナーガと共に詰め所を後にした。そして、城の内部に連れだって向かう。
深い闇が二人を覆い隠し、二人の姿はすぐに衛兵たちからは見えなくなった。
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