第20話





 アンナライラ嬢はユースフェリア殿下のことを好きではなかったの?

 好きではなかったのに、私にあることないこと言いがかりをつけて学園から私を追放したというの?

 

「アンナライラ嬢。あなたは、シルキー殿下にお近づきになるためにユースフェリア殿下を利用したとおっしゃるの?あなたはシルキー殿下と面識があるのでしょうか?」


 シルキー殿下。お名前は聞いたことがあるが、表には今まで一度も出てきたことがないお方だ。

 どんな容姿をしているのか、どんな性格をしているのか。その一切の情報がないお方だ。

 だから、シルキー殿下は第一王子殿下なのにも関わらず王位継承からは一番遠いお方とされていると噂されている。

 ユースフェリア殿下を利用してまでシルキー殿下に近づきたいという理由が理解できなかった。


「あんたは知らないだろうけど、シルキー様こそがこの国の王位継承者なのよっ!だからシルキー様は私のものよ!」


「……ユースフェリア殿下を利用する必要はなかったのではないでしょうか?」


 アンナライラ嬢の言っていることを上手く理解することができない。

 シルキー殿下が王位継承者だから、シルキー殿下がアンナライラ嬢のもの?

 シルキー殿下に婚約者がいるという話をきいたことはない。それに、シルキー殿下が王位継承者だという確信はどこから来ているのだろうか。


「シルキー様は隠しキャラなの。シルキー様に会うためにはユースフェリアの好感度を最大にまであげた上で、ユースフェリア様の口から猫の姿になったシルキー様の話を聞く必要があるのよ。だから、あんたはユースフェリア様の好感度を上げるために邪魔だったのよ。理解できたかしら?」


「……そのため、だけに……?」


 アンナライラ様の思考が私にはよくわからなかった。

 だいたいシルキー殿下が隠しキャラというのはどういうことなのだろうか?

 確かにシルキー殿下は表舞台に顔を出さないから貴族たちからはいないように思われているが、それが隠しキャラということなのだろうか?

 それに、シルキー殿下に会うためにはユースフェリア殿下からシルキー殿下の話を聞く必要がある?その言い方だと、ユースフェリア殿下に聞かなくても、アンナライラ嬢はシルキー殿下の存在を知っていたと思われる。わざわざ、ユースフェリア殿下の口からシルキー殿下の話を聞く必要などあったのだろうか。

 

「だって、私はこの世界のヒロインだもの。ヒロインはこの世界で最高のものを手に入れなければならないのよ。そのために私は努力をしたの。私以外はみんな私を輝かせるためのコマなのよ。」


 やはりアンナライラ様の言っていることが全く理解できそうにない。

 この世界のヒロインというのはどういうことなのだろうか。


「……アンナライラ嬢がおっしゃりたいことが私にはよくわかりません。アンナライラ様は王妃殿下になりたいのですか?」


「ええ。そうよ。ヒロインである私にこそ王妃という地位は相応しいの。」


「シルキー殿下はアンナライラ様が王妃になるのに必要ということでしょうか?」


「そうよ。シルキー様が次期国王になるのですもの。」


「では、シルキー殿下のことはお好きなわけではないのですか?」


 私はアンナライラ様に次々と質問を投げかける。


「そうねぇ。見た目は好きよ。性格はゲーム通りなら好きね。」


 ゲーム通りなら……?

 それはどういうことだろうか。

 ゲームというのは遊びのことだとは思うのだけれども。アンナライラ様はシルキー殿下と遊んだことがある、という事だろうか?

 

「……ゲーム通りというのは良くわかりませんが、アンナライラ様はなぜ王妃になりたいのですか?」


 私はユースフェリア殿下の婚約者として次期王妃候補として教育を受けてきた。

 王妃としての立ち居振る舞いや日頃の心がけなど、何年もかけて教育を受けて来たのだ。

 失礼ながらアンナライラ嬢は、王妃として相応しいとは思えない。

 アンナライラ様は他人を気遣うということを知らないように見受けられるのだ。


「なぜ?私がヒロインだからよ。女性として一番地位の高い王妃になるのが相応しいからよ。当たり前のことを聞かないでくれる?」


「……王妃になったら何をなさるのですか?」


 ヒロインとはなんなのだろうか。

 物語のヒロインは知っているがそれは本の中だけでのものだと思っている。

 現実にはヒロインなんてものは存在しない。

 アンナライラ様は現実と物語の区別がついていないのでしょうか。それとも、ヒロインには別の意味があるのでしょうか。

 アンナライラ様と会話をしていると疑問ばかりが浮かんできます。


「王妃になったらなんて決まっているわっ!自由を満喫するのよ。美味しい物を食べて、美しいものを愛でて、金銀財宝に囲まれながら優雅に暮らすのよ。」


 アンナライラ様は目に光を浮かべながら語りだした。


「……失礼ながらアンナライラ様。王妃になったとしても、自由は満喫できないかと思います。美味しい物は食べることが出来るでしょう。美しい者も手に入れることができるでしょう。金銀財宝も程度によっては手に入れることができることでしょう。ですが、王妃というのはこの国の女性の代表なのです。民の見本となる振舞いをなさらなければなりません。民に寄り添いながら、国王陛下を助け、政治をおこない貧しいものにも施しを与える。それが王妃の役目です。」


 アンナライラ様は王妃という肩書になにを夢見ているのだろうか。

 王妃になるということは自由はないと同じこと。

 日々の行いがすべて民に筒抜けになるので日々の行いには細心の注意を払うことが必要だ。

 

「それはあんたの思う王妃像でしょう?私は私だけの王妃になるわ。」


「それでは民はアンナライラ様についていきません。民からの暴動が起こりかねません。」


「そんなの私に歯向かったものは全て処刑すればいいだけの話よ。だって、私は王妃になるのだもの。」


 アンナライラ様はそう言って仄暗く笑った。

 その笑みにゾッとしたものを感じた。

 アンナライラ様を絶対に王妃にしてはいけないと、私の中で警告音がなった。





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