即答の「ありがとう」

 その夜、私はふかふかのベッドに体を預けていた。ドライヤーをかけたばかりの髪が横に広がった。天井にはただ白いばかりのタイルが広がる。


「ありがとう、か」


 告白の結果、先生の返事は「ありがとう」だった。それも動揺するでもなく焦るでもなく顔を赤らめるでもなく、即答の「ありがとう」だった。


 ……って、ありがとうってどっちなの? 「僕も君のことが好きだよ」なのか、それとも「気持ちは嬉しいけど」なのか……。


 結局、「ありがとう」って言われたきり話は別の話題へと移り、いつものように家に送ってもらってお別れとなってしまった。


「はぐらかされたのかなぁ」


 それとも本気にされなかった? 告白の仕方がまずかった?


 『先生はどんな女性が好みなんですか?』からの『私じゃダメですか?』からのダメ押しの『私、先生のことが好きだよ』


 ……絶対通じると思うんだけどなぁ。でも、ためらいなくにっこり笑顔で「ありがとう」って。「ありがとう」って。全然動じてないじゃん。


 先生モテるからなぁ。心が動く告白にならなかったのかもしれない。


 お気に入りの脱力系クマの枕をぎゅっと抱く。


 ラブレターっぽい封筒を先生が持っているのを何度も見たことがあるし、教室では毎日先生の噂話でいっぱいだ。


 最後には私が毎日先生に送り迎えしてもらってるってうらやましがられるのがちょっと、ほんのちょっと嬉しいけど。


 クマに顔をうずめた。


 ってか「ありがとう」ってなに? YesかNoかハッキリしてくれないとずっと気持ちが落ち着かないじゃん。明日も先生に会うのに。


 相変わらず鼓動が早い。なんだか呼吸も浅いような。


「……もう寝よう」


 「電気を消して」と呼びかけると声に反応して自動的に電気が消える。私はうやむやな気持ちのままにとにかく布団に潜り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る