永遠の夏、あります
ムラサキハルカ
プロローグ
燦々と差す夏の日差しの下。向日葵畑に挟まれた土の道に麦藁帽子をかぶった少女が立っている。白地のシャツに水色のリボン、それにチェックの短いスカートを合わせたセーラー服姿の少女は、薄っすらとした笑みを称えていた。それを幼い白はぼんやりを見返している。
――おぼえているのはこれだけ。その後になにがあったのかは記憶にない。もしかしたら一緒に遊んだのかもしれないし、ただただ見つめあって別れたのかもしれなかった(もしくは、白が一方的に見ていただけで、向こうは微塵も意識していなかった可能性すらある)。実態がなんであれ、たしかに頭の中に焼きついている。
物心がつきある程度の理性を得たことで疑問が表面化したあと、白は両親(おもに母)に何度か聞いてみた。こういう少女に心当たりはないかと、いったような具合に。おそらく、白の生活圏で該当しそうな場所といえば、母方の実家くらいなものだったから、多少なりとも期待はしていたのだが、
「わかんないな。あの辺りだと年頃の女の子でも麦藁帽子くらいみんな被るし、向日葵畑もそれなりにあるから。今度、帰った時に聞いてみたら?」
そんな答えが返ってきた。そりゃそうだ、と白は思った。麦藁帽子の件こそ、今住む街で若者が被っているのをあまり見たことがないゆえ、盲点であったものの、件の光景の中にある他の要素自体は、母の実家の周辺ではありふれているものであったため、特定するとなるとなかなか難しいだろう。加えて幼い頃の記憶であるという点から、具体的に何年前の出来事であるというのも特定しにくく、なにより少女は今は同じ格好はしていないだろうという点が捜索の難しさをあらわしていた。以上の条件から、年上に手当たり次第に声をかける必要があるが、下手をすれば向こうもおぼえていない可能性もある。
果たしてみつかるだろう? という不安に苛まれつつも、長期休みで帰省する度、母の実家の近所で心当たりを探してみたが、今のところみつからないままである。
「シロは仮にその人に会えたとして、どうしたいのさ?」
ある日、この話についての愚痴を幼なじみの
「どうしたい、か……」
考えてもいなかった、と白は思う。そして、よくよく自らの考えを振り返ってみれば、会いたい、というわけですらないかもしれない。
「ただ、見たいだけなのかもしれない。だから、会ってどうするとかは……たぶん、ない」
「なにそれ」
意味わかんない。薄っすらと染めた自らの髪を撫でつけながら、そんなことを呟いてみせる莉花に対して、白自身も、俺もよくわからん、と応じた。。
そのかたわら、白の頭の片隅には自らの願望が二度と満たされないのだという事実がより強く刻まれた。仮に達成したいのが、記憶の中にあるものと同じ光景をもう一度見ることであるのならば、もはや何年も経ってしまった今となっては、実現不可能であるのは火を見るよりも明らかだった。人が成長を避けられない以上、白が幼い頃、あの時のセーラー服を着ていた少女は既に学生ではないのだから。そして、考えているこの瞬間もまた、あの時点の麦藁帽子の少女は遠ざかっているのだと。
もう見ることのできない景色。知性をつけた白はそのような結論を出しつつも、だからこそ、求め続けていた。叶わないこと知りながらも、わずかな手がかりを探しては、裏切られ、それでも探し続けた。
そうして何年も月日が徒に過ぎ去っていき……
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