秋に惚ける

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 月岡つきおかの眠り姫に、本を音読してやってほしい。

 元々、進学校である三木本みきもと高校の教師に、大学の学部を決めかねていると相談したのだ。そうしたら、月岡学園の図書館を推薦された。

 月岡は、女子のための療養施設である。しかし、世間はその事実を忘れがちである。もう一方の特徴、学問や芸術などに秀でた生徒が居るというそのことのみに着目しがちである。

 生徒は未成年者ばかりであるが、一点特化した者も多く、学校の図書館には大学レベルの書籍も多くある。

 田舎のことだから、容易に大学見学へは出掛けられない。参考に、本のページでも繰ってこいということらしい。

 月岡は開かれていて、三木高生とのコミュニケーションもままある。生徒同士が交際していることもあるらしい。まあ、自分には関係ないことだろうが。

 ところがである。来校者の名札を首からかけて、専門書を物色していたところ、教員らしき人に声をかけられたのだ。

「あなた、本は好きでしょう。わざわざの図書館に居るのだもの」

 戸惑っているうちに、肘を引かれて廊下へと連れて行かれる。

「あのね、本を読んでほしいの。声に出してね」

 それが、菅沼すがぬまけあきとの出会いのきっかけだった。

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