断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚

第1話



「アマリア様。酷いです。私が何をしたと言うんですかっ。なんで私にこんな酷いことをするんですかっ。」


 甘ったるいピンクの髪を風になびかせて、アンナライラは私に詰め寄ってきた。

 

 むしろ、私が何をしたというのか聞きたいところだ。


「……私にはあずかり知れぬことです。アンナライラ様はなにか勘違いなされているようですわ。」


「そんなわけありませんっ!アマリア様でしょう!私が教科書を家に忘れるように仕向けたのはっ!!」


「……失礼ですが、それはアンナライラ様の不注意では?」


 私を詰め寄るアンナライラ様の言葉に私はため息をついた。

 

 なぜ、家に教科書を忘れてきたことを私に詰め寄るのでしょうか。とても不思議でなりません。

 

「いいえ。アマリア様が私に呪いをかけたんです!絶対そうに決まっています!!」


 ……呪いって。アンナライラ様は呪いというものが本当にあるかご存知なのでしょうか。

 

 むしろ、教科書を家に忘れてくるだなんてあまりにも稚拙な呪いなどかけるくらいなら別のもっと強力な呪いをかけるでしょう。

 

「……勝手になさい。」


 私はアンナライラ様に呆れて背を向けて歩き出した。

 

「私が、アマリア様の婚約者のユースフェリア王子と親しいから嫉妬しているんですよね。それなら私と正々堂々と勝負してくださいっ!こんな姑息なやり方卑怯です!アマリア様はほんとうに悪役令嬢なんですね!」


 アンナライラ様が後ろで何か言っているが私は気にしないことにした。

 

 気にしていたらキリがないからだ。




☆☆☆☆☆






 私はアマリア。アマリア・オフィーリエ。オフィーリエ侯爵家の令嬢である。

 

 婚約者は同い年のユースフェリア王子。

 

 つまり、私は未来の王子妃である。その地位を狙っている女性は多い。アンナライラ様もその一人。

 

 いや、アンナライラ様はそれ以上に質が悪い。

 

 アンナライラ様は失礼ながら男爵家の養女だ。田舎の孤児院を訪れたメンフィス男爵が、孤児院にいるアンナライラ様を見て、一年前に亡くなった自分の娘とそっくりなピンク色の髪を気に入って養女に迎え入れたのだ。

 

 貴族の血が一滴も入っていないアンナライラ様を王家が迎え入れるかと言ったらとても怪しいところである。

 

 ですが、なぜか私の婚約者であるユースフェリア王子はアンナライラ様をこれ以上ないほどに慕っています。ユースフェリア王子のご友人たちも同じようにアンナライラ様をこれ以上ないほどに可愛がり、私をアンナライラ様から遠ざけようとしています。

 

 正直、血筋のことを置いておいても、アンナライラ様は王子妃として相応しくないと思うのですが、彼らにはそれがわからないようです。

 

 私は特にユースフェリア王子の妃になりたいわけでもなく、ただ婚約者として王家から打診され、それを我がオフィーリエ侯爵家が受けたにすぎません。

 

 権力にも興味は全くありません。

 

 だからといって、このままだと私のあずかり知らぬところででっち上げられた罪が増えて行き、そのうち断罪されることが目に見えてわかっているのに、大人しくしているわけにもいかない。

 

 だから、私は決心しました。

 

 侯爵令嬢ではなく、市井で一般市民として暮らそうと。

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