風雲が呼ぶのは 九
それに続いてマリーとリオン、コヒョも。やや遅れて羅彩女。ただ、戦いでは素早い動きを見せる源龍だが、この場面においてはなんだか動きが鈍い。
それを見て、香澄は源龍に一緒に跪くことをふたたびうながす。
「……」
源龍は鈍い動きで膝を折り、皆と一緒に跪く。
(こういうの苦手なんだよなあ)
(子供じゃあるまいし)
源龍の渋々さを見て、羅彩女は内心苦笑する。
空は晴れ。雲が思い思いに青い空を泳ぎ。鳥のさえずりが耳をなで、そよ風が頬を撫でる。
「まあまあ。ここではなんじゃから、外の庵までゆこうか」
元煥はくるりと背を向け、つかつか歩き出し。側近の僧が他の僧にそれぞれの持ち場に戻るよう促し、ばらけてゆく。
一同は立ち上がり、元煥の後をついてゆく。
異変に対しやけに冷静な僧たちを見て、羅彩女が思わず小声でつぶやく。
「落ち着いたもんだねえ」
「仏道修行をする者が、何かにつけていちいち驚いていてはいかんわい」
「あらやだ、聞こえてたの」
「地獄耳だな」
源龍は貴志が驚くようなことをあっさり言ってのける。
「はっはっは。浄土の耳といってほしいところじゃ」
「ふん、あいかわらず食えねえ爺さんだぜ」
「お褒めにあずかり光栄じゃ」
元煥は闊達に笑い。源龍も源龍で、悪い気はせず。むしろ楽しげであった。
一同は石窟からしばらく歩いて、寺坊の中にいた。
ここ慶群の光善寺には石造りの石塔もあった、慶群は良質な花崗岩の産地であり、その花崗岩を用いて建造された建物も多かった。
そこからさらに歩いて、門をくぐり境内を出れば、来客用の庵があった。この光善寺は基本的に男女別々に分かれ、顔を合わせることもない。というところだ。それゆえ男女入り混じる集団が境内にいるのは、禁忌破りなことでもあった。
「法主がわしでよかったのう。でなければ、何をされたかわからんぞ」
「言ってくれるじゃねえか。オレたちに手を出したら、骨が折れるじゃすまねえぞ」
「おお、怖い怖い」
と、怖くなさそうに元煥は言う。
ともあれ、一同庵に入り。円座で座り。貴志はこれまでのいきさつを話した。
「人海の国の物語とな?」
「え、ご存知ありませんか?」
「いや、知らぬなあ」
貴志は絶句した。人海の国の物語は広く読まれており、教養豊かな元煥が知らぬはずがない。
とはいえ、察しのよい元煥であった。
「話から察するに……。滅ぼされて、忘れ去られてしまったということか。酷いことじゃが」
鬼どもの無分別な暴力は、人海の国を滅ぼした……。
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